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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第6ステージ】マッズ・ピーダスンが全グランツールステージ優勝を達成! 逃げ切り目前で勝機を逸したクラークとデマルキは互いの走りを称え合う
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
イタリア南部に降り続いた雨が上がり、明るい日差しの中でスタートが切られた第6ステージ。平坦ステージにカテゴライズされる割にはいささか難しい上りと、海岸線のワインディングが思っていた以上の変調をもたらした。逃げ切りが固いとみられた2人はフィニッシュ前300mで集団に引き戻され、最終的にスプリント決着。マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)がジロ初勝利を挙げるとともにグランツールすべてでのステージ優勝を達成した。
「チームが持つリソースをすべて使っての勝利。結果的には組織的な追走ができていたし、私のために働いてくれる仲間に結果で応えたかった。最高の形で示せて本当にうれしいよ」(マッズ・ピーダスン)
先ごろサッカーチームのセリエA優勝に沸いたナポリが、この日の発着地。スタート前のサインオンでは「元サッカー少年」のレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)がリフティングパフォーマンスでファンに応えるなど、スクデット獲得の余韻はこちらにまで届いている。かつては年代別のベルギー代表にも名を連ねた彼の足技を見る限り、2度落車した前日の影響はさほど大きくはなさそうだ。もっとも、新型コロナ感染が分かったクレモン・ルッソ(チーム アルケア・サムシック)以外、ここまで走ってきている選手たちはすべてスタートラインへ。負傷した選手たちも、レース続行に意欲的だ。
リアルスタートから2kmでアレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー)が飛び出し、フランチェスコ・ガヴァッツィ(エオーロ・コメタ サイクリングチーム)、アレクサンドル・ドゥレットル(コフィディス)、チャーリー・クオーターマン(チーム コラテック)が次々と合流して逃げグループがまとまる。さらにサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)も加わり、5人は集団に対して5分のリードを得る。
ヴェスヴィオ火山の外郭をめぐり、風光明媚なソレント半島を進んでいくプロトン。美しい景観を眺めながらゆったりと…とはいかず、2級山岳ヴァリコ・ディ・キウンズィ(登坂距離8.3km、平均勾配6.3%、最大勾配10%)でイネオス・グレナディアーズが集団のペースを速めた。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第6ステージ|Cycle*2023
頂上が近づくにつれて集団から遅れる選手の姿が目立ち始める。10年前にナポリでステージ優勝しているマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)も後退。すぐにアシストたちが前に立ってペースを作ったが、その先のダウンヒル区間で落車してしまった。集団復帰はあきらめ、完走狙いに切り替えている。
世界遺産・アマルフィ海岸に沿って走りながら、今度は3級山岳ピッコ・サンタンジェロ(7.5km、3.8%、9%)へ。ここで逃げグループではクラークがペースアップを図り、デマルキだけが追随した。
「クラークのペースについていけたのは僕だけだった。このまま2人で逃げ続けるのは大変だと思ったけど、それしか選択肢がなかったんだ。若い選手たちにはチャレンジ精神と、それを可能にする脚を持っていてほしかったんだけど…ちょっと残念だったね」(アレッサンドロ・デマルキ)
プロトンきっての逃げのスペシャリスト2人である。かえって両者の脚がそろって、簡単にはメイン集団の追撃を許さない。フィニッシュまで30kmを残したところで2分30秒だったその差は、10km先でもそう大きくは変わらない。集団ではプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)やゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)のバイクに不具合が出て、追える力を持つチームが一時的に後ろに下がったことも、先を急ぐ2人にはプラスに働いた。
「スタートした段階からギアの調子が悪かったのだけど、バイクチェンジをするタイミングを作れないくらいにクレイジーなレース展開だったんだ。我慢して走っていたけど、カセットからチェーンが外れてしまって、いよいよ止まるしかなくなった。まぁでも僕の周りには強い選手ばかりだから、何とか集団に戻ることができたよ」(ゲラント・トーマス)
残り10kmでタイム差1分。「10km1分」のセオリーで見れば集団有利だが、ジェットコースターのごとく連続するコーナーをスムーズにクリアするには少人数に分がある。残り5kmで40秒差。それからは1kmあたり5~6秒単位でタイムギャップが削られるが、それでも残り1kmで15秒差。
サイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)とアレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー)
逃げ切れそう…観ていた誰もがそう思ったことだろう。しかし、最後の最後に来て牽制が始まってしまった。ステージをかけたマッチアップとあらば仕方のない駆け引きとはいえ、猛然と後ろが迫る状況下ではどうにももったいない。残り400mでデマルキがようやく腰を上げたものの、もう遅かった。フィニッシュ前300mで2人は捕まり、これと同時にフェルナンド・ガビリア(モビスター チーム)がスプリントを開始。
一気に飛び出したガビリアだったが、冷静に立ち回ったピーダスンは最後の100mまで待って先頭へ。マリア・チクラミーノのジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)らの追い上げをかわし、ジロ初勝利を決めた。
「逃げの2人には感服だよ。彼らを追い抜くのは申し訳なかったけど、僕らは良いレースができた。ロングスプリントをイメージしていたけど、ガビリアの飛び出しが僕の動きを好転させたね」(ピーダスン)
2019年のアルカンシエル獲得以降、多くのタイトルを手にしてきたデンマークが誇るスピードスターは、これでグランツールすべてで勝利する偉業を達成。今季はシーズンインから好調で、北のクラシックで見せた勢いのままジロに乗り込んでいた。
トレック・セガフレードはこの勝利に賭けて、アマヌエル・ゲブレイグザビエルとナトナエル・テスファツィオンのエリトリア人コンビが長く集団を牽引し、最終盤にはバウケ・モレマまで動員。エーススプリンターは、自身のために力を費やした仲間を称えるとともに、心を配ることも忘れなかった。
「明日は僕でも逃げようと思えば逃げられると思う。でもステージ優勝を狙うような無謀なことはしない。今回のチームは僕を中心に成り立っていて、ここ数ステージはみんなに無理を強いてきたんだ。だから明日は楽に走ってほしいし、もし誰かがトライするというなら後押しするよ。今度は僕がチームを最優先する番だ」(ピーダスン)
ピーダスンが喜ぶはるか後ろでは、フィニッシュ目前で勝機を逸したクラークとデマルキが互いを称え合っていた。
「最後の局面で駆け引きするのは当然のこと。残り10mまで先頭交代を続ける選手なんていないんだ。アレッサンドロ(デマルキ)を責めるつもりはまったくないよ。彼はとても協力的で、力を惜しまなかったんだ。あと一歩のところまで来れたのは彼のおかげでもあるからね」(サイモン・クラーク)
「逃げに適しているステージだと分かっていた。実際に成功まで近づいたことを思うと、見立ては間違っていなかった。ただ、最後は脚がなかった。スプリントになればサイモン(クラーク)に負けるのは目に見えていたから、どうやって打開しようか考えていたんだ。そうしているうちに集団が来てしまった。こんな経験、今までのキャリアで初めてのことだよ」(デマルキ)
酸いも甘いも知り尽くしている2人である。これだけ悔しい思いをしても、やはりポジティブだった。早くも次のチャレンジに意欲的な姿勢を見せ、「またどこかでやってみるよ!」と口をそろえたのだった。
アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)
今大会最初の本格山岳である第7ステージを前に、個人総合上位陣は大きな変動なくこの日を終えた。アンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)がマリア・ローザを着て、アペニン山脈最高峰のグラン・サッソへと向かう。2位につけるレムコとは28秒差。
「この山については知らないので、これから予習をするよ。当面の目標は日曜日の個人タイムトライアル(第9ステージ)までマリア・ローザを着続けること。難しいミッションだけど、できるだけのことはやってみるよ」(アンドレアス・レックネスン)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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