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【Cycle*2023 パリ〜ニース:レビュー】春の頂上決戦は全力でゲームを仕掛けたポガチャルに軍配、チームTTでのタイム損失はボーナスタイムで補う
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2023年パリ〜ニース 総合表彰台(優勝ポガチャル、2位ゴデュ、3位ヴィンゲゴー)
まるで主演男優の舞台挨拶。ニースの地中海岸プロムナード・デ・ザングレにて、2023年パリ〜ニースは、タデイ・ポガチャルの独走勝利で幕を閉じた。総合2位ダヴィド・ゴデュと総合3位ヨナス・ヴィンゲゴーを両脇に従え、燦然と輝くイエロージャージを身にまとい、来る7月の本編に向けて自らの強さをたっぷりと見せつけた。
「パリ〜ニースを勝つのはずっと夢だった。そして今、僕は成し遂げた。信じられない」(ポガチャル)
いまだ冬色のパリ郊外で繰り広げられた初日に、いきなりポガチャルは全力でゲームを仕掛けた。小さな登りで加速に乗じ、プロトン全体を慌てさせたり。中間ポイントへ向けてスプリントを切ったり。しかもフィニッシュまでの6kmを、そのまま先頭で突っ走る気まんまん!
昨ツール覇者ヴィンゲゴーだって、後手に回りつつも、ライバルの後輪を逃さなかった。しかし「ヴィンゲゴーが一切の協力体制を拒否した」ことで一旦休戦。ポガチャルはおとなしくプロトンへと帰った。ただ中間スプリントボーナスタイム6秒を手に入れていたおかげで、集団スプリントフィニッシュを制したティム・メルリールの背後で、ツール総合2勝の24歳は早くも6秒遅れの総合3位につけた。初めてのパリ〜ニースの、初めての日に、早くも見慣れた純白の新人賞ジャージに着替えた。
ポガチャルはボーナスタイムに強いこだわりを見せた。最終的には50秒をかき集め(ゴデュ24秒、ヴィンゲゴー10秒)、うち20秒が中間ポイントで手に入れたもの。当然2日目も、平地であろうが、構わず中間スプリントへ打って出た。1位通過でまたしても6秒収集。おかげでスプリンターたちのポイント取り分はごっそり減ってしまい、大会の終わりを待たずに俊足たちは次々と戦線離脱し、ついにはポガチャルが緑の「キング・オブ・スプリンター」ジャージをも持ち帰ることになる。
すべては過去10大会のうち4回が10秒差以内で決してきた「ミニ・ツール」を攻略するためであり、3日目に組み込まれた、全長32kmチームタイムトライアルでの損失を埋め合わせるためでもあった。なにしろユンボ・ヴィスマは、新旧個人TT世界チャンピオンを引き連れ、大会に乗り込んできた。ただ「秒数を稼いだおかげで、不安なくTTTに臨める」と前夜に語っていたポガチャルは、「先頭のタイムを採用」という特殊ルールを最大限に活かすべく、フィニッシュラインへ向けて約350mもの単独ロングスプリントを敢行。この日の最速タイムを記録したヴィンゲゴーからは23秒遅れで走り終え、被害は最小限に留めた。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】|YouTube
【ハイライト】パリ〜ニース 第8ステージ|Cycle*2023
移籍後も活躍が著しいティム・メルリール
ティム・メルリールが今年3枚目の「初日」リーダージャージを着用し、続いてマッズ・ピーダスンが区間勝利とイエロージャージを同時に競り落とし、アルガルヴェ一周で凄まじい好調さ披露したマグナス・コルトが、3日目には黄色いシャツを受け継いだ。こうして日替わりで持ち主が変わってきたマイヨ・ジョーヌも、4日目には、とうとうポガチャルのもとへとやって来る。
大会最初の上りフィニッシュへ向かって、ポガチャルは計算高い走りを披露した。UAEチームエミレーツのアシストたちを、集団先頭で勢力的に働かせた。中間ポイントは最小限の努力で、ボーナス2秒をきっちり収集。最終登坂では真っ先に仕掛けたヴィンゲゴーの背後に、ひたすら冷静に張り付くだけで、ゴデュのカウンターアタックにも脊髄反射せず。
代わりに残り2.5kmで強烈な一発を打ち込むと、もがくヴィンゲゴーを軽々と振り落とした。前方で上手く共闘したゴデュも、残り100mでの鮮やかな加速で突き放した。パリ〜ニース初登場のフィニッシュ地ラ・ロージュ・デ・ガルドに、ポガチャルは自らの名を刻んだ。
5日目のスプリンター向けステージでは、総合2位につけるゴデュが、「ポガチャル戦法」を試みる番だった。開幕前はポガチャルvsヴィンゲゴーにばかり話題が集中していたが、「フランスの星」も自らの存在をアピール。しかも、TTTでは世界屈指のスペシャリスト、シュテファン・キュングの手厚い牽引を受けた小柄なクライマーは、この日はエーススプリンター、アルノー・デマールから発射された。おかげでステージの終わりに、ポガチャルとの総合差をまんまと10秒から6秒に縮小した。
ちなみに今年に入って不仲が表沙汰となったグルパマ・エフデジの2人だが、「親友でなくとも最高の同僚であればいい」とゼネラルマネージャーのマルク・マディオが言い放ったように、最終日8日目にもデマールが「途中棄権の前に」ゴデュの中間ボーナス取りに協力している(この時はポガチャルに先行を許してしまうのだけれど)。一方ユンボのエーススプリンター、オラフ・コーイは、フィニッシュへのスプリントですべてを蹴散らした。ユンボにとってはTTTに続く区間2勝目だった。
チームタイムトライアル最速タイムでフィニッシュしたユンボ・ヴィスマ
強風がコース上の大木をなぎ倒し、第6ステージを中止に追い込むと同時に、厚い冬雲も遠くへと追いやった。南仏コートダジュールには青空が広がり、土曜日のクイーンステージでは、いよいよユンボが反撃を企てる番だった。高い標高を「弱点」と公言しているポガチャルを蹴落とそうと、標高1676mのフィニッシュ目指して高速テンポを刻んだ。そして2019年ツール・ド・ラヴニール総合覇者トビアス・フォスが全力での牽引を終えると、残り6km、昨ツール覇者が自ら加速を切った。
「このパリ〜ニースがシーズンの最大目標ではない」と明言するヴィンゲゴーは、逆に2人の敵に翻弄されることになる。それでも2018年と2016年のラヴニール覇者の交互のカウンターアタックに、粘り強く対処を続けた。何度置き去りにされようが、繰り返し追いつく精神力を証明した。
「加速があまりにも強すぎたから、僕は自分のリズムで走ることに決めたんだ。各アタックに必ず追いけたという事実が、少なくとも、僕に自信を与えてくれた」(ヴィンゲゴー)
ただ、それも、残り300mまで。最後の力を振り絞ってヴィンゲゴーがスプリントを仕掛けると、それがポガチャルの爆発的加速を誘発した。ゴデュは2秒遅れて、ヴィンゲゴーは6秒遅れてフィニッシュラインを越えた。今大会のヒエラルキーが確定した瞬間でもあった。
最終日の朝、ニースのプロムナード・デ・ザングレから走り出した時点では、それでもポガチャルとゴデュのタイム差はわずか12秒。「攻撃の作戦は練ってきた」と、2位ゴデュはパリ〜ニース最終日の「伝統」大どんでん返しを夢みた。58秒差の3位ヴィンゲゴーも、決して完全に諦めてはいなかった。逃げに仕事人ヤン・トラトニクを送り込み、もしもの場合に備えた。
もちろん1位ポガチャルは、最初から最後まで、決して態度や戦術を変えることはなかった。
「攻撃は最大の防御なり、と言うからね」(ポガチャル)
上りフィニッシュでライバルたちを突き放したタデイ・ポガチャル
大会最後の山岳にして、パリ〜ニースのシンボルとも言えるエズの山道で……ポガチャルはひとり飛び出した。ほんの目と鼻の先のモナコで暮らし、トレーニングで良く使用するルートだけに、「どれだけ脚を回せば山頂へとたどり着けるか」を知り尽くしていたという。山頂まで3.5km、フィニッシュまで18.8km。ライバルたちを後方に完全に置き去りにし、紺碧の海岸線へと単独で帰ってきた。
「最高のシーズンスタートが切れた。この先のシーズンでもはや何も勝てなくても、問題ないくらいに、良い成績を上げられた」(ポガチャル)
春の陽光に照らされて、ポガチャルがパリ〜ニースの王者となった。ゴデュとヴィンゲゴーに改めて33秒を押し付け(+ボーナスタイム)、最終的には総合2位以下に53秒差をつけた。区間3勝に、マイヨ・ジョーヌにマイヨ・ヴェール、マイヨ・ブランを独占。フランス語で言うところの「パンくずさえも」ライバルたちには残さなかった。大逃げ勝利さえ、大会を通して許さなかった。
またアルプスの向こう側のティレーノ〜アドリアティコでは、同じスロベニア出身のプリモシュ・ログリッチが、やはり区間3勝で総合を勝ち取った。つまり1年前の黄ジャージと青ジャージが、そっくり入れ替わったことになる。
「去年だってヨナスは、ティレーノでは総合2位だったし、僕のアタックにはついて行けなかった。でも、ツールでは、逆に僕を振り落とした。だから、この先何が起こるかなんて分からない。もしかしたら、他の誰かが、今年は頂点に駆け上るかもしれない。ただ、確実なのは、僕がツール総合優勝に向けて戦うことだけ」(ポガチャル)
このパリ〜ニースの閉幕の機会に、2024年ツール・ド・フランス最終2日間のステージ構想が発表された。最終日前夜には、今大会第7ステージの戦いの舞台ともなったラ・クイヨルの山頂で、フィニッシュが争われる。そしてパリ五輪開会の直前、史上初めてニースで迎える大団円は、モナコからニースへの全長35kmの個人タイムトライアル。ポガチャルが栄光のアタックを決めた、エズ峠を越える!
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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