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【Cycle*2023 ボルタ・ア・カタルーニャ:レビュー】完全復調ログリッチが世界王者エヴェネプールを制し初のカタルーニャ制覇 両者はジロ・デ・イタリアで“本当の戦い”へ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介総合優勝はプリモシュ・ログリッチ、2位レムコ・エヴェネプール、3位ジョアン・アルメイダ
2カ月後の今頃も、2人が大接戦を演じているだろうか。
ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスを最大目標とする選手たちが集結し、「仮想グランツール」の色合いとなった今年のボルタ・ア・カタルーニャ。スペインに本格的な春を告げる伝統のステージレースは、大会初日からプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)とレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)の一騎打ちの様相。軍配は、最後の最後まで大崩れすることなく走り抜いたログリッチに。大会初日からリーダージャージを守り切る“完全制覇”で第102回大会の頂点に立った。
「ボルタ・ア・カタルーニャは、私の戦歴に足りていないレースの1つだった。それを加えられることに大きな意義がある。数あるイベントの中でも歴史と伝統があるから、いつも以上に幸せな気分だよ」(プリモシュ・ログリッチ)
今大会における両者は、実質互角だったと見て良いだろう。クライミングに、アタックに、スプリントに……。両者の最終結果を分けたものが何だったかを挙げるとするなら、明確な点はフィニッシュでの着順とタイム差しかない。
2人は初日からレースそのものを先行した。3級と2級の山岳を経て緩やかな上りでのスプリントとなった第1ステージ、持ち前のスピードを生かしてログリッチが勝利。エヴェネプールが2位で続いたとはいえ、ボーナスタイムを利かせて総合でリードする態勢を整えていった。
超級山岳バルテルを上った第2ステージでは、まだ他の総合系ライダーも2人に割って入る余地はあった。エステバン・チャベス(EFエデュケーション・イージーポスト)のアタックは集団を崩す力強いものになったし、ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)も果敢に仕掛けた。しかし、反撃をもくろんだエヴェネプールのアタックによって他選手の攻撃は完全に封じられた。チェックできたのはログリッチとジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)だけ。このステージでは標高2000m級の上りを得意とするチッコーネが勝利したが、大会2日目にしてログリッチvs.エヴェネプールの構図が際立っていく。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】ボルタ・ア・カタルーニャ 第7ステージ|Cycle*2023
ボルタ・ア・カタルーニャ
獲得標高が4000mに達しようかという第3ステージで、エヴェネプールが攻勢に出る。スーダル・クイックステップのアシスト陣が重要局面でメイン集団を率いると、ログリッチ含むユンボ・ヴィスマ勢の脚を削ることに成功。残り5kmを切ってのエヴェネプールのアタックに、ログリッチは反応こそできたものの少々後手に回る。フィニッシュ前250mでスパートしたエヴェネプールが、ログリッチに2秒差をつけてステージ優勝。個人総合では前日までと同様に2位ながら、いよいよトップと同じタイムで並んだ。
2人の勝負に決定的な差が生まれたのは、第5ステージだった。前日のスプリントステージを経て迎えた超級山岳フィニッシュ。最大勾配20%のロ・ポルトでの大一番は、この日も強力アシストから放たれたエヴェネプールが先制攻撃。それまでと変わらずログリッチがチェックし、さらにはマルク・ソレルとジョアン・アルメイダのUAEチームエミレーツコンビも続いた。個人総合トップを懸けるログリッチとエヴェネプール、順位アップを図るアルメイダと、それぞれの思惑がマッチして後続との差を拡大。あとは誰が勝ち、誰がリーダージャージを手にするか……。
僅差の争いに一日の長があったのは、ログリッチだった。攻撃的なエヴェネプールの動きを利用し、残り100mで猛スパート。「仕掛けどころを誤った。最後は完全に脚がなくなってしまった」と悔やんだエヴェネプールに6秒差をつけての勝利。両者の総合タイム差は10秒となり、この段階でエヴェネプールはほぼ“ステージ狙い”に切り替えたのだった。
10秒とはいえ確たるリードを手にしたログリッチだったが、もちろん最後まで力も、気も抜くつもりはなかった。第6ステージでは後半の2級山岳でエヴェネプールがアタックすると即座に反応。前を行く選手をパスして2人でレースをリードしたが、逃げ切りを誘ったエヴェネプールの「ステージ優勝を狙いたい」との言葉をスルー。
第7ステージで区間優勝したエヴェネプール
結局、最終・第7ステージでエヴェネプールのステージ2勝目がかなうわけだが、モンジュイックの周回コースで追随したのは、やはりログリッチ。リーダージャージまでは手放すまいと、最後の最後までピッタリとライバルをマークし続けたのだった。
こうして、個人総合優勝ログリッチ、2位エヴェネプールの順位が確定。最終的な総合タイム差は6秒。小さいようで大きな、大きいようで小さな、そんな2人の差は、いずれ……きっとジロが終わる頃には分かることだろう。
ここで再び「両者の最終結果を分けたもの」に話を戻すが、着順以外で挙げられるものとするなら、“レースリーダー経験の差”かもしれない。
大会初日にリーダージャージを得たログリッチは、その後終始ディフェンシブな走りに徹し、トップの座を明け渡すことはなかった。早めの仕掛けから独走に持ち込むエヴェネプールの勝ちパターンもすべて封じ、それでも前へ突き進む若武者の勢いを最終局面までには摘み取った。第3ステージこそピンチだったが、あの日トップに踏みとどまったことも、ライバルに流れを渡さない要因になった。
彼らにとって“本番”であるジロでは、急峻な山岳はもとより、例年より比重が高いタイムトライアルも加わる。2人とも、山岳・TTのバランスに長け、3週間の戦いをモノにする総合力はプロトン内で群を抜く。
「肩の怪我で長く休んでいたのに、ここまで戦えるようになるとは想像していなかった。ただ、今日が良かったからといって、明日以降もこれが続くとは限らない。ジロへ向けて、彼(ログリッチ)はまだまだ取り組むべきことが残されている」(ユンボ・ヴィスマ スポーツディレクター、マルティン・ゼーマン)
「ボルタ・ア・カタルーニャに関してはこれ以上ない成果だよ。ステージ2勝に総合表彰台だからね。ただ、個人的なことよりも、レースを通して僕たちのチームがどれほど強いかが分かった。これは大きな自信になるね」(エヴェネプール)
険しい山がたくさん登場するボルタ・ア・カタルーニャ
ジロへ期待を十二分に膨らませる、両陣営の言葉である。
主役を張った2人以外にも、先々への希望をつかんだ選手たちが多数存在する。
個人総合3位に輝いたアルメイダも、相性の良いジロを目指す1人。今大会でのトップ2との総合タイム差は2分以上開いたが、本番ではどこまで縮められるだろうか。
ツール組も順調に脚を仕上げている。タデイ・ポガチャルの山岳アシストを務める予定のソレルは何度も見せ場を作って個人総合4位で終え、ランダも終始安定した走りで同5位。初のツール出場を決めているジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)も、ビッグリザルトこそなかったものの同8位でまとめた。
新星も現れた。エヴェネプールに続くベルギーの至宝と言われる20歳のキアン・アイデブルックス(ボーラ・ハンスグローエ)は、大先輩ヒンドレーとの共闘で個人総合9位。マウンテンバイクでシドニー五輪金メダルのミゲル氏を父に持つ、レニー・マルティネス(グルパマ・エフデジ)は19歳ながら同12位と健闘(父・ミゲル氏は47歳の今もアマチュアレースで活躍中!)。両選手は今季、ブエルタ・ア・エスパーニャでグランツールデビューを予定。今回の“試走”はおそらく、首脳陣から花マル合格が与えられていることだろう。
第4・6ステージの2回あったスプリントチャンスは、カーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)がどちらもゲット。スプリント王国の同チームで、ステージレース要員として奮起する24歳。こちらもジロに出場を予定している。
そして今大会は、われらが新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)の2023年初戦でもあった。総合エースのランダのアシストとして、集団内でのポジショニングを主に担当。随所で集団前方へ上がるシーンも見られ、日本のファンを喜ばせた。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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