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サイクル ロードレース コラム 2023年5月10日

【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第4ステージ】次代のフレンチオールラウンダー、オレリアン・パレパントルが狙い通りの逃げ切り勝利 アンドレアス・レックネスンはマリア・ローザに涙

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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マリア・ローザに袖を通したアンドレアス・レックネスン(チームDSM)

マリア・ローザに袖を通したアンドレアス・レックネスン(チームDSM)

大会初日からレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が口にし続けた「マリア・ローザ譲渡計画」は、予定通り第4ステージで実行された。何より、彼の言葉にほぼ全チーム・全選手が影響を受け、止む気配のない風雨の中をノーガードで突き進んだ。

レース半ばにようやく形成された先頭グループに“マリア・ローザ挑戦権”が与えられ、その中からオレリアン・パレパントル(AG2Rシトロエン)がキャリア初となるグランツールのステージ優勝。最も積極的に走ったアンドレアス・レックネスン(チームDSM)に、マリア・ローザが渡った。

「夢のような一日になったよ! 本当はマリア・ローザを狙っていたのだけれど、レックネスンがいたことで目標を切り替える必要性があった。彼とのスプリントになれば勝つ自信はあったし、実際に最後の3kmで勝利を確信していたんだ」(オレリアン・パレパントル)

イタリア半島南部・南アペニン山脈を横断するルートがとられた第4ステージ。今大会5番目に短い175kmの行程には、2級山岳が3カ所。どれも最大勾配10%超えの上りで、最後の登坂はフィニッシュ前12.6kmから始まるコッレ・モレッラ(登坂距離9.6km、平均勾配6.2%、最大勾配12%)。もともとは総合争いに影響しないステージとみられていたが、レムコの発言によって状況は一変。少しでもマリア・ローザを着たい選手や、大会初日の個人タイムトライアルでの遅れを取り戻したい選手がチャンスを得るステージに趣きが変わった。

思いはどのチーム・選手も同じである。リアルスタートからアタックの応酬。ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)やシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ)、ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)といった脚のある選手たちが手を変え品を変え攻撃を繰り出す。たびたび数人単位のパックが形成され、そのたびに集団へと引き戻される状況が続いた。一時はレムコやジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)ら個人総合上位陣が後方に取り残される場面も。悪化する天気がハードさに追い打ちをかけ、早々と集団から遅れていく選手も見られる。

無料動画

【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第4ステージ|Cycle*2023

流れが変わらぬまま、1つ目の2級山岳パッソ・デッレ・クロチェッレ(13.6km、4.3%、11%)へ。集団がまとまった間隙を縫ってティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)が動いて、前日に続く山岳ポイント収集。山岳賞の得点を伸ばして、マリア・アッズーラのキープを図っている。

スタートから2時間。ようやく逃げが決まったのは、頂上通過後のダウンヒル区間。一瞬の緩斜面でリズムが変わったのを利用して、パレパントル、レックネスン、ニコラ・コンチ(アルペシン・ドゥクーニンク)、ヴィンチェンツォ・アルバネーゼ(エオーロ・コメタ サイクリングチーム)、ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック)、アマヌエル・ゲブレイグザビエル(トレック・セガフレード)、トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)の7人が抜け出した。

このうち、個人総合の最上位はトップとのタイム差1分40秒で18位につけるレックネスン。3分ほどのリードを得たあたりから、メイン集団ではリーダーチームのスーダル・クイックステップが統率を始めたが、先頭メンバーを追おうという強い意思は感じられない。やがて、その差は最大6分まで拡大した。

形勢は変わらぬままレースは後半へ。159.2km地点に設けられた、この日2回目の中間スプリントポイントではレックネスンが飛び出して1位通過。3秒のボーナスタイムを獲得して、マリア・ローザへの意識をうかがわせる。最後の上りを前に、前の7人は集団から約4分先行。この段階で、逃げ切りはほぼ濃厚になった。

ステージ優勝を、そしてマリア・ローザをかけた最終登坂。先手を打ったのはコンチ。これでバルギルが遅れるが、残る選手たちはテンポで追随。代わってスクインシュが先頭に立つが、決定打にはならない。フィニッシュまで6kmを切ったところでレックネスンが仕掛けると、反応できたのはパレパントルとゲブレイグザビエルの2人。攻勢のレックネスンは次々とアタックして、ついてきた2選手を振り切る。しかし、パレパントルは緩斜面に切り替わったところでペースを取り戻し、残り3.5kmで再合流。ここからパレパントルとレックネスンのマッチアップとなる。

「逃げている間にレックネスンと話をしたのだけど、互いにステージ優勝を狙っていて利害が一致しなかった。結果的に僕がステージ優勝で、彼はマリア・ローザ。一番良い形に収まったと思うよ」(パレパントル)

最後の1kmはレックネスンが牽き続け、残り150mでパレパントルがスプリントを開始。フィニッシュ前でのスピード差は明白で、パレパントルが確信した通りの決着を見た。

両手を広げてフィニッシュするオレリアン・パレパントル(AG2Rシトロエン)

両手を広げてフィニッシュするオレリアン・パレパントル(AG2Rシトロエン)

「逃げるためにかなりの労力を費やした分、ステージ優勝の喜びは大きいね。上りでレックネスンがアタックしたときは対応できなかった。だけど、追いつけば何とかなると思っていたんだ。今日は何としても先頭でレースを進めなければならなかった。逃げから勝者が出ることは分かっていたからね」(パレパントル)

レムコ発言もさることながら、AG2Rシトロエンは当初から第4ステージを狙っていたという。目標ステージに掲げ、大会に向けたトレーニングキャンプ時から意識付けを行ってきた。チームは27歳のパレパントルを次代の総合エースとして推していて、今大会への期待も大きい。このステージを終えて個人総合3位に浮上。本人もその気だ。

「次のねらい目は金曜日(第7ステージ)だろうね。グラン・サッソ(1級山岳)でマリア・ローザに手が届くかもしれない。ためらわずに行くよ!」(パレパントル)

そのフレンチオールラウンダーには敗れたものの、終盤の積極性が光ったレックネスンは、フィニッシュ後しばしメイン集団の帰りを待った。タイム差次第ではマリア・ローザが手に入る。そして、集団は自身のフィニッシュから1分59秒差でフィニッシュラインを通過。この瞬間、レースリーダーになることが決まり、人目をはばからず泣き崩れた。

「マリア・ローザはサイクリストの夢なんだ。今日のことは一生忘れないよ。みんながこのジャージを目指してスタートを切ったけど、僕個人は最初のアタックから調子の良さを感じていた。ほぼすべての動きに乗じたし、チャレンジして本当に良かったよ」(アンドレアス・レックネスン)

23歳のレックネスンは、北極圏内に位置し白夜やオーロラで知られるノルウェー北部の街・トロムソで生まれ育った。昨年のアークティックレース・オブ・ノルウェーを制した際は、最終ステージで家族や友人たちの声援を受けて驚異的な独走劇を演じている。ヤングライダー王国のチームDSMが誇るグランツールレーサー候補は、初出場のジロで大仕事をやってのけ、第5ステージからはバラ色に身を包む。ノルウェー人選手としては1975年のヌット・ヌードセン以来2人目、北極圏以北出身の選手では史上初めてのマリア・ローザ着用者となる。

「たとえ1日だけになったとしても、このジャージを着られるだけで特別さ。こんなに難しいスポーツでトップに立てるなんて、幸せでしかないよ」(レックネスン)

かくして、レムコはある種の“ミッション”をコンプリート。最終盤はイネオス・グレナディアーズのスピードアップにアシストを全員失ったが、自身まで苦しめられることはなかった。ここ数日の懸念材料だったレース後の“お勤め”…ポディウム、プレスカンファレンス、ドーピングコントロールなどからひとまずは解放。フィニッシュ後は取材陣の問いかけを制し、チームバスに飛び込んだ。

レース後にアルカンシェルを着るレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)

レース後にアルカンシェルを着るレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)

「ジャージを手放したこと自体は何の問題もない。28秒という総合タイム差も理想的だ。個人総合2位だから、チームカーの序列も2番目と悪くない。マリア・ローザがプレッシャーだったかって? 全然そんなことはなかったよ」(レムコ・エヴェネプール)

シャワーと着替えを済ませて、ようやく取材に応じた。その終わり際には「レースリーダーじゃなくても、結局こうしてメディア対応をしているからねぇ…」と、聞く者をドキッとさせるブラックジョークが飛び出した。

「いやいや、冗談冗談! ホテルへ行ってゆっくり休むとするよ。また明日!」(エヴェネプール)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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