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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第8ステージ】“アイリッシュ・ヤングスター”ベン・ヒーリーが狙って決めた50km独走劇 ログラのアタックでマリア・ローザ争いも形勢が揺らぐ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)
もはや貫録と言えようか。アルデンヌクラシックで輝きを放ったベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)が、ハイスピードで進んだレースで最後の50kmを独走。終盤の急坂では圧倒的な登坂力を見せ、終わってみれば2位に1分49秒差をつけて圧勝。グランツール初勝利は、ブレイクスルーのシーズンを象徴するものとなった。
「アルデンヌクラシック後に10日間休養したから、ジロに臨むのは賭けだと感じていた。でも気分的にはリフレッシュできていたし、実際に今日は勝てるだけの脚があった。独走は僕にとって一番理想とする勝ち方。うまくいって良かったよ」(ベン・ヒーリー)
プロトンはイタリア半島を北上中。前日に続く長距離ステージは、207kmの行程の後半に急坂が連続。最大勾配19%の4級山岳イ・カップッチーニ(登坂距離2.8km、平均勾配7.9%)を上り、フィニッシュ地フォッソンブローネをいったん通過したら、同じく18%の2級山岳モンテ・デッレ・チェザーネ(7.8km、6.5%)へ。残り10kmを切ったところで再びイ・カップッチーニを上ったら、頂上からフィニッシュまでは約6km。最後はフィニッシュめがけてのダウンヒルだ。
前日まで走ってきた選手のうち、ラルス・ファンデンベルフ(グルパマ・エフデジ)とフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)がこのステージの出走を取りやめ。ガンナは前のステージ走行中から体調が悪く、検査の結果、新型コロナウイルス感染が分かった。翌日に控えるタイムトライアルステージやアシストとしての走りに期待が大きかっただけに、自身もチームも痛い離脱となった。
167人でスタートしたレースは、早くからアタックの応酬。なかなか逃げが決まらない中、20人ほどが先行した局面ではマリア・ローザのアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム)みずからチェックに動き、同様にレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)もブリッジを試みるなど、出入りが激しい。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第8ステージ|Cycle*2023
12kmほど進んだところで、ヒーリーを含む4選手が集団から抜け出した。さらに1人を加えて先を急ぐが、メイン集団もペースをを落とさない。5人は15秒程度のリードしか得られないままひたすら踏み続ける。そうしているうちに47.9km地点に設置された1回目の中間スプリントポイントへ到達し、先頭5選手の後にマリア・チクラミーノのジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)が集団の一番手、全体の6位で通過している。
どのチームも逃げに選手を送り込もうと躍起になる中、イタリアチャンピオンジャージのフィリッポ・ザナ(チーム ジェイコ・アルウラー)ら6人が追走パックを組んだところで集団がついに動きを制御。それをすり抜けたワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック)とオスカル・リースビーク(アルペシン・ドゥクーニンク)までが逃げることを許され、スタートから70km近くまで進んだところで、ようやくレース全体が落ち着いた。それからはレースリーダーのチームDSMが集団をコントロールし、逃げる選手たちとの差を5分まで容認した。
休むことなく突き進む先頭の13人は、1回目のイ・カップッチーニへ。この上りの最も勾配の厳しいポイントで早速ヒーリーが動いた。アタック一発で決めてみせると、誰のチェックも許さずその差を広げにかかる。単独で頂上を通過し、直後の下りでも当然後ろは待たない。独走態勢を築いてフォッソンブローネを走り抜けた。
「みんなを驚かせるようなパワーはないけど、高ケイデンスで脚を回し続けるスキルには自信がある。だから最後まで一人で行こうと決めていたんだ」(ヒーリー)
2級の上りも問題なくクリアすると、その後の平坦区間も好ペースを維持。後ろでは追走メンバーが5人に絞られていたが、タイム差は広がる一方。メイン集団とは5分30秒以上の開きがあり、逃げ切りは決定的。大観衆が待つ2回目のイ・カップッチーニは、その強さを誇示する華やかなステージとなった。
「コース脇で待っていてくれたみんなの応援が僕の背中を押してくれた。とても勇気づけられたよ。イタリアのレースはいつも楽しいけど、今日をきっかけにもっと好きになりそうだ」(ヒーリー)
最後の50.3kmをひとり旅。プロ2年目の22歳は、アムステル・ゴールドレースで2位、リエージュ~バストーニュ~リエージュで4位と、一躍トップライダーの仲間入りを果たした。もっとも、生まれ育ったイギリスではジュニア時代からその能力が高く評価され、同国と祖父母の出身地であるアイルランドとで争奪戦になった過去を持つほど。「それまでまったく接点のなかったアイルランドの自転車関係者が快く迎え入れてくれて、僕を強くしてくれた」というその力を、キャリア初めてのグランツールでも示してみせた。何なら、彼が記録したスタートからフィニッシュまでの平均スピード43.671kmは、ジロにおける200km超のステージで史上5番目の速さである。
独走でフィニッシュするベン・ヒーリー
「本当は第4ステージを勝ってマリア・ローザを着たいと思っていたんだけど、うまくいかなかった。残念だったけど、すぐにこのステージに気持ちを切り替えたんだ。ここまで走ってきてもそれほど疲労を感じておらず、グランツールにも対応できる身体であることを実感している。ただ先は長いし、未知の世界なので覚悟して走るよ」(ヒーリー)
さて、逃げ残りの選手たちが次々とフィニッシュへ到達する後ろでは、メイン集団にも大きな変化が訪れていた。2回目のイ・カップッチーニの入口でプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)がアタック。これをレックネスンやレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)がチェックに動く。反応が遅れたレムコは少しずつ追い上げてレックネスンには届いたものの、ログリッチは目の前に見ながらもなかなか追いつけない。そうこうしているうちにログリッチは頂上目前でもう一段階シフトを上げて加速。レムコは離されるどころか、テンポで追ってきたテイオ・ゲイガンハートとゲラント・トーマスのイネオス・グレナディアーズコンビにもかわされた。
「頂上まであと700mのところで踏み込みすぎてしまったんだ。プリモシュ(ログリッチ)に追いつけると思った瞬間に勾配の最も厳しいところを迎えてしまい、それ以上は攻められなかった。トーマスは彼自身のペースで上り続けていたね。経験豊富なライダーはやっぱりうまく対処する。今日は勉強になったよ」(レムコ・エヴェネプール)
フィニッシュ後に握手をかわすログリッチとトーマス
下りでまとまったログリッチ、ゲイガンハート、トーマスの3人は利害を一致させ協調しながらフィニッシュまでを急いだ。結果的にレムコやジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)らのグループに対して14秒、レックネスンには34秒先着。フィニッシュ直後には、ログリッチとトーマスが手を取り合って奇襲成功を称え合う様子も見られた。
「調子は良かった。毎ステージ多くのプランを持って走っているし、突発的な出来事に対応するための準備も必要だ。めぐってきたチャンスを生かさない手はない。その意味では今日は大成功。レースを通して集中できていたし、結果にも満足しているよ」(プリモシュ・ログリッチ)
これにより、個人総合上位陣は順位がシャッフル。レックネスンはかろうじてマリア・ローザを守ったが、レムコとの総合タイム差は8秒に縮まった。38秒差の3位にログリッチが上がり、アルメイダが40秒差の4位。冷静な走りが光ったトーマスが52秒差の5位、ゲイガンハートも56秒差の6位に上げてきた。
そんな彼らの戦いは、第9ステージに設けられる35kmの個人タイムトライアルで一層加速する。ほぼオールフラットで、上位を押さえるには平均時速55kmを超すスピードで走り切る必要性が指摘されている。これを終えると1回目の休息日。つまりは、ここでのタイム差をもって大会第2週へ向かうことを意味する。
第1ステージの個人TTでは、レムコが総合争いのライバルに対して1kmあたりおおよそ2秒分の差をつけて勝っている。
「今度は1分は差をつけて勝ちたい。僕に合ったタイムトライアルであることは間違いないからね」(エヴェネプール)
「平坦のタイムトライアルは僕の脚にマッチするはず。きっと良い走りができるよ」(ログリッチ)
マリア・ローザ争いの趨勢が見えてくるであろう、大事な1日を迎える。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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