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サイクル ロードレース コラム 2023年5月15日

【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第9ステージ】ジロに激震! 個人TT勝利でマリア・ローザから一転、新型コロナウイルス感染でレムコ・エヴェネプールがリタイア

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)

レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)

衝撃の報は、レース終了から5時間ほど経ったところでやってきた。レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が新型コロナウイルス感染によりジロ・デ・イタリアをリタイア。第9ステージの35km個人タイムトライアルでは、ペース配分をミスしながら、巧みなリカバリーでギリギリの勝利を収めていた。同時に、一度手放していたマリア・ローザに再び袖を通し、第2週以降へ地盤が固まってきた矢先だった。

「レースを離れることになり本当に残念。チームプロトコルの一環として受けた定期検査で、新型コロナウイルスの陽性反応が出た。ここまでの経験は特別なもので、この先2週間のレースを楽しみにしていた。ジロに向けて多くのサポートを施してくれたスタッフとライダーには感謝してもしきれない。これからの2週間はみんなの応援に回るよ」(レムコ・エヴェネプール)

昨冬からこのジロをターゲットにすると宣言し、年が明けてからはレース数を制限。調整に多くの日数を充て、リエージュ~バストーニュ~リエージュでの驚異の逃げ切りさえも「ジロの準備」と位置づけていた。大会に入ってからは落車や日々続く雨がストレスになったりもしたが、準備そのものは万全だった。それだけに、こんな形で大会を去る悲しさやショックはわれわれの想像に難くない。彼はロードレース界の未来であり、希望だ。彼のショックは、業界の、そしてわれわれのショックでもある。

マリア・ローザ争いにおける大会前半のヤマ場と目された35kmの個人タイムトライアル。今大会の個人TT総距離が73.2kmだから、おおよそ半分をこのステージで走ることになる。第1週の最後に設定されたことを踏まえれば、残る2週間の趨勢を左右する1日であることはイメージができる。高低の変化がほとんどない、スペシャリスト向けのレイアウトは、今回のTT比重の高さに惹かれた総合系ライダーにとって取りこぼしの許されないステージでもあった。

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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第9ステージ|Cycle*2023

ここ数日に違わず、この日も雨。当初「アベレージスピードは52~56kmに達するのではないか」としていた主催者予想は、荒天とウェットなロードコンディションにより非現実的なものに。順位にかかわらない前半スタート組の選手たちは、できるだけセーフティーに走ることを心掛けた。

個人総合で下位の選手から順にコースへと繰り出し、10番目に出走した新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は45分19秒、アベレージスピード46.341kmで走り終えた。無理に攻めることはせずとも、前走者をパスしたのだからなかなかの走りだと言えよう。

半数以上が走り出した頃から、好タイムが出始める。この種目のオランダ王者であるバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)が42分23秒でトップタイムを更新すると、同じくフランス王者のブルーノ・アルミライル(グルパマ・エフデジ)がモレマを大きく上回る41分32秒で、アベレージスピード50km超え一番乗り。次に出走したシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ)もアルミライルとほぼ同ペースを刻み、終盤にスピードアップ。ステージ優勝候補がマークした41分28秒が、後ろに控える個人総合上位陣のターゲットタイムになった。

それまで1分間隔だったスタートは、個人総合15位までの選手からは3分おきに。このあたりの選手たちはさすがにしっかりとまとめてきて、同9位のダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)はキュングから38秒差。同8位のアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)も26秒差で終える。

このステージの水準を一気に高めたのは、テイオ・ゲイガンハートゲラント・トーマスのイネオス・グレナディアーズ勢だった。先に出発したゲイガンハートは、13km、23.1km、29km各地点に置かれた中間計測ですべてトップタイム。最後までペースを維持して、フィニッシュではキュングを2秒上回る41分26秒。

トーマスもゲイガンハートとほぼ同じペースを刻むと、第3計測ポイントを過ぎてフィニッシュまでの6kmをさらに追い込む。結果は1秒更新の41分25秒。暫定トップに立った。

TTの走りが期待されたジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)は第1計測から21秒の遅れ。その後もタイムを挽回できないまま進み、最終的に34秒差でのフィニッシュ。

プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)

プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)

いよいよ個人総合トップ3。先陣を切って飛び出したプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)は、第1計測で20秒遅れ。出遅れたかに思われたが、それからはトーマスとのタイム差がほぼ一定で進行。すると第3計測ポイント通過後の最終パートで挽回してみせ、遅れを16秒にとどめる。

そしてレムコ。スタート直後から飛ばして第1計測ではトーマスのタイムを11秒更新。大差の勝利もあるかと思わせたが、第2計測では貯金が2秒まで減ってしまう。第3計測ではトーマス、ゲイガンハートと同タイム。ペースダウンは明白だったが、最終パートで何とか盛り返す。フィニッシュタイムは41分24秒。トーマスのタイムを1秒更新し一番時計ではあったものの、総合タイムを大きく稼ぎ出すところまでは至らなかった。

「第1ステージとは異なり、少し入れ込んでしまった。他選手にプレッシャーをかけるつもりで第1計測までを飛ばしすぎたんだ。とてもベストな戦術だったとは言えないし、自分で自分のタイムトライアルを難しくしてしまったよ。特に第2計測までのペースの落ち込み…それは最悪だった」(エヴェネプール)

辛勝。いや、本来であれば価値あるステージ優勝なのである。ここまでマリア・ローザを着続けてきたアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム)が遅れ、第4ステージ以来となるレースリーダーに返り咲き。勝負どころが待ち受ける第2週以降へ、ライバルに対し優位な情勢であることは確かなのだ。しかし、自身も認めた入れ込みすぎた面やペースの落ち込みは、観る者だけでなくプロトンまでを驚かせてきた彼の姿にはいささかマッチしない。

「数日前のクラッシュ以降、傷口から体液が多く出ていて、ガーゼから染み出てしまうほどなんだ。今日は鼻づまりもあった。身体を絞っているだけに、ここ数日の雨は私にとってマイナスな面が多い。いい加減、晴れた暖かい日が恋しいよ」(エヴェネプール)

レムコがレース後に語った「鼻づまり」(軽い風邪症状に見舞われていることも認めていた)は、後に明らかとなる新型コロナ感染と結びついているものと考えることができる。

ここからが本番であるバラ色の角逐を前に、戦うことなくマリア・ローザを手放す。休息日のうちにチームを離れ、車でベルギーへ帰国するという。なお、スーダル・クイックステップの他選手・スタッフは検査の結果、全員陰性。レースを続行する。

これにより、タイムトライアルを終えて個人総合2位に浮上したトーマスが、休息日明けの第10ステージでリーダーとなる。総合タイム差2秒でログリッチが続き、さらに3秒差でゲイガンハートがつける。

ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)

ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)

「私にとっても、テイオにとっても良いタイムトライアルだった。勝てればもっとうれしかったんだけどね。もちろんチームとしても上々だ。私たちはいま、強い立場にあると思うし、次の2週間でそれが発揮できるんじゃないかと思っている」(ゲラント・トーマス)

レムコが去ることで、第2週からはイネオス・グレナディアーズとユンボ・ヴィスマ、チーム戦術に長ける両者が主導権を争う流れになるだろうか。それは、1日休んでからのお楽しみである。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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