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【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第3ステージ】上れるスプリンターバトル第1弾はマイケル・マシューズが勝利 引退まで考えたここ数週間の苦悩を打破する渾身のペダリング
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介マイケル・マシューズ(チーム ジェイコ・アルウラー)
頼ったのは本能だけだった。フィニッシュ前300mの最終コーナーをどう抜けたかも覚えていない。考えをすべてオフにして、持っている力だけをペダルに込めた。
ジロ・デ・イタリア2023第3ステージは、丘陵にカテゴライズされる三ツ星コース。終盤に3級と4級のカテゴリー山岳を越え、勾配5%の上りスプリント決着は、マイケル・マシューズ(チーム ジェイコ・アルウラー)がモノにした。
「今日はチームが最大限のサポートをしてくれた。感謝の思いを勝利で表したいと思っていたんだ。本当にうれしいし、心から“ありがとう”と伝えたい」(マイケル・マシューズ)
開幕から2日間アドリア海沿いを走ってきたが、いったん別れを告げて内陸部へと進んでいく。第3ステージは213kmの長距離ステージ。スタートからしばらくは平坦路を行くが、フィニッシュまで40kmを切ったところから丘陵地帯へ。3級山岳ヴァリコ・デイ・ラーギ・ディ・モンティッキオ(登坂距離6.3km、平均勾配6.4%、最大勾配10%)と4級山岳ヴァリコ・ラ・クローチェ(2.6km、7.6%、10%)を立て続けに上ったら、今度はフィニッシュめがけてのダウンヒル。最終盤の数キロで再び上り基調になり、最後の350mは勾配5%。上れるスプリンターにチャンスのあるステージと目された。
リアルスタートしてすぐに飛び出したアレクサンダー・コニシェフとヴェリコ・ストイニッチのコラテック セライタリア勢を見送ったメイン集団は、2人が6分ほどリードしたところから少しずつコントロールを開始。最終的にマシューズを勝利に導くチーム ジェイコ・アルウラーとトレック・セガフレードがペーシングを担った。
ほぼ中間地点にあたる107km地点に置かれた1回目の中間スプリントポイントは、コニシェフが1位通過。しばらくしてやってきたメイン集団は、マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)が先着して全体の3位通過。前日のステージを勝ったジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)もポイント収集に動き、新城幸也が牽引役を務める姿も見られた。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第3ステージ|Cycle*2023
長く形勢が変わらぬまま進んだが、フィニッシュまで50kmを残したあたりから集団のスピードが上がり始める。各チームが隊列を組んでポジションを固めつつ、登坂区間へと近づいていく。そして3級の上りに入ると、逃げていた2人を次々と吸収。タイミングを同じくして、イタリアチャンピオンジャージのフィリッポ・ザナ(チーム ジェイコ・アルウラー)が先頭に出て牽引を始めると、集団の人数が一気に絞り込まれる。
立て続けにクリアした3級と4級の上りは、ともにティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)が1番に頂上を通過。ステージ終了段階で山岳賞のマリア・アッズーラ着用を決めた。今季限りでのキャリア終了を宣言しているフランス自転車界の至宝は、自他ともに相性が良いと認めるジロで何かを残そうと躍起だ。
マリア・アッズーラのピノ
「今までだったらノーリアクションだっただろうけど、ジロを走れる機会が限られてきているだけに何かやっておきたいと思ったんだ。青のジャージをこの先守るかは明日のステージ(第4ステージ)次第かな。3週目には山岳賞争いに身を投じているかもしれないね」(ティボー・ピノ)
この頃には風雨が本格化。ウェットな路面での下りではやはりクラッシュが起きて、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)が巻き込まれてしまう。すぐに立ち上がってアシストに率いられながら集団復帰を果たしたものの、危うく個人総合争いから脱落するところだった。
リスキーなダウンヒルを終えても、集団は慌ただしい。フィニッシュ前10kmに設置された2回目の中間スプリントポイントは、上位3人にボーナスタイムが付与される。ここで動いたのはマリア・ローザのレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)。
「ボーナスタイムを意識して走っていたわけではないんだ。でも、誰も獲りに行こうとしないから、だったらトライしてみようと。プリモシュ(ログリッチ)が僕をマークしていることはチームカーからの無線で聞いていた。彼が動くならチェックするつもりだったよ」(レムコ・エヴェネプール)
ナイスタイミングで加速したマリア・ローザが巧みに1位通過し3秒ボーナスを獲得。最大のライバルであるプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)は、動きがワンテンポ遅れた影響で2位通過にとどまる。この段階で、レムコが総合リードをわずかながら広げることに成功している。
最終局面を前に、集団に残ったのは65人ほど。上りで集団を崩したザナが再びペースアップを図り、さらにはトレック・セガフレードも人数をそろえて先頭まで上がってくる。いよいよ残り1km。リードアウトマンからのお膳立てを受けて優位な態勢に持ち込んだのはピーダスンだ。
最終コーナーを抜けて残り300m。ピーダスンの番手につけたマシューズが一瞬できた隙間からスプリントラインを確保。ピーダスンやカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)らが迫ったが、マシューズはトップを譲ることなく一番にフィニッシュラインを通過。ジロでは実に8年ぶりのステージ優勝を決めた。
出迎えたチームスタッフや走り終えたチームメートにもみくちゃにされながら雄たけびを上げたマシューズ。そこには、たくさんの思いが込められていた。
スプリント勝負に勝利したマイケル・マシューズ
「昨年はツール・ド・フランスでステージ優勝して、ロード世界選手権でも銅メダルを獲れた。今年はもっと良いシーズンにしようと思っていたんだ。それなのに、パリ~ニースで新型コロナウイルスに感染してしまい、ミラノ~サンレモは走れないし、何とか出場できたロンド・ファン・フラーンデレンでもクラッシュするしで散々。4月には一度バイクを離れて、この仕事を続けるべきかどうか本気で考えていたんだ」(マシューズ)
周囲の人たちと話をしていく中で分かったのは、「サイクリングが自分にとってのスポーツであり、目標であり、趣味であり、夢であること」だった。いま競技をやめても、次にやりたいことが全然思い浮かばない。改めて、ロードレースに満たされているのだと気が付いた。
「チームにしたがってジロへ来たけど、何ができるか分からなかった。でも、彼らはゼロの状態にあった私の走りを十二分にサポートしてくれたんだ。ジロを走るべきだと考えてくれたチームには感謝してもしきれないよ」(マシューズ)
感情が先行する中でも、チームメートへの称賛は忘れない。とりわけ、要所で集団統率に力を注いだザナの走りは「スーパーだった」と振り返った。
「私たちのチームにはイタリアチャンピオンがいるんだ。これはすごいことだよね。彼はクライマーなのに、私のサポートまでしてくれるなんて…」(マシューズ)
プロトンきっての「上れるスプリンター」は、これがキャリア40勝目。そのうち28勝がUCIワールドツアーでの白星と、主要レースでの強さが際立っている。今大会は、平坦ステージでも山越えを強いられるコースが多く、マシューズのような脚質の選手には有利だ。悩みを払拭し、走ることだけに集中できるようになった今、勝利量産やマリア・チクラミーノへの望みが大きくなってきたと言えそうだ。
さて、マリア・ローザはというと、レムコが問題なくフィニッシュまで運ぶことに成功。個人総合上位のうち数人が上りで遅れたこともあって、順位が少しだけシャッフル。レムコから総合タイム32秒差でアルメイダが2位、同じく44秒差でログリッチが3位で続いている。
次のステージは、最大勾配10%級の2級山岳を3つ上る丘陵コース。マリア・ローザ着用3日目となるレムコは、ここで一度ジャージを誰かに譲れないかと考えているみたいだ。レースリーダーを務めることはやぶさかではないが、レース後の“日常業務”…つまりはポディウム、インタビュー、プレスカンファレンス、ドーピングコントロールといった作業が、毎晩の回復に大なり小なり影響を及ぼしていると感じ始めている。
「ジャージを保持し続けるかどうかは、レースが始まってから判断するよ。誰が逃げグループに入るかでも変わってくるし、チームや僕自身がステージ優勝が狙える状況になるかもしれない。まぁ、僕が明日バラ色であるかどうかは50:50だね」(レムコ・エヴェネプール)
第4ステージは、グランツールならではの心理戦が見られるかもしれない。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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