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【Cycle*2023 ラ・フレーシュ・ワロンヌ:プレビュー】“アルデンヌ・ハットトリック”へ、ポガチャルの第2関門 ピドコックやヒーリーらも虎視眈々、最大勾配26%の激坂は誰に味方するか!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介昨年ユイの壁を制したのはディラン・トゥーンス
オランダやベルギー南部の丘陵地帯を走る、春のクラシックシーズン後半戦・アルデンヌクラシック。その第1ステージであるアムステルゴールドレース(4月16日)は、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の圧勝。フィニッシュまで90km以上残した段階で先頭グループを作り出し、最後の28kmを独走。あの日ばかりは誰も彼を止められなかった。
新時代の“カニバル”(人食い)なのだろうか。攻撃的かつ貪欲な姿勢は、1970年代にプロトンの頂点に立っていた「元祖カニバル」エディ・メルクスと比較されることが増えてきた。そして今、メルクスでさえも達成できなかった記録に、ポガチャルは挑戦しようとしている。
アルデンヌクラシックのハットトリック(3連勝)。
2004年にダビデ・レベリン、2011年にフィリップ・ジルベールが、それぞれアルデンヌクラシック全制覇を達成。メルクスやベルナール・イノーらも、アルデンヌすべてで優勝経験を持つが、同一シーズンに全勝したことはない。ロードレース史で2人しか知らない超人的な領域へ、ポガチャルは到達できるだろうか。ラ・フレーシュ・ワロンヌは、その第2関門となる。
大会名を日本語訳すると「ワロンを貫く矢」。ベルギー南部のフランス語圏・ワロン地域をめぐるルートは、リエージュ近郊のエルヴをスタートし、南西へ進行。ワンウェイルートを92km走ると、ミュール・ド・ユイを基点とする周回コースへ。コースマップを示すと、その様がまさに「ワロンを貫く矢」なのである。
ユイの周回コースをおおよそ2周半。この間に、コート・デルッフ(登坂距離2.1km、平均勾配5%)とコート・ド・シュラーヴ(1.3km、8.1%)を上るが、これらはあくまで前座。終盤にかけては集団がスピードに乗った状態でこの上りをこなすので、チーム単位での脚の削り合いは見られるが、決定打が生まれることはほぼないと言って良いだろう。
まさに壁!
すべては、ミュール・ド・ユイで決まる。
レース後半に3回上るわけだが、その最後・3回目は頂上にフィニッシュラインが敷かれる。主催者によれば、登坂距離1.3kmで平均勾配9.6%。勝負はフィニッシュ前1kmのフラムルージュを通過してからで、中腹で19%に達する。そのど真ん中にある「クロード・クリケリオンコーナー」は、一瞬ではあるものの26%にまで勾配が跳ね上がる(29%との説もある)。これこそがまさに“ユイの壁”と言われる上りの姿。そして、このコーナーへの到達を合図に、激坂アタックが始まる。
とにかく、クロード・クリケリオンコーナーからの400mに集約されているのだ。そこに存在するのは駆け引きではない、力勝負だけである。もちろん、プロトンの誰もがそれに加われるわけではなく、重要なそのコーナーまでに最前線にポジショニングしておく必要がある。脚力とテクニックが生かされてはじめて、ユイの壁への挑戦権を手にする。大柄なアシスト陣がエースを風から守り、ユイの上りで勝負を託す人間模様もしっかりと見届けたい。
なお、全行程は194.2km。前回から8kmほど短くなっている。
そんなレースの最大の焦点となるポガチャルの走り。昨年も優勝候補として臨んだが、ユイの壁で不発。12位に終わっており、今回はリベンジに燃えている。コースの特性はもちろん把握しているし、4月に入ってからのロンド・ファン・フラーンデレン、アムステルゴールドレースでの圧倒的な登坂力を見る限り、ユイの激坂にも十二分に対応するはずだ。何なら、クロード・クリケリオンコーナーから放つアタック一発で勝利を射止める姿が想像できてしまうほど。UAEチームエミレーツは早い段階からプロトンを統率し、レースを進めていくものと予想される。
他の選手たちだって、ポガチャルの強さに屈服してばかりではいけない。アムステルゴールドレースで懸命に食らいついたベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)は、ニールソン・パウレスとの共闘で上位進出を目指す。同様にポガチャル、ヒーリーと競ったトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)は、2年前のこの大会で6位。高い適応力で今回は優勝争いに加わる。
強力なメンバーが勢揃い
フランス勢も強力だ。ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ)は、パリ〜ニースでポガチャルと好勝負を演じたのが記憶に新しい。ブノワ・コスヌフロワ(AG2Rシトロエン)も、しっかりと調子を合わせてきている。
イスラエル・プレミアテックは体調不良で欠場する前回覇者ディラン・トゥーンスに代わり、上位常連のマイケル・ウッズがチームを引っ張る。ボーラ・ハンスグローエは、ジャイ・ヒンドレーとセルヒオ・イギータを軸とするバランスの良いメンバー編成。ジュリアン・アラフィリップをけがで欠くスーダル・クイックステップは、アンドレア・バジョーリが代役候補に。ブレイクの兆しを見せる22歳、マティアス・スケルモースはトレック・セガフレードのエースとして走ることが期待される。
ほかにも、アンドレアス・クロン(ロット・デスティニー)、アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザクスタン チーム)、クインテン・ヘルマンス(アルペシン・ドゥクーニンク)などなど、戦いぶりが楽しみな選手たちが多数。打倒ポガチャル、打倒ユイの壁にチャレンジする。
ちなみにハイライトの地であるユイは、ワロン地域では中規模の都市で、2017年のデータによると人口は21500人。レース当日の街はお祭り一色で、フィニッシュ前約2kmに位置する中心街はベルギービール片手にレースを観戦する人たちで大賑わい。ミュール・ド・ユイはそこから少しばかり外れていて、普段は静かな住宅地。大観衆が詰めかける激坂区間は、ひとたびレースが離れると環境保護の観点から周辺住民しか自動車での通行が許されていない。その様子はわれわれが知る光景とは180度異なるものである。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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