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【Cycle*2023 エシュボルン・フランクフルト:レビュー】新コース初年度は逃げ切り決着 セーアン・クラーウアナスンが10人の争いを制して初優勝!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介エシュボルン・フランクフルト表彰台 優勝クラーウアナスン、2位コンラッド、3位フェデーリ
メーデー恒例の自転車祭典「エシュボルン・フランクフルト」。ドイツ自転車界最古のワンデーレースとしても格式ある一戦は、11年ぶりの逃げ切り決着。終盤に集団から抜け出した10人による争いとなり、セーアン・クラーウアナスン(アルペシン・ドゥクーニンク)が優勝。最後の800mは誰にも前を走らせることなく、トップを突き進んだ。
「意思統一がなされた10人でフィニッシュまで行けたことは完ぺきだった。勝てて本当にうれしい。久々の勝利は私にとって大きな意味を持つものになりそうだよ」(クラーウアナスン)
1962年初開催。今年で60回目を迎える大会は、その多くでスプリンターが活躍してきた。そんなテイストに幅を持たせるべく、今回はコースをリメイク。大きな変化は丘越えにあり、これまでは1回のみだったフェルトベルク(1回目:登坂距離11km、平均勾配4.8%・2回目:7.6km、6.5%)を2回、マンモルスハイン(2.3km、8.2%)は3回上る。これにともない、レース距離も約18km延伸され、203.8kmとなった。
6人の逃げで始まったレースは、メイン集団のエンジンがかかりきるまでに9分近いタイム差まで拡大。それでも、丘陵地帯へと入っていくとともにボーラ・ハンスグローエやアルペシン・ドゥクーニンクが集団コントロールを始めると、その差はあっという間に縮まる。中間地点を過ぎ、2回目のマンモルスハインから同じく2回目のフェルトベルクへとつながる登坂区間で、集団は逃げメンバーを全員吸収した。
なおも集団の勢いはとどまることなく、2回目のフェルトベルクを終える頃には半数以上の選手が後退。前線に残ったのは約30人だけで、ここで勝機を見出そうと動いたのがチーム ジェイコ・アルウラー。上れるエーススプリンター、マイケル・マシューズのためにアシストが数人でペーシングを図るとともに、集団の主導権を握った。
しかし、長い上りが終わると後方でも数チームが利害を一致させ追撃態勢を整えていた。ロット・デスティニーやウノエックス・プロサイクリングチームなどが結託して追いかけると、フィニッシュまで52kmを残したところで前線合流に成功。レースをふりだしに戻した。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】エシュボルン・フランクフルト|Cycle*2023
次なる展開にはさして時間を要さず、マルティン・マルチェルージ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)が単独でアタック。これを見送った集団に対して1分以上のリードを確保し、最後のマンモルスハインも蛇行しながらどうにかクリア。
タイミングを同じくして、メイン集団からはマルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ)がアタック。これをクラーウアナスンやパトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ)ら、主要チームのライダーが追随して9人のパックを形成。脚のあるメンバーがそろい、集団に対してタイム差を広げるとともに、マルチェルージに追いついて逃げ切りの機運を一気に高めた。
10人の先頭グループは、集団に対して30秒ほどのタイム差を保ってフランクフルトの市街地周回へ。集団はチーム ジェイコ・アルウラーやロット・デスティニーが追い上げを試みるが、思うようにその差を埋められず、18秒差とするまでが精いっぱいだった。
いよいよ逃げ切りが見えてきた10人は、残り2kmでゲオルク・ツィマーマン(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)のアタックを機に最後の駆け引きを開始。勢いよく飛び出したツィマーマンへは、ヒルシが脚を使って差を埋める。代わって、ツィマーマンのチームメートであるロレンツォ・ロータが動くがこれも決まらない。
この動きをやり過ごし、ライバルに脚を使わせたクラーウアナスンは満を持して残り800mの最終コーナーで先頭へ。一斉に他の9人がマークに入るが、これをものともせず最後の200mでみずからスプリントを始めると、誰にも前を譲ることなく一番にフィニッシュラインを通過。この大会では初、プロキャリアでは3シーズンぶりとなる勝ち星を挙げた。
「思っていた以上に厳しい上りの連続だった。特に2回目のフェルトベルクでは苦しんだけど、あきらめなかったことが今日の勝利につながったんだ」(クラーウアナスン)
大会としては11年ぶりの逃げ切りで勝者が決着した クラーウアナスン
大会前、主催者はコース刷新によって「スプリンターとクラシックスペシャリストによる戦いになる」と述べたが、実にその通りの展開に。上りでアタックした選手たちが逃げ切りを図り、スプリントを狙うチームが追いかける構図は、今大会の目指すところに完全に合致したと言えそうだ。来年以降も今回のコースが採用され続けるかははっきりしていないが、どんな脚質にもチャンスのあるレースとして一層魅力を増していくことだろう。
奇しくも、上位は最後の直線に入った順番がそのままフィニッシュでの着順に。クラーウアナスンを真っ先にチェックしたコンラッドが2位、アレッサンドロ・フェデーリ(Q36.5プロサイクリングチーム)が3位に続き、逃げ切り機運を呼び込んだヒルシは4位。一時独走したマルチェルージは「逃げに脚を使いすぎて、スプリントどころではなかった」状態で10位で終えた。
2年連続の参戦だった新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は、クラーウアナスンから6分6秒差のグループで完走して67位。スプリンターのフィル・バウハウスやマテウジュ・ゴヴェカルのサポート役を務めている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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