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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第5ステージ】スリッピーな路面にプロトン大パニック カーデン・グローブスが雨のスプリントを勝利、2回落車のレムコは負傷でレース続行に暗雲
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)
スタートからフィニッシュまで雨が止まず、イタリア南部特有の滑りやすい路面に選手たちは悩まされた。あちこちで落車が発生した大混乱の1日は、悪コンディションのままスプリントで決着。フィニッシュ前7kmで落車に巻き込まれながらも集団に復帰し、勝負に挑んだカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)がジロ初勝利を遂げた。
「チーム全体でジロを目標に取り組んできた。チームとしても、個人的にも大きな意味のあるステージ優勝になったと思うよ。僕たちは勝利に値する集団なんだ」(カーデン・グローブス)
今大会2回目となる平坦ステージは、前日から降り続く雨の中をスタート。走り出してから悪化するばかりのコンディションは、トラブルの多発を予感せずにはいられないほど。実際、171kmの行程は選手たちにとって煩労の連続だった。
スタートして早々に5人が逃げを打ったが、そのうちマルティン・マルチェルージ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)とステファノ・ガンディン(チーム コラテック)がオーバースピードでコーナーに突入し、案の定落車。ガンディンはすぐに前を追いかけて逃げグループに復帰したが、マルチェルージは集団に戻った。
この落車を間一髪かわしたティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)は、11.6km地点に設定された3級山岳を1位で通過。目的を果たしたピノも集団へ戻り、逃げ続けるのは3人となった。
濡れた路面はメイン集団にも襲い掛かる。スタートして20kmほどの場所でレムコが落車。道路に飛び出した犬をチームメートが避けきれず、そのあおりを受けてバランスを崩してしまったのだ。コース脇でしばらく座り込んだレムコだったが、チームメートに抱えられながらバイクに再乗車。不機嫌そうな様子を見せていたけど、テレビカメラが並走するとサムズアップで問題ないことをアピールした。
逃げとメイン集団とは2~3分ほどの差で推移。65.3km地点に置かれた1回目の中間スプリントポイントはガンディンが1位通過し、ほどなくしてメイン集団も到達。ここはマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)が先着し、全体4番手で通過している。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第5ステージ|Cycle*2023
標高900m付近まで上ると、濃い霧が立ち込め選手たちの視界を覆う。当然選手たちはセーフティーを選択して、ゆっくりと進行。連続する大小のアップダウンを終え、ほぼフラットになるフィニッシュ前40kmあたりから、ようやく集団は先頭3人の追走に着手。前では残り25kmでサムエーレ・ゾッカラート(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)がガンディンとトマ・シャンピオン(コフィディス)を振り切って独走に持ち込むが、その頃には集団は1分程度のタイム差まで縮めており、吸収は時間の問題。
多くのチームが隊列をなして集団前方を固め始めると、いよいよスプリントフィニッシュを見据えた主導権争いに。最終盤へ機運が高まっていく中、ビッグトラブルが起こってしまう。
残り7km、海岸線に出る右コーナーで、集団前方に落車が発生。これをきっかけに後続選手が次々とタイヤを滑らせてバイクから落ちてしまう。大多数が足止めを食い、集団は崩壊。プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)は、チームメートのクーン・ボウマンのバイクを借りて前を追いかけ、マリア・ローザでこの日をスタートしたアンドレアス・レックネスン(チームDSM)も集団復帰を急ぐ。ステージ優勝候補だったフェルナンド・ガビリア(モビスター チーム)はバイクが故障し、戦線から脱落した。
前線に残った選手たちはゾッカラートを捕まえながらペースを落とすことなく走り続けるが、大人数の後続グループが勢いで上回り、残り4.5kmで再合流。主要ライダーのほとんどが前線に復帰し、最後の3kmへと入っていく。
位置取りが激しくなる集団に、またも奇禍が降りかかる。フィニッシュまで2.3kmのところで、走行ラインを替えようとしたレムコが他選手と接触し、この日2回目の落車。これにも多くの選手が巻き込まれてしまい、最終局面では35人ほどしか先頭に残らなかった。
スプリントフィニッシュ。後方では落車が発生
落車騒ぎをよそに最前線はスプリント態勢へ。チーム ジェイコ・アルウラーやアルペシン・ドゥクーニンクが中心となって最後1kmのフラムルージュを通過。そして残り200m、グローブスがスプリントを開始すると、マリア・チクラミーノのジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)が反応。さらには番手につけていたマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)らも腰を上げる。それでもグローブスは前を譲ることなく、トップのままフィニッシュラインを通過。ジロでは初勝利、グランツールでは昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージ以来となるステージ優勝を挙げた。
「正直、自信はなかったんだ。残り1kmの段階でポジションが前過ぎたので、早掛けするしかなくなってしまった。ロングスプリントだったね。ただ、ビーチからの横風は僕からすれば幸運だった。誰も僕のスリップストリームに入らないように、できるだけコース右サイドを走るように心がけたんだ」(グローブス)
スピードマンひしめくアルペシン・ドゥクーニンクにあって、ステージレースでのスプリント勝利が際立っている24歳。前述のブエルタに加えて、今季はボルタ・ア・カタルーニャで2勝。UCIワールドチーム入りしたばかりの快速軍団にまたひとり、トップスプリンターの台頭を見た。ちなみに日本にもゆかりがあって、2018年にツール・ド・熊野に出場。プロローグでステージ2位に入っている。
歓喜のグローブスの後ろでは、カヴェンディッシュがバランスを崩し、フィリッポ・フィオレッリ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)と当たった後にバイクから投げ出されてしまう。スライディング状態でフィニッシュラインを通過したが、これを避けきれなかった数人が巻き添えに。
「これもスプリントの一部だとしか言いようがないね。傷はきれいにしてもらったし、膝が少し痛いけど走るには問題ないと思う。そんなことより、たただた悔しいよ。完璧なポジションにいたのに、踏み込んだ時に白線でタイヤが滑ってしまったんだ」(マーク・カヴェンディッシュ)
フィニッシュ前の騒乱を呼び込んでしまったアルベルト・ダイネーゼ(チームDSM、イタリア)は、斜行と判定され降着。自身のミスをすぐに認め、カヴェンディッシュにも謝罪の電話をしたという。
転倒して地面に座り込むカヴェンディッシュ
「スプリントではありうることだから、彼を責めるつもりは毛頭ない。何より、クラッシュしたみんなが無事であってほしい。もちろん私はチャレンジを続けるよ」(カヴェンディッシュ)
アシストとともに遅れてフィニッシュに到達したレムコは、2回目の落車によるダメージがかなり大きいという。
「右半身を強く打ち付けており、筋収縮をともなう血腫と仙骨(骨盤中央部)を傷めています。適切なマッサージとオステオパシー、そして十分な睡眠で状況が改善することを願っています。確かなのは、第6ステージが彼にとって難しいものになるであろうことです」(スーダル・クイックステップドクター トゥーン・クライト氏)
このほか、カヴェンディッシュとの接触で体をコース脇のバリアに打ち付けたフィオレッリは手を裂傷、フィニッシュライン通過後に巻き込まれたアンドレア・ヴェンドラーメ(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、イタリア)は救急搬送され、肩の縫合を受けている。
地獄絵図化したステージで、レックネスンは何とかマリア・ローザをキープ。次のステージでもレースリーダーを務める。
「昨夜はマリア・ローザの感動で眠れなかったよ。たくさんのメッセージや反響で、このジャージがどれだけ大きな意味を持つか再認識している。今日は特別な1日だったし、いろいろあったけどジャージを楽しんだよ。マリア・ローザでスタートラインについたことは一生忘れないだろうね」(アンドレアス・レックネスン)
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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