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【Cycle*2023 ミラノ〜サンレモ:レビュー】ポッジオで仕掛けたポガチャルをカウンターでかわしたマチュー・ファンデルプールが大会初優勝
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸初優勝のファンデルプール。左が2位ガンナ、右が3位ファアンアールト
イタリア語で「春」という意味のプリマヴェーラと呼ばれる伝統のワンデーレース、第114回ミラノ〜サンレモが3月18日、世界最長距離となる294kmのコースで開催され、アルペシン・ドゥクーニンクのマチュー・ファンデルプール(オランダ)が初優勝した。
「参加するのは最も簡単なモニュメント(伝統大会)だけど、勝つのは最も難しい。祖父の優勝から62年経った今、ここで優勝したことは誇りに思うし、幸せだ」とゴール後に語ったファンデルプール。1961年には祖父のレイモン・プリドール(フランス)が同じように後続集団を置き去りにして独走優勝している。
ミラノ〜サンレモは世界最長距離約300kmを走る
北イタリアの中心都市、ミラノの近郊から地中海リヴィエラ海岸に位置する観光地サンレモを目指すレース。10時16分に出場175選手がスタートし、レース中盤まではロンバルディア平原を南下した。
6km地点で2選手が先行し、15km地点でこれに7選手が追いついて第1集団を形成。144.4km地点のパッソ・デル・トルキーノ峠を越え、地中海のリヴィエラ海岸に突入した165km地点で後続との差は2分55秒だった。
あらかじめ予報されていたが、この日は東からの風が選手にとってはフォローウインドとなり、メイン集団を加速させた。そしてついに265km地点で第1集団を吸収して、レースは振り出しに戻る。
地中海のリヴィエラ海岸を西に進む
ここから、残り21.6km地点にあるチプレッサの丘(標高239m)をにらみながらUAEチームエミレーツが加速。優勝の最有力であるエースのタデイ・ポガチャル(スロベニア)を勝負どころでいい位置にするための作戦だ。チプレッサの下りでボーラ・ハンスグローエのニルス・ポリッツ(ドイツ)が仕掛けるが、これは不発。
勝負は残り5.5kmをピークとするポッジオ・ディ・サンレモ(標高160m)に持ち込まれた。上り坂でポガチャルをアシストするティム・ウェレンスがペースアップした。満を持してポガチャルがアタックすると、これにファンデルプール、ユンボ・ヴィスマのワウト・ファンアールト(ベルギー)、イネオス・グレナディアーズのフィリッポ・ガンナ(イタリア)が反応。4人の先頭集団が形成された。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】|YouTube
【ハイライト】ミラノ〜サンレモ|Cycle*2023
欧州に春を告げるロードレース、ミラノ〜サンレモ
ファンデルプールが勝負に出たのは頂上手前だ。
「僕のプランはポッジオでもう少し早いタイミングのアタックをする予定だった」というファンデルプール。最後の下りに入ったところでポガチャル、ファンアールト、ガンナとの差がわずかに開いたことを見ても、「下り坂でリスクを冒さないことにした」と冷静さを失わなかった。
「自分のダウンヒル能力の80%で降りた。もしクラッシュしていたら自分を許すことはできなかったけど、仮に捕まってもゴールスプリントで勝てる可能性は高かったから」
最後の平坦路に入って踏み直すファンデルプール。ポガチャル、ファンアールト、ガンナは差が詰まらないことを悟って表彰台を目指した牽制作戦に転じる。ファンデルプールはそのままゴールとなるサンレモのローマ大通りを独走し、「特別なレースでの特別な勝利だ」と最後は両手を挙げてフィニッシュラインを通過した。
1週間前に行われた7日間のステージレース、ティレーノ〜アドリアティコでは活躍を期待されながら、チームメートの勝利にこそ貢献したが、個人成績としては期待はずれだった。
ポッジオ・ディ・サンレモを登るポガチャル、ガンナ、ファンアールト、ファンデルプール
「ミラノ〜サンレモで勝つのはとても難しい。ティレーノ〜アドリアティコでは集団に隠れていたわけではなく、ベストな体調レベルではなかった。そのレース後にチーム全員と素晴らしいトレーニングの週を過ごしたし、彼らは僕のために素晴らしい仕事をしてくれた。それがすごい。チームとして今回の勝利を祝いたい」(ファンデルプール)
「追い風のおかげでチプレッサを登るのは思ったより簡単だった。だから僕はチームメートに、ポッジオの上り始めのポジショニングが重要だと伝えた。クインテン・ヘルマンスとセーアン・クラーウアナスンが僕を先頭に立たせるいい仕事をしてくれた。ミラノ〜サンレモでのこれまで3回の参加では、おそらく守備的に乗りすぎた。その反省を生かして今回は最後に攻撃した」
2022年の覇者、バーレーン・ヴィクトリアスのマテイ・モホリッチ(スロベニア)は前年に引き続く、勝利をものにした昇降式シートポストを搭載した自転車を用意したが、ポッジオ・ディ・サンレモで5位以降の追走集団の中に埋もれては歯が立たなかった。
ファンデルプールがトップでポッジオ・ディ・サンレモの下りに入った
2019年の覇者で、スーダル・クイックステップのエースとしてこの大会に照準を当てていたジュリアン・アラフィリップ(フランス)もポッジオ・ディ・サンレモでの仕掛けに応じられなかった。アラフィリップはレース途中で落車したものの、その影響はなかったとされるが、「ポッジオ・ディ・サンレモの上りでいい位置をキープできなかったのが敗北の理由」と落胆を示した。
「今年は2位が多いが、今日は地元イタリアで開催されるとても特別なレースだった」というガンナがファンアールトとポガチャルを制して2位に。
「チームのサポートに感謝したい。結局、マチュー・ファンデルプールはいい走りをして、先頭の4人から抜け出してしまった。僕は最善を尽くしたと思う。2位になったのは少し残念だけど、自分のパフォーマンスには満足している」
3位の表彰台はファンアールト。
「ミラノ〜サンレモでの3回目のトップ3に満足しなければならない。レースがどうだったかは後悔していない。マチューは彼が超強いことをみんなに示した。彼は適切なタイミングで強力な動きをした」とファンアールト。
「1日中高速走行だった。チプレッサは思ったより簡単だった。誰もが思っていたよりも向かい風に助けられたからだ。それがポッジオに大きなグループをもたらした。最後はいいグループだった。僕は本当に強い選手と一緒にいた。最後は自分が勝つために勝負したのだから、マチューにおめでとうと言いたい。彼はとても強かった」
レースを終えた選手らの多くは当日のうちに国境を超えてフランスのニース入り。本格化するクラシックレースの舞台であるベルギーに向かう移動を始めている。春到来を告げるプリマヴェーラはこうしてファンデルプールが勝利したが、宿敵ファンアールトやポガチャルはすでに次のレースでの雪辱に燃える。
2023ロードシーズン、いよいよ本格化。
初優勝のファンデルプール
祖父プリドールと同じ場所でガッツポーズするファンデルプール
ファンデルプールがサンレモのローマ大通で勝利を確信した
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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