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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第11ステージ】勤勉なドイツ人スプリンター、パスカル・アッカーマンが4年ぶりのステージ優勝 ゲイガンハート落車リタイアでマリア・ローザ戦線にも変化
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介パスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ)
グランツールの総合成績にフォーカスするチームゆえ、いつでもみんなが自分のために走ってくれるわけではないと理解している。だから数少ないチャンスに賭けていた。前日の追走失敗を受け、チーム全体がスプリントへ気持ちを向けてくれたことがうれしかった。ジロ・デ・イタリア4年ぶりのステージ優勝は、勝負強さを取り戻し、完全復活を示すものになった。
ジロ第11ステージは逃げをフィニッシュ前5kmで捕まえて、最後はスプリント決着。相次ぐ落車で混乱する中、前線に残った選手たちによる勝負は、パスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ)がモノに。ジロ通算3勝目、今季の初白星にもなった。
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「昨年、尾てい骨を骨折してからイメージ通りの走りができていなかった。やっとうまくいったよ。グランツールで勝つのは3年ぶり(2020年のブエルタ・ア・エスパーニャ以来)。今年こそ勝ちたいと思って全力で走ってきたんだ。本当にうれしいよ!」(パスカル・アッカーマン)
プロトンを惑わせている雨はイタリア各地で猛威を振るい、モータースポーツのF1エミリア・ロマーニャGPは中止が決まった。大洪水に見舞われている街もあり、事態は深刻である。ジロはレースこそ続いているが、直接雨に打たれている選手たちは大なり小なり影響を受けている。第11ステージに至っては、6人が新型コロナウイルス感染で、2人がインフルエンザまたは何らかのウイルス感染で出走を取りやめ。とりわけスーダル・クイックステップは、レムコ・エヴェネプールに続いてマティア・カッタネオ、ヨセフ・チェルニー、ヤン・ヒルト、ルイス・フェルヴァーケも大会を去り、出走できるのは3人になってしまった。
今大会最長219kmのレースは、リアルスタートから2kmでアレクサンダー・コニシェフ(コラテック セライタリア)、ディエゴ・セビーリャ(エオーロ・コメタ)、トマ・シャンピオン(コフィディス)、フィリッポ・マーリ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)が集団からの抜け出しに成功。そこへ、ローレンス・レックス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)とヴェリコ・ストイニッチ(コラテック セライタリア)が加わって、6人逃げとなる。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第11ステージ|Cycle*2023
前日のステージで逃げ切りを許したことを受け、スプリント狙いのトレック・セガフレードやアスタナ・カザクスタン チーム、モビスター チームが早々に集団コントロールを開始。タイム差を2~3分にとどめつつ進んでいく。
62.1km地点に設置された1回目の中間スプリントポイントは、ストイニッチが1位通過。少しおいてメイン集団もやってきて、マリア・チクラミーノを着るジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)がマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)に先着。それぞれ全体7位と8位の通過で、得点を積み重ねている。
不穏さは突然訪れる。2カ所の3級山岳を越え、緩やかな下りに入ったところで集団前方を走っていたアレッサンドロ・コーヴィ(UAEチームエミレーツ)が落車。雨の影響で濡れていた路面にタイヤをとられてしまった。すると、これを避けきれなかった選手が次々と地面に叩きつけられてしまう。なんと、個人総合のトップ3すべてが巻き込まれた。
マリア・ローザを着るゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)はすぐにバイクに戻り、個人総合2位のプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)もクーン・ボウマンからバイクを借りて再出発。ダメージが最も大きかったのは、同3位のテイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ)。その場で倒れてしまい、動くことができない。誰がどう見ても戦線復帰が難しい状態である。ここで無念のリタイアとなった。
「彼がリタイアしたと聞いたときはものすごいショックだった。私はコーヴィの上に落ちるような感じだったので幸いけがはなく、すぐに集団へ戻ることができた。正直、自分のことで精いっぱいで、脇でチームメートがどうなっているかまで把握できていなかったんだ。改めて、ジロが決して簡単ではないことを認識させてもらったよ」(ゲラント・トーマス)
逃げの選手たちはリードを減らしつつも先行を続け、169.7km地点に置かれた2回目の中間スプリントポイントでストイニッチが再び1位通過。この日最後の上りである4級山岳でまたまたストイニッチがトップを獲ったあとに、レックスが追いついて先頭は2人に。この頃にはメイン集団もアクティブになって、チーム ジェイコ・アルウラーのペースアップによってステージ優勝候補と目されたカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)が脱落。マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)も一瞬ピンチに陥ったが、その後の下りでアシストたちとともに集団復帰している。
終盤に入ると、下り基調のレイアウトが関係して一気にスピードアップ。逃げのリードが数十秒まで減ると、レックスがストイニッチを引き離して独走へ。逃げ切りのわずかな可能性に賭ける。しかし、複数のチームが代わる代わる牽引を行うメイン集団の勢いには勝てず、残り5kmで長かった逃げは終わりを迎えた。
「誰もが困難な気象条件に苦しめられている中、僕は何の不安もなく走れている。クラシック向きのフィジカルが関係しているんじゃないかな。脚の状態も良いし、今日の逃げは自信になった。Twitter投票では僕を敢闘賞に選んでほしいね。目標であるステージ優勝へ、モチベーションが大いに高まるはずだよ」(ローレンス・レックス)
ステージ優勝はスプリントにゆだねられた。チーム単位での主導権争いは、残り1kmでトレック・セガフレードが前を奪って最終局面へ。残り900mでライアン・ギボンズ(UAEチームエミレーツ)が先頭へ上がるが、残り500mの最終コーナーで膨らんだ隙に再びトレック・セガフレードが前へ。
写真判定にもちこまれたフィニッシュの瞬間
この流れからピーダスンが早めに仕掛けたが、番手につけたカヴェンディッシュがフィニッシュ前150mで先頭に躍り出る。その両サイドからはアッカーマンとミランが猛然と加速。残り50mでカヴェンディッシュをパスすると、ほぼ同時にフィニッシュラインに到達した。
写真判定に持ち込まれた両者の争いは、フィニッシュ直後から勝利を確信していたアッカーマンに軍配。ジロでは4年ぶり、キャリア通算39個目の勝利だ。今大会はジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)で個人総合を狙うチーム事情もあり、アシストとしての仕事もこなしながらスプリントチャンスをうかがってきた。この勝利で、総合とスプリントを両立するチームスタンスが奏功していることを証明してみせた。
「グランツールは総合系ライダーがメインだから、僕のようなスプリンターへのサポートが限定されることは理解しているよ。でも今日はみんなが僕のために走ってくれたんだ。特にライアン(ギボンズ)のリードアウトは完璧だったね。きっと次のスプリントステージも今日のようにみんなが助けてくれると思う」(アッカーマン)
勝利を量産していたボーラ・ハンスグローエ時代のように、リードアウトマンが充実しているわけではない。それでも、限られたリソースで勝てることをアピール。群雄割拠のスプリント戦線に、大物が帰ってきた。
「家族全員がイタリアまで来てくれたんだ。みんなが見守る中で勝てて僕は幸せ者だよ!」(アッカーマン)
混戦のスプリントは、勝てずとも自信をみなぎらせるには十分だったよう。2位のミランも、3位のカヴェンディッシュも、レース後には声を弾ませた。
「負けたけど、最後の数百メートルは僕が一番速かったんじゃないかと思う。それが分かっただけでも大きな収穫だよ。マリア・チクラミーノを11日間着続けているけど、それに恥じない走りを心掛けるよ」(ジョナサン・ミラン)
「スプリントに持ち込むためのチーム戦術は完成に近づいているよ。今日は純粋に僕の負け。みんなはよくやってくれた。不安なんか一切ないよ。このままいけば目標を達成できることは経験上分かっているからね」(マーク・カヴェンディッシュ)
スプリント機運が高まっていた後方では、残り1.6kmで落車が発生。これで多くの選手が足止めとなったが、フィニッシュ前3km以内でのトラブルに対する救済措置でステージ124位までがトップと同タイム扱いに。
個人総合上位陣は、リタイアしたゲイガンハートのほか、8位でスタートしていたパヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)も負傷し大きく遅れを喫した。これによって、首位トーマス、2位ログリッチに続いてアルメイダが22秒差の3位に上がっている。
レース後に握手をかわすトーマスとログリッチ
「昨日、チーム内に強い選手がそろっていることを確認し合ったばかりだったんだ。その矢先に事態は急転してしまったね。だけど、これもサイクリングだよ。起きている事象を受け入れ、ポジティブに取り組めるかどうかにかかっている。ジロはチームの夢なんだ。私たちにはまだまだやるべき仕事があるよ」(トーマス)
救急搬送されたゲイガンハートは大腿骨転子部骨折との診断。また、前走者のタイヤに接触し、コントロールを失ったまま道路標識とコンクリート壁にぶつかったオスカル・ロドリゲス(モビスター チーム)も負傷リタイア。11ステージを終えた時点での離脱者は36人を数え、プロトンには140人しか残っていない状況となっている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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