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サイクル ロードレース コラム 2023年5月7日

【ジロ・デ・イタリア2023 レースレポート:第1ステージ】“ワンダーボーイ”レムコ・エヴェネプールが圧倒的スピードで個人TT開幕を制す!驚異のフロントギア60Tで本人もびっくりのアドバンテージ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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マリア・ローザのレムコ・エヴェネプール

マリア・ローザのレムコ・エヴェネプール

ここまで差がつくとは誰も思っていなかった。本人でさえもびっくりしている。2023年最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアが開幕。19.6kmの個人タイムトライアルで争われた第1ステージは、マリア・ローザ候補の最右翼に挙げられるレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が快勝。2位に22秒差をつける圧倒的な走りで、早くもその強さを証明した。

「とにかく良いレースをして、少しでもタイムを稼ぎたいと思っていた。15秒リードできれば今日は十分だと思っていたけど、それ以上のタイム差を得られて満足しているよ。むしろ、イメージ以上の走りができて驚いているくらいなんだ」(レムコ・エヴェネプール)

今年のジロは途中でスイスへの入国があるものの、ほぼイタリアでフルパッケージの3週間。前回はハンガリーでの歴史的な開幕だったが、今回は南北に数度進路を変えながらイタリア半島を縦断する。総距離は3481km、総獲得標高は51200m。

第1ステージが個人タイムトライアルなのは2年ぶり。グランツールの開幕タイムトライアルは短距離であることが多いが、今回は19.6kmある。これだけ距離があれば走力の差がはっきりと出て、先々のマリア・ローザ争いにも大なり小なり影響は出るだろう。もっとも、今大会はタイムトライアルの比重が高く、トータルで3ステージ・73.2kmに及ぶ。だから、山岳・TTのバランスに長けたオールラウンダーが多く参戦している。

1番出走ローレンス・ハイス(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)のスタートを合図に、1分おきに選手たちがコースへ。アドリア海に面したフォッサチェーズィア・マリーナを出発し、海沿いを走行。オルトーナのフィニッシュライン2.8km手前から始まる上りは平均勾配5.4%、最大勾配8%。一度下って、最後の750mで再び上る。平坦と登坂とでリズムが狂わないようにすることが上位進出のカギとなる。

無料動画

【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第1ステージ|Cycle*2023

レース前の主催者予想通り、22分台前半のフィニッシュタイムが早い段階から連発。ポイント賞のマリア・チクラミーノ候補であるマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)が22分20秒で走れば、UAEチームエミレーツのBプランと考えられているブランドン・マクナルティは22分6秒をマーク。

出走者が半分を過ぎると、いよいよその水準は高まる一方に。オーストラリアTT王者のジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)は、マクナルティのタイムを2秒更新。その数人後ろで走り出した3年前のジロ覇者テイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ)は終盤の上りで猛攻。最初の22分切りとなる21分58秒で走ってみせる。さらに、初のグランツール総合表彰台を目指すジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)は、チームメートに続く好走で21分47秒。

この時点ですでに、主催者のトップタイム予想とほぼ同タイムをアルメイダが記録。最終グループに集結した総合系ライダーやTT巧者にプレッシャーを与えていた…はずだった。

それまでの流れを一掃したのは、やはりレムコだった。ベルギーチャンピオンカラーでコースへ飛び出すと、9.8km地点に置かれた第1中間計測から一番時計を20秒更新。上り手前の16.8km地点に設けられた第2中間計測でもタイムを大幅に塗り替えると、登坂区間ではさらに力を込めて、終わってみれば21分18秒。アベレージスピード55km台の驚異的な走りである。

「昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ以降、タイムトライアルではフロントギアを60Tにしているんだ。使いこなすのは簡単ではないよ。だけど、快適に走ることができれば大きな自信になる。今日はうまくいったね、スーパーハッピーだ!」(エヴェネプール)

6位で第1ステージを終えたログリッチ

6位で第1ステージを終えたログリッチ

レムコの後もビッグネームが続々とスタートしたが、驚異のビッグギアでコースを攻略したワンダーボーイには誰もかなわない。「2強」の一角と目されるプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)は第1中間計測から30秒近くの遅れを喫し、フィニッシュでは43秒差。ステージ優勝を狙って臨んだシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ)も同じく43秒差。マリア・ローザ着用を目指して地元グランツールをチョイスしたフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)こそレムコに迫るペースで攻めたものの、それでもフィニッシュでは22秒差がついた。

ワンデーレースでは独走に持ち込んでの逃げ切りが勝ちパターン化しているレムコだが、グランツールでの戦い方も心得ていることは昨年のブエルタで証明済み。TTでタイムを稼ぐだけでなく、山岳ステージでもここぞという場面でアタックができる。そんな勝負勘に加えて、アシスト陣も強化して地盤は整っている。大会初日から大きなアドバンテージを得て、マリア・ローザの扱いを含めた今後の走りが注目される。

アルカンシェルの上にマリア・ローザをまとうエヴェネプール

アルカンシェルの上にマリア・ローザをまとうエヴェネプール

「マリア・ローザを手に入れることは今日のところは特に考えていなかった。普段のレインボージャージからバラ色に切り替わるのも悪くはないね。ここからはこのジャージを毎日楽しんでいくよ。とにかく、今は最高の結果を喜びたい」(エヴェネプール)

レムコと並ぶ今大会の目玉、ログリッチは43秒をここからどう挽回していくか。ステージ6位にまとめたその走りは、決して悪くないと主張する。

「脚の状態は良かった。今日の走りにも満足しているよ。もちろん1位になれれば最高だったけど、手堅い結果だったと思う。エヴェネプールから3分遅れたわけじゃないんだ。全然心配していない。まだ20ステージあるし、3週間走ってトップに立っていれば良いのだから」(プリモシュ・ログリッチ)

そして、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)のキャリア通算16回目のグランツールもスタート。初日は90位で終えて、脚慣らしを完了。第2ステージから本格的に始める“任務”へ準備は整った。

参考)第1ステージ・19.6km個人タイムトライアル終了時、総合系ライダーの順位とタイム差

1 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)-
3 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)+0:29
4 テイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ)+0:40
6 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)+0:43
7 ジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)+0:46
8 ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)+0:48
9 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)+0:55
10 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+0:55
19 パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)+1:18
22 レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)+1:23
31 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)+1:28
32 テイメン・アレンスマン(イネオス・グレナディアーズ)+1:31
36 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)+1:35
38 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス)+1:36
47 ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)+1:43
57 ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)+1:56

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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