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サイクル ロードレース コラム 2023年5月17日

【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第10ステージ】マグナス・コルトがグランツールすべてでのステージ優勝を達成 ゲラント・トーマスは新たなレースリーダーとしての責務に向き合う

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)

マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)

激動の第1週を経て、ジロ一行は次なる1週間へ。降り続いた雨やプロトン内に蔓延する新型コロナウイルスの恐怖にすり減った心と体は、休息日のうちに癒すことができただろうか。

少なからず、観る者にとっては“レムコ・ショック”を拭えないまま第2週へ入ってしまう感は否めない。第1ステージから鮮烈な走りを見せ、余裕をもってマリア・ローザを一度手放し、第9ステージでそれを取り戻して、次の週から盤石の態勢へ持っていこうとしていたことだろう。レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)は、休息日にチームを離れ帰国。ベルギーまでの道中で症状が悪化し、帰宅後に行った再検査でも陽性。「ツール・ド・フランスへの出場はあるのか?」と、気の早い話をぶつけている者がいるようだが、まずは10日間完全休養し、その後心臓検査を行って復帰へのプログラムを決めていくという。

レースは続く。大会中盤戦の始まりを告げる第10ステージは、強い雨の中を突き進んだ3人の逃げ切り。最後はマグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)が競り合いを制して、ジロでは初めてのステージ優勝。これで、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャと合わせてすべてのグランツールで勝利を挙げた106人目の選手となった。

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「すべてのグランツールで勝つことを長年夢見てきた。今年の目標でもあったんだ。ジロは昨年初めて出たのだけど、ステージ優勝を逃していて悔しかった。2回目の挑戦で成功できてとてつもなくハッピーだ!」(マグナス・コルト)

第2週の始まりも、いささか慌ただしい。週の始まりも雨。時間とともに強まる状況に、第10ステージの前半で通過する2級山岳ラディーチ峠の危険性を指摘する声が上がり始めた。チーム監督、選手代表、CPA(プロサイクリスト協会)が主催者に掛け合い、柔軟な対応を求めたものの、予定が変わることはなくレースは敢行された。

思いがけない形で個人総合トップに立ったゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)は、マリア・ローザを着る者としてこのアクションでリーダーシップをとる選択肢もあった。しかし、あえて話し合いには加わらなかった。

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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第10ステージ|Cycle*2023

「大事な意見だとは思ったよ。コース短縮が決まれば、もちろんそれに従うつもりだった。でも、個人的にはレースをしっかり走り切りたいという思いがあって、短縮に賛成かと言われると必ずしもそうではなかったんだ。余計なことは考えないように努めたよ」(ゲラント・トーマス)

かくして予定通りに始まったレースは、リアルスタートからアタックの応酬。レムコを失ったスーダル・クイックステップ勢も果敢に動いている。このステージだけで未出走は9人。理由は選手によってさまざまだが、同時にチーム戦術にも変化が出ているのだろう。思惑が交錯する。

20kmほど進んだところでデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)とアレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー)が抜け出した。第1週からたびたび逃げにトライし、ともにステージ2位に入っている。しばらくして、コルトとダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ)が加わって、4人の先頭グループが形成された。

1回目の中間スプリントポイントはバイスが1位通過し、その後やってきたメイン集団ではマリア・チクラミーノを着るジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)が先着。全体の5位通過としている。かの2級山岳ラディーチ峠もバイスが一番に頂上へ。マリア・アッズーラ争いを優位にするべく、得点を重ねている。

その頃メイン集団では、選手たちがチームカーまで下がってレインジャケットやグローブの交換に勤しんでいた。気温10度を下回る寒さにみんな悪戦苦闘。イネオス・グレナディアーズが牽引を本格化させるとその趣きは顕著となり、個人総合6位でスタートしていたアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)までもが遅れ始める。ウラソフはその後、集団に戻ることができずにリタイアを余儀なくされている。

頂上通過後の下りでは、誰もが慎重にバイクをコントロールする中、ミランやダミアーノ・カルーゾ、アンドレア・パスクアロンのバーレーン・ヴィクトリアス勢に、パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)が加わって集団に対して数十秒のリードを得る。そこへロレンツォ・ロータ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)も加わり、先を急ぐ機運が高まったが、イネオス・グレナディアーズが冷静に対処し逃げ続けることを許さない。ミランらは集団へ戻って、リードするのは逃げメンバーだけの状況に。

談笑しながら走るトーマスとログリッチ

談笑しながら走るトーマスとログリッチ

山岳ポイント収集を終えたバイスが後ろへ下がり、逃げ続けるのは3人。最大で4分30秒ほどあったタイム差は徐々に減っていき、フィニッシュまで20kmを残した時点で約1分差。セオリーからすれば、メイン集団が有利である。しかし、集団ではダウンヒル区間で落車が相次ぎ、各所で分断も発生。人数を大幅に減らしていたことから、牽引できるチームが限られてしまった。イネオス・グレナディアーズも、トーマスのマリア・ローザが脅かされない限りはコントロールに加わらない。残り10kmで45秒差となったが、逃げる3人はそれ以上貯金を取り崩すことはなく、むしろ差を広げて最終局面へと突入した。

「逃げている間はデマルキの強さに助けられた。最後の1時間はパワーを保てず、どこかで脚が止まるのではないかとヒヤヒヤだったよ」(コルト)

逃げ切りが決定的になり、ステージ優勝をかけた駆け引きへ。残り1.6kmでジーがアタックして動き出すと、最終1kmのフラムルージュ通過と同時にコルトが追いつく。対応が遅れていたデマルキも何とか戻って、勝負は3人のままスプリントへ。こうなれば、スプリンター並みの加速と勝負強さを兼ね備えるコルトのもの。残り150mで前へ出ると、2人を寄せ付けず一番にフィニッシュラインを駆け抜けた。

「今までのキャリアで最も大変なステージだったかもしれない。それを勝ったんだからちょっと信じられないね」(コルト)

2年前のブエルタで3勝を挙げ、昨年のツールではたびたびの逃げで魅せた。すっかり世界中のファンを虜にした30歳は、これでグランツールすべてで勝ち星を挙げた。今大会では、同じデンマーク人ライダーのマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)も全グランツール勝利を達成しており、「北欧の自転車王国ここにあり!」を一層アピールしている。

「彼らはデンマーク自転車界の歴史です。マッズ、マグナスと、偉大な記録を残すことは同じデンマーク人として本当に誇らしい。マグナスがすべてのグランツールで勝ちたいと思っていたことは知っていましたし、個人的にもサポートできればと考えていました。彼が逃げれば勝つチャンスがめぐってくるのは分かっていましたが、それがまさに今日でしたね」(EFエデュケーション・イージーポスト スポーツディレクター、マッティ・ブレシェル氏)

コルトの歓喜から51秒後、メイン集団がフィニッシュへとやってきた。ここに残ったのは40人ほど。先着しステージ4位としたピーダスンは、真っ先にコルトのもとへ向かい喜びを共有した。

そして個人総合上位陣も、数秒遅れたアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム)と下りで落車したジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)以外はきっちり集団内でレースを完了。マリア・ローザ初日のトーマスも落ち着いて走り切った。

「思いがけずマリア・ローザが手に入ったけど、今日の天気では楽しみようがなかったね。でも、レースとジャージに敬意を表したくて走ることに集中したんだ。レムコがいなくなって残念だけど、誰かがマリア・ローザを着ないといけない。それが私である以上は、責任を果たしたいと思った。ジャージがあることで、優位にレースを進められる場面も多くなるのではないかな」(トーマス)

レムコが大会を去ったことで、プロトンのムードに変化が生まれていることも認めている。

マリア・ローザで表彰台にのぼるゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)

マリア・ローザで表彰台にのぼるゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)

「みんながレムコと(プリモシュ)ログリッチのことばかり話していたからね。何なら、彼らがバチバチやるのをうまく利用しようと考えていた選手は多かったと思うよ」(トーマス)

興味は、トーマスとプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)の戦いぶりへと移りつつある。拠点のモナコでは普段から家族ぐるみで付き合い、ユーモアに満ちた両者の機転は心を通わせるまでにそう時間はかからなかったという。そんな2人が、バラ色をかけて正面から相克しようとしている。

「子供同士ではしょっちゅう遊んでいるし、互いにリスペクトしあっている。レースになればライバルだけど、絆まで奪われることはないからね」(トーマス)

週の始まりとともに、マリア・ローザをめぐる争いはリスタートしている。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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