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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第7ステージ】大会最初の本格山岳は大差を生かしたダヴィデ・バイスがプロ初勝利 総合争いは強い向かい風により“ノーカウント”
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ)とイヴァン・バッソ氏
アペニン山脈最高峰のグラン・サッソへ向かったジロ第7ステージ。今大会最初の本格山岳ステージにして、マリア・ローザ争いにおける前半戦の重要ポイントと目されていた1日は、序盤に決まった逃げグループが大量リードを生かしてステージ優勝争いに転化。キャリア未勝利の3選手による勝負は、ダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ)が自国最大のレースで大きな、大きな勝ち星を手に入れた。
「今日みたいな日は長い時間逃がしてもらえるだろうと思っていた。イメージしていた通りの展開になったし、最後の4~5kmは今までの人生の中でもひときわ楽しい時間だった。アタックされても余裕をもってついていけたし、スプリントに持ち込めれば勝てるという確信もあった。冷静さを失わなかったことが勝因だろうね」(ダヴィデ・バイス)
イタリア南部での数日間を終え、ここから北上を始める。今大会2番目の長さである218kmの“エピックステージ”は、まず中盤に2級山岳ロッカラーゾ(登坂距離6.9km、平均勾配6.5%、最大12%)を登坂。それから下りと平坦が続いて、フィニッシュ前47kmから再び上りへ。2級山岳カラーシオ(13.5km、6%、10%)から間髪入れずに1級山岳グラン・サッソ(26.4km、3.4%)へと移り、標高2130m地点にフィニッシュラインが敷かれる。グラン・サッソは長く緩斜面が続くが、最後の2.5kmで勾配が急激に変化。残り1kmで最大勾配13%に達する。
新型コロナウイルス感染が分かったジョヴァンニ・アレオッティ(ボーラ・ハンスグローエ)とニコラ・コンチ(アルペシン・ドゥクーニンク)をのぞいた169選手がコースへ繰り出す。6kmほどでバイス、ヘノック・ムルブラン(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)、シモーネ・ペティッリ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)、カレル・ヴァチェク(チーム コラテック)の動きが容認され、4人逃げでレースが進む。このメンバーでは、ペティッリの総合タイム差7分49秒・37位が最上位。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第7ステージ|Cycle*2023
そんなこともあり、レースリーダーを務めるチームDSMは集団統率の責任を果たしながらもそのペースはゆったり。雨が強まってきたこともあって、多くの選手がチームカーまで下がって防寒対策。そうしているうちに、前の4人とは10分以上の開きになった。
この間に慌ただしくなったのは、途中のチェックポイント通過時くらい。91.1km地点に置かれた1回目の中間スプリントはバイスが1位で通過後、しばらくして前日のステージ覇者マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)がメイン集団の一番手、全体5位でやってきた。100.5km地点に設けられたロッカラーゾの2級山岳ポイントもバイスがトップ。11分20秒後にメイン集団が現れて、マリア・アッズーラを着るティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)が全体5位で得点を加算している。
タイム差が最も広がったのは、フィニッシュまで90km以上残した段階での12分35秒。終盤の山岳区間を考えればメイン集団が追いつく可能性はゼロではなかったが、その後も10分以上のタイム差で進行し続け、集団に前へ追いつく意思がないことがはっきりとしてくる。逃げメンバーはムルブランが遅れて3人になるが、徐々に逃げ切りの可能性が高まっていった。
2つ目の2級山岳カラーシオもバイスが1位で通過して、いよいよ最後の登坂区間である1級のグラン・サッソへ。さすがにここまで来るとメイン集団もタイム差の調整を図っていて、バーチャルリーダーとなっていたペティッリがレース後にマリア・ローザを獲得する見込みはほぼなくなった。それでも、逃げ切るには十分すぎるほどのリードを持っている。3人はステージ優勝をかけて、雪の残る高峰へと向かった。
駆け引きが本格化したのは残り6km。ペティッリがダンシングでペースアップを図ると、負けじとヴァチェクも攻撃を繰り出す。ペティッリが仕掛けるたびにヴァチェクが少し後ろへ下がるが、テンポで追いついてはカウンターを打ってライバルの消耗を誘う。
ただ、どれも決定打には至らず、膠着状態のまま最後の1kmへ。勾配が最も厳しくなるところでヴァチェクが動いたが、これも決まらない。そして、均衡が破られたのは残り200m。ペティッリのアタックをチェックしたバイスがカウンターアタックを成功させ、そのまま一番にフィニッシュラインに到達した。
プロ初勝利を掴んだダヴィデ・バイス(エオーロ・コメタ)
「もともと逃げに入ったのは、ロレンツォ・フォルトゥナートをサポートするため。山岳ポイントを集めつつ、最後の上りで追いついてくるであろう彼を助けるつもりだったんだ。集団とのタイム差が広がるにつれて、自分にチャンスがあるのではないかと感じるようになっていった。こんな貴重な体験、なかなかないからね。絶対に勝ちたいと思いながら走ったよ」(バイス)
プロ3年間で勝利はゼロ。それでも、長い距離を逃がすと何かを起こせる選手との評価で、今年はティレーノ~アドリアティコの山岳ランキングでは2位。今大会には兄のマッティアとそろってメンバー入りを果たした。レース後には、かつてのジロ王者にして現在はチームのスポーツディレクターを務めるイヴァン・バッソ氏と喜びの抱擁をかわした。
「予想外だと感じている人が多いかもしれませんが、私たちにとっては求められ、望んでいた勝利です。ダヴィデはユースチームからの生え抜きで、われわれは成長する過程を見守ってきました。この勝利は彼の努力と攻撃姿勢の賜物と言えるでしょう。勝つことでジロ・デ・イタリアへの敬意を示すことができました」(エオーロ・コメタ スポーツディレクター、イヴァン・バッソ氏)
「次は兄にも勝ってほしい」と思いやったバイスだが、実はフィニッシュ直後、何より先に、友人であり、かつてのチームメートであるアルトゥーロ・グラバロスの名前を口にしていた。2021年までエオーロ・コメタで走ったが、脳腫瘍が分かり、2度の手術を経て現在も闘病中。今年1月には交通事故に遭い、父を失う悲劇にも見舞われている。
「とてつもなく困難な戦いに立ち向かっている大事な仲間、アルトゥーロ・グラバロス、この勝利を君にプレゼントするよ!」(バイス)
レムコ・エヴェネプール(右)とプリモシュ・ログリッチ(左)
さて、ステージ優勝争いとは別のレースとなったメイン集団は、最終的にバイスから3分10秒後にフィニッシュへと到達。ステージ4位から30位までが同タイムとなり、総合系ライダーの大多数がこの中に入った。チームDSMの長時間に及ぶ集団コントロールののち、イネオス・グレナディアーズを中心にレースをクローズ。個人総合2位につけるレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が最後の最後にスプリントをしてみせたが、プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)らが追随。マリア・ローザ争いに変動あるかが注目されたが、今回のところは“ノーカン”となった。
「最後の上りは向かい風が強く、誰も攻撃しようとは思わなかったみたい。フィニッシュでのボーナスタイムも得られない状況だったし、みんな無理をするべきではないと判断したのだろうね。僕としてはチームが構築してくれたレース展開に助けられたし、考えていた以上に楽に走らせてもらったよ。コース周りの雪も楽しめた。なにせ僕はノルウェー出身だからね!」(アンドレアス・レックネスン)
レックネスンが掲げる当座の目標「マリア・ローザを第9ステージまで保持」が可能なところまでやってきた。第8ステージでは終盤に急坂を立て続けにこなさないといけないが、大きなトラブルさえなければ今持つリードを脅かされることはないはず。レムコとは28秒、オレリアン・パレパントル(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)とは30秒、以降は1分以上の開きである。
「タイムトライアル(第9ステージ)がこのジャージで走る最終日になるだろうけど、そこまでは今のポジションで走りたい。マリア・ローザを守るという思いが僕の大きなモチベーションだ。明日も難しいステージだけど、うまく走れるんじゃないかな」(レックネスン)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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