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【Cycle*2023 ストラーデ・ビアンケ:レビュー】“スーパーピドコック”トーマス・ピドコックが有言実行の初優勝 「この春はこれで大成功! でももっと勝てるように努力してみる!」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介最後まで諦めずに踏み続け、栄冠に輝いたトーマス・ピドコック
2007年の初開催以来、数々の名場面を演出してきたイタリア・トスカーナの“白い道”。2023年大会で新たにスーパースターを誕生させた。トーマス・ピドコック、23歳。身長170cmと、大きな体躯のライダーが多いプロトンにあっては小柄な部類だが、抱えているエンジンと意志の強さはもはや一流だ。イギリス・リーズが生んだ「小さな巨人」に、ストラーデ・ビアンケ制覇の称号が加わった。
「バイクの上から見る景色も、白い砂の道も、沿道で盛り上げてくれるファンも、ストラーデ・ビアンケは特別なんだ。そこで勝つことができて本当にうれしい。コースも僕向きだったし、最初から最後まで楽しんで走れた」(トーマス・ピドコック)
優勝経験者5人がエントリー。豪華すぎるメンバーがスタートラインにそろった今回。彼らと並び、ピドコックは今大会の優勝候補最右翼の1人とみられていた。自己最高位は2021年大会の5位。そのときの印象は良かったのだという。
シエナの街を発着とするレースは、全行程184km。丘陵地帯を行き、その途中では未舗装のグラベル区間を通過する。“白い道”と呼ばれるその区間は、全11セクションで総距離63km。コースの3分の1がグラベル区間になる。レース当日は好天に恵まれたが、直前の週半ばまでは雨が続いていた関係で、路面は固く締まっていた。
長くタフなコースへ飛び出したプロトン。30km地点を目前に形成された3人の逃げがしばしレースを先導。メイン集団はタイム差を広げすぎず、それでいて落ち着いて進行していった。
流れが変わったのは、フィニッシュまで51kmのタイミング。長距離グラベルセクションの1つ、セクター8でアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)のアタックに、アンドレア・バジオーリ(スーダル・クイックステップ)が反応。ワンテンポ遅れて追いかけたのがピドコックだった。さらに2kmほど進んだ先の急坂区間モンテ・サンテ・マリエでピドコックがアタック。これでベッティオルとバジオーリを突き放すと、1人で前を行く3選手めがけて追撃を開始した。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】ストラーデ・ビアンケ|Cycle*2023
特別な景色の特別なレース、ストラーデ・ビアンケ
ピドコックが攻めている間、メイン集団も次の一手に向けて各チームのエースクラスが腰を上げていた。ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)がペースに対応できずポジションを大きく下げたのは意外だったが、他の有力ライダーは前線をキープ。それをアンドレアス・クロン(ロット・デスティニー)やロマン・グレゴワール(グルパマ・エフデジ)といった若手が積極的に攻撃する構図が見られるようになっていく。
そうしてメイン集団は精鋭だけが残り、いよいよピドコックに迫ろうかというムードへ。彼らは今季ロード初戦のマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)をも後ろへと追いやることに成功し、前を追いつつ後続の合流を許さないという意思が統一されていく。何より最優先は先頭で飛ばすピドコックを捕まえること。30秒あった差は20秒、10秒と減っていく。
一方のピドコックはセクター9のモンテ・アペルティで、逃げの残党であるアレッサンドロ・デマルキ(チーム ジェイコ・アルウラー)を切り離し、独走態勢に入っていた。フィニッシュまでは残り23km。10人ほどの追走グループは急坂のたびにアタックが発生し、それをきっかけにピドコックの背中が一層大きくなる状況となっていた。
「“あぁ、なんてことをしてしまったんだ……”と思ったよ。アタックが早すぎたとちょっと落ち込んだね。僕はタデイ・ポガチャルじゃないんだと(笑)。でもこうなってしまった以上、行けるところまで逃げるしかなかった。結果的にそれが成功につながったのだと思う」(ピドコック)
最終・セクター11でピドコックをすぐ目の前にまで捉えた追走グループだったが、残り10kmを切ってから急激に牽制モードに。アタックとキャッチを繰り返すようになると、協調体制は乱れ、前に見たピドコックの姿も徐々に、徐々に遠ざかっていった。
最小で9秒まで縮まったタイム差は、残り5kmを切って30秒近くまで拡大。残り1kmを示すフラムルージュを通過する時点でも29秒差。得意の下りで加速し、最後まで脚が衰えなかったピドコックにとっては十分なリード。力強いペダリングで、シエナ・カンポ広場への上りをこなしてみせた。終わってみれば、184kmを4時間31分41秒で走破。平均時速40.636kmは、今回を含めた全17回で最速スピード。そこにも、ピドコックの“スーパー”さを感じさせる。
週半ばまでは雨が続いていた関係で、路面は固く締まっていた
「チームミーティングで今日は勝つとみんなに告げたんだ。それで気持ちは固まったよ。独走に持ち込むタイミングが早すぎたと思うけど、あの場面しか選択肢がなかったようにも思う」(ピドコック)
ジュニア時代からロード、マウンテンバイク、シクロクロスで世代のトップを走り、マウンテンバイクでは東京五輪で金メダル。シクロクロスでは昨年、世界選手権を制覇。今年は冬場のシクロクロスシーズンを早めに切り上げてロードシーズンに備えてきた。今季前半は北のクラシックからアルデンヌクラシックまで、幅広く目標を設定する。
「ストラーデ・ビアンケ優勝でこの春は成功したようなもの。満足している。だけど、せっかくだからもう少しトライしてみようと思う。大きなレースをもっと勝てるように努力してみるよ」(ピドコック)
イギリス人ライダーとしてストラーデ・ビアンケ初優勝に沸いた今回。表彰台争いも熾烈で、ヴァランタン・マドゥアス(グルパマ・エフデジ)が2位、ティシュ・ベノート(ユンボ・ヴィスマ)が3位に入線。前述したグレゴワールも終盤まで追走グループに属して、最終的に8位フィニッシュ。今季プロデビューの20歳が、大きな可能性を示している。
通例で3月最初の土曜日に行われるストラーデ・ビアンケは、時期的に春の到来を告げるレースとしても意味合いが年々深くなっている。ここから、パリ〜ニース、ティレーノ〜アドリアティコときて、ミラノ〜サンレモ、そして北のクラシック、アルデンヌクラシック、さらに言えばツール・ド・フランスへも……。各レースまったく違う物語のようで、どこか一筋つながっているシナリオが存在する。それが、われわれが大好きなロードレースの魅力であり、不思議なところでもある。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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