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【Cycle*2023 ミラノ〜サンレモ:プレビュー】春のクラシックシーズン到来、今年もモホリッチが鮮やかなダウンヒルを披露する
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸紺碧のリヴィエラ海岸をサンレモに向けて走る
イタリア語で「春」という意味のプリマヴェーラと呼ばれる伝統の1戦、ミラノ〜サンレモが3月18日(土)に開催される。2022年に秘密兵器を駆使して逃げ切り勝利したバーレーン・ヴィクトリアスのマテイ・モホリッチ(スロベニア)をはじめ、UAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャル(スロベニア)、元世界チャンピオンのペーター・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)、イネオス・グレナディアーズのミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)、スーダル・クイックステップのジュリアン・アラフィリップ(フランス)らが激突するという注目レースとなった。
北イタリアの長く厳しい冬が終わる時期に、紺碧に輝く地中海リヴィエラ海岸を目指して突き進む伝統レース。ミラノ〜サンレモという言葉を聞くだけで、イタリア人ならハミングしたくなる気持ちになるはずだ。
1907年に始まって2023年で114回目。「落ち葉のレース」イル・ロンバルディアの1905年にはかなわないが、1909年に始まったジロ・デ・イタリアよりも歴史は長い。
そしてなによりも世界最長距離となる294kmを走るという特徴がある。
ワンデーレースで距離294kmというのは、現在のUCI(国際自転車競技連合)規定では認められない長さだ。しかしこのレースはUCI規定が現在のものに変更される以前から開催されていて、UCI側も伝統を重んじるとともに、大会に敬意を表するために公認している。
ちなみに出発地からリアルスタートまでのニュートラル区間を加えると300kmを超えるというから恐ろしいワンデーレースだ。
そんな長丁場のレースだが、毎年わずかなコース修正はあるものの、ミラノからサンレモに至るコースはほとんど変わらない。レース中盤まではロンバルディア平原を走る。2023年のコース上では144.4km地点となるところにパッソ・デル・トルキーノ峠がある。標高532mの峠でピークはトンネルになっているが、ここをクリアするといよいよ地中海のリヴィエラ海岸が眼前に広がる。輝くばかりの太陽が選手たちを歓迎してくれることになる。
2022年、ワウト・ファンアールト、ファンデルプール、ポガチャルがアタック
レースはここから地中海沿岸を西に進む後半戦に突入。勝利をにらんだ戦いが本格化する。このあたりの地中海沿いは断崖になっていて、トンネルも多い。そして残り21.6km地点にあるチプレッサの丘(標高239m)と、残り5.5kmのポッジオ・ディ・サンレモ(標高160m)が勝負のポイントと言われている。ゴールはサンレモの目抜き通りであるローマ大通りだ。
勝負の行方に最後の2つの上りが関わってくるのは当然だが、ここでアタックすれば勝てるなどという保証はない。
「ゴール勝負になればスプリンターにはかなわない。チプレッサで仕掛けて優勝争いを絞り込んでから、ポッジオ・ディ・サンレモで勝負に出たい」
「ポッジオ・ディ・サンレモで猛烈なアタックを決めることでゴールまでの5.5kmを逃げ切ることができる」
「最後のポッジオ・ディ・サンレモはそれほどきつい上りじゃないから、そこでパンチャーを逃さなければローマ通りでスプリント勝利できる」
有力選手がそれぞれの思わくを描いてフィナーレを迎える。その動きをチェックしながら観戦するのが実に面白い。
ポッジオ・ディ・サンレモの下りからモホリッチが勝負に出た
ところが2022年は2つの上り坂でも、ゴール勝負でもなく、ポッジオ・ディ・サンレモからの短い下りが勝利の女神の行方を決めた。スロベニアチャンピオンのモホリッチが最後の下り坂で抜け出すことに成功したのだ。チームメートの新城幸也は新型コロナウイルス感染後の初レースとなったが、エースをアシストする役割を果たし、勝利に貢献した。
このレースでモホリッチが使用したのが、マウンテンバイク選手が使用する昇降式シートポストだ。ハンドルバーにあるボタンを押すとサドルの固定が解除されるシステムで、体重をかければ沈み込み、お尻を浮かせば油圧により上昇する。ダウンヒル時には重心を下げたほうが安定走行できるのが利点。重さが欠点だが、チームは軽量化されたものを入手していた。
モホリッチはダウンヒルがうまく、新城らチームメートはポッジオ・ディ・サンレモまで集団のままレースをコントロールするのが作戦。モホリッチがポッジオ・ディ・サンレモからの下り坂で計画通りにアタックした。ポッジオ・ディ・サンレモの下りはテクニカルだが、ここでモホリッチのアドバンテージが発揮される。
2022年、モホリッチがゴールまで逃げ切った
「リスクを犯してもここで勝負するつもりだった」とモホリッチ。しかし栄冠と悲劇は紙一重だ。アタックしてすぐに舗装部を外れて側溝に逸脱したが、両輪をジャンプさせて道路に生還した。さらに途中のコーナーでは両輪を滑らせてタイムロス。平坦路に出る最後のコーナーではチェーンが外れたが、乗車したまま修正した。
「プッシュしすぎたかもしれないし、エネルギーを保てばよかったのかもしれないけど、それをやり遂げることができてよかった」
後続集団との差はわずかだったので、平坦路となるサンレモの目抜き通りでも全力でペダルを踏み続け、ゴールまで逃げ切った。スロベニア選手が勝ったのは初めてだった。
「トレーニングで昇降式シートポストを試してみたら、こんなに速く走れるのかとびっくりした。だからレースが楽しみだった」というモホリッチ。2023年も同じシステムを導入することがSNSなどですでに報じられている。
有力候補はまだたくさんいる。3月15日に開催されたミラノ〜トリノのゴール勝負で2位に甘んじたモビスター チームのフェルナンド・ガビリア(コロンビア)が雪辱を期して乗り込んでくる。アスタナ・カザクスタン チームのマーク・カヴェンディッシュ(英国)、ボーラ・ハンスグローエのサム・ベネット(アイルランド)もスプリント勝負を狙う。さらに圧倒的な爆発力を持つアルペシン・ドゥクーニンクのマチュー・ファンデルプール(オランダ)など。
UCIワールドチームは全18、ワイルドカードの7チームを加えて合計25チーム、1チームは7人編成。2023シーズンがいよいよ本格化する。
2020年、ファンアールトがアラフィリップを撃破
2019年優勝のアラフィリップ。左が2位オリバー・ナーセン、右が3位クフィアトコフスキ
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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