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【Cycle*2023 ラ・ブエルタ フェメニーナ:レビュー】アネミエク・ファンフルーテンが女性版グランツール5大会連続個人総合優勝! 今季最強のデミ・フォレリングとの激闘はわずか9秒差で決着
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介総合表彰台 優勝アネミエク・ファンフルーテン、2位デミ・フォレリング、3位ガイア・レアリーニ
ロードレースシーンのハイライトとなるグランツールは、ウィメンズシーンでひと足早く幕開け。今季の第一弾だった「女性版ブエルタ」ラ・ブエルタ フェメニーナが5月1日から7日の会期で開かれ、現・世界女王のアネミエク・ファンフルーテン(モビスター チーム・ウィメン)が個人総合優勝。今大会の前身「セラティジット チャレンジ・バイ・ラ・ブエルタ」の2021年大会から始まった、グランツールでの連勝を5に伸ばしている。
「このチームをとても誇りに思っています。チームメートは毎ステージ素晴らしい働きをしてくれました。これこそがチームの勝利だと胸を張って言えます」(アネミエク・ファンフルーテン)
2015年から始まった「女性版ブエルタ」は、年々スケールを拡大。9年目となった今年からは、開催時期を9月から5月に移し、“本家ブエルタ内のいちイベント”としての趣きを払拭。主催者ウニプブリク(スペインのスポーツイベント企業)は、ことあるごとに「第1回ラ・ブエルタ フェメニーナ」であることを強調してきた。今回のファンフルーテンの個人総合優勝は、“初代女王”として扱われるという。
少しずつながらウィメンズシーンの基盤と方向性が定まってきていることを象徴した今大会。第1ステージのチームタイムトライアルを皮切りに、前半戦は平地系、後半戦は山岳系のステージを編成。最終・第7ステージには、名峰ラゴス・デ・コバドンガの頂上フィニッシュを設定した。
明確な色分けを図った主催者の期待どおり、大会の前後半それぞれで主役となるべく選手たちが“持ち場”をまっとう。
大会前半の主役は、「女王の中の女王」マリアンヌ・フォス(ユンボ・ヴィスマ)だった。まず、14.5kmのチームタイムトライアルで競った第1ステージでチームを勝利に導くと、第2ステージではシャーロッテ・コール(チーム ディーエスエム)との競り合いに敗れたものの、ボーナスタイムを生かして個人総合首位に。マイヨ・ロホを身にまとって迎えた第3ステージは、プロトンが風に翻弄されるのをよそに、前線をキープしてコールに雪辱。コース中盤から後半にかけてタフな上りが連続した第4ステージでは、ライバルのアタックにみずから反応するなどアクティブな姿勢を見せて、最後はスプリント締め。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube
【ハイライト】ラ・ブエルタ フェメニーナ 第7ステージ|Cycle*2023
「女王の中の女王」マリアンヌ・フォス
チームTTも含めれば、大会前半だけで3勝。翌日にはリーダーの座を降りたものの、最終的にポイント賞のマイヨ・ヴェルデと総合敢闘賞のマイヨ・ブランコを獲得した。
「チームタイムトライアルを勝ってから、良い雰囲気を保とうとチーム全体がモチベーションを高めていました。ステージで2勝し、2枚のジャージを獲得できたことにとても満足しています。チームとしても素晴らしいブエルタになりました」(マリアンヌ・フォス)
大会前半でフォスに唯一の土をつけたコールも初のグランツールで大健闘。今季飛躍したスピードガールは、「ピュアスプリンターゆえ」に本格的な山岳を前に帰宅を選んだが、走りそのものは大満足だったよう。
「グランツールの初勝利は生涯忘れることはないでしょう。とても刺激的な経験になりました。次のレースを待っていてくださいね!」(シャーロッテ・コール)
後半3日間に集中した山岳ステージでは、主役がバトンタッチ。最終的に大会を制するファンフルーテンと、今季絶好調のデミ・フォレリング(チーム SDワークス)の一騎打ちの様相となる。
マイヨ・ロホ争いのファーストラウンドとなった第5ステージは、コース前半の1級山岳プエルト・デ・ナバフリアで集団が崩壊。ファンフルーテン自身は問題なく先頭グループに残ったが、アシストを全員失ってしまう。フォレリングも重要な山岳アシストのニアム・フィッシャーブラックを落車で失い、ともにみずからの力でもって最後の上り勝負へ。残り2kmで前へ上がったフォレリングは先頭固定でのクライミング。フィニッシュ前400mでファンフルーテンが仕掛けたが、すぐさま抜き返すと3秒差をつけてステージ優勝。同時にマイヨ・ロホを手にした。
「このステージなら勝てると思っていました。ハイペースを維持するのは得意なので、できるだけ早く先頭に出て他の選手たちを振り切ろうと考えました。アネミエク(ファンフルーテン)が私を追い抜いたときに、“いまこそ勝負するときだ”とスイッチが入りましたね」(デミ・フォレリング)
第6ステージでファンフルーテンの牽引についていけたのはレアリーニのみ
流れがフォレリングに傾いたかに思われたが、第6ステージで事態は一変する。3日前と同様に、風がプロトンを襲ったのだ。ここで、レースの舞台となったスペイン北部・カンタブリア州の土地勘をフルに生かしたのが、地元チームのモビスター チーム・ウィメンだった。
チームはコース近くに住む第2監督のユルゲン・ルーランツ(ミラノ~サンレモやロンド・ファン・フラーンデレンで表彰台経験を持つ)に、同地に吹く風の特徴を分析させ、選手たちに共有。ペースアップのタイミングも詳細に詰めて、レースに臨んでいた。
それが奏功しプロトン分断に成功。よりによって、レースリーダーのフォレリングはこのタイミングでネイチャーブレイク(トイレ休憩)。モビスター チーム・ウィメンにトレック・セガフレードやユンボ・ヴィスマが加勢したことで、後方に取り残された選手たちの前線復帰が難しくなってしまった。
「私たちはこのエリアをよく知っています。ベストなタイミングで攻撃ができました。何人かがネイチャーブレイクでバイクを止めたことには気づいていましたが、向かい風や横風が吹く状況下で止まるのはリスクが高すぎます」(ファンフルーテン)
コース後半の2級山岳でファンフルーテンが集団牽引を始めると、それから約45kmにわたって先頭固定。次々と脱落者が出て、最後まで残ったのはガイア・レアリーニ(トレック・セガフレード)ただひとり。2度にわたって写真判定が修正されたマッチスプリントは、レアリーニがステージ優勝、ファンフルーテンがマイヨ・ロホ奪取と、それぞれに最大目的を達成。かたや、フォレリングは猛追及ばず1分以上の遅れを喫し、リーダージャージを明け渡すことになった。
逆転優勝を狙うデミ・フォレリング
「こんな形でジャージを失うのは残念でしかありません。しかし、モビスター チーム・ウィメンがあの場所でペースを上げようとしていたことは確かなのでしょう。すべては偶然が重なった結果です」(フォレリング)
最後の1日にフォレリングは賭けた。ファンフルーテンとの総合タイム差は1分11秒。逆転の可能性は決して高いとは言えないが、トライしない手はなかった。
チーム SDワークスのアシスト陣も、スーパーエースのリーダージャージ奪取のために前半からレースをコントロール。中盤の2級山岳で、一度はモビスター チーム・ウィメンのアシスト選手を後方へと追いやった。しかし、ここはファンフルーテンが落ち着いて立ち回ると、遅れていた選手たちも下りで合流。集団の統率権まで奪って、コバドンガを前に逃げていた選手たちもきっちりとキャッチした。
区間1勝、総合3位、山岳賞と大健闘のガイア・レアリーニ
そして迎えた“アストゥリアスの巨像”。ここまでくれば、あとは当人たちによる力勝負に限られる。残り10kmでフォレリングがペースを上げると、一瞬にして集団が崩れる。何とか対処するファンフルーテンだが、しきりにバイクをチェックしたりチームカーと無線で交信したりと慌ただしい。両者の状勢はひと目にして明白となる。
この2人の最終決戦に割って入ったレアリーニが残り5kmでアタックすると、ファンフルーテンが耐え切れず遅れ始める。ここぞとばかりにペースアップを図るフォレリングとレアリーニは、リードを広げて霧が立ち込める頂上へ。最後はレアリーニを振り切って一番に登頂を果たしたフォレリング、あとはファンフルーテンの到着を待つだけ……。
逆転には1分5秒差(ボーナスタイムをのぞく)が必要だったが、濃霧の中からパッションカラーが姿を現したのはフォレリングのフィニッシュから56秒後。この瞬間、ファンフルーテンのブエルタ制覇が確定した。
「正直、脚がないことは分かっていました。前日のステージで使い果たしてしまっていましたからね。今日は限界まで追い詰められました。みんな本当に強かった。でも、私も最後まで戦い抜きました。フィニッシュして、チームスタッフが喜んでいる姿を見たときに勝ったと分かりました」(ファンフルーテン)
地の利を生かした戦術で絶対リーダーを女王に押し上げたモビスター チーム・ウィメン。ファンフルーテン自身も、パートナーの故郷がコバドンガ近くの街であることから、どうしても今大会を勝ちたかった。純粋な脚勝負ならフォレリングに分があっただろうが、そこはやはり熟練の業というべきか。展開やコンディションを巧みに利用して勝利を手繰り寄せたのだった。
ファンフルーテンとフォレリングの好勝負はまだまだ見られるはずだ。6月30日からのジロ・デ・イタリア ドンネはフォレリングが欠場見込みだが、7月23日からのツール・ド・フランス ファムで再戦が期待される。何なら、5月12日から始まるウィメンズワールドツアー次戦のイツリア・ウィメン(スペイン)に両者とも出場予定だ。
もちろん、この2人だけではない。終盤2ステージの好走で個人総合3位までジャンプアップしたレアリーニもいるし、ブエルタを回避して先々へ向けた調整を進める選手たちだって……。
「私のキャリアはこの大会で始まったようなものです。いま必要なことは、改善と成長を目指していくことだけ。将来的にはもっと良い走りができるはずです」(ガイア・レアリーニ)
ウィメンズプロトンは、群雄割拠の時代を迎えている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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