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【Cycle2023 ティレーノ〜アドリアティコ:プレビュー】イタリア半島横断・春のレースはジロに照準を定めたログリッチが参戦、ファンデルプールとファンアールトの対決やアラフィリップの活躍にも期待
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸2019年に総合優勝したログリッチ。リーダージャージは海をイメージした青色
イタリア半島をはさむティレニア海とアドリア海を結ぶ7日間のステージレース、ティレーノ〜アドリアティコが3月6日(月)から12日(日)まで開催される。2022年は7月のツール・ド・フランス前哨戦のようなバトルが展開され、UAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャルがユンボ・ヴィスマのヨナス・ヴィンゲゴーを1分52秒差で制して大会2連覇を達成している。2023年で58回目となる大会も、スター選手が顔を揃える豪華な陣容となった。
イタリア半島の西に広がるのがティレニア海、東にあるのがアドリア海で、ティレーノ〜アドリアティコはその名称の通り、イタリア半島を西から東に横断する春のロードレースだ。
2023年大会の参加チームは合計25。UCI(国際自転車競技連合)ワールドチームが18、ワイルドカード(主催者推薦)で出場権を獲得したUCIプロチームが7。大会公式タイムキーパーとなったスイスの腕時計ブランド、チューダーがスポンサーするチームも初参加を決めた。1チームは7人編成だ。
2021年大会ではポガチャルが初優勝し、そのシーズンのツール・ド・フランス総合優勝に向けて弾みをつけた。スロベニア勢の総合優勝は2019年にプリモシュ・ログリッチが達成して以来、2人目だった。22歳での優勝は歴代第5位の若さ。最年少優勝は1978年にジュゼッペ・サロンニ(イタリア)が20歳で達成したときだ。
ティレーノ〜アドリアティコはシーズン序盤の中規模ステージレースとして、そのシーズンのツール・ド・フランスでの活躍を占う意味で重要なものとなっている。2021年はポガチャルとワウト・ファンアールトの一騎打ちだった。
初日から第3ステージまでファンアールトがリーダージャージを着たが、第4ステージでポガチャルがファンアールトに45秒差をつけて首位に。第7ステージの個人タイムトライアルでトップタイムをたたき出したのはファンアールトで、ポガチャルとの差を1分15秒から1分03秒に縮めたが、総合2位に甘んじた。
2021年にファンアールトを制して2勝したファンデルプール
ポガチャルは個人総合のほかに山岳賞と新人賞を獲得。ポイント賞はファンアールト。総合敢闘賞はステージ2勝を挙げたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス※)だった。※当時のチーム名
春のワンデーレースを狙うパンチャーと、夏場のマイヨ・ジョーヌ獲得を目指すオールラウンダーがそれぞれの思惑をもって混在することもこのレースを面白くさせている。
欧州の冬は日本よりも厳しく、その環境下でオフトレをこなしてきた選手らが自らの成長を試す機会として意気揚々と登場する。「ようやく春が来た」と紺碧に輝く海を見ながらシーズンの本格到来を体感できるに違いない。
2022年はポガチャルがヴィンゲゴーを制して総合優勝したが、勝負どころの第5ステージではステージ優勝のワレン・バルギルから28秒遅れた集団でポガチャル、ヴィンゲゴー、レムコ・エヴェネプール、ジャイ・ヒンドレーが団子状態でゴール。つまり奇しくもその年のグランツール総合優勝者が仲よくフィニッシュラインを通過している。
ティレーノ~アドリアティコはフランスで開催される同規模のステージレース、パリ〜ニースと例年日程がまるかぶりするため、選手はどちらかを選択しなければならない。現在このUCIワールドツアーの2大会どちらにも出場することは不可能なのだが、UCIは4年間かけて重複している主要レースの開催日程を調整し、2026年にワールドツアーシリーズの新日程を確定させる策に乗り出した。将来的には両大会を連覇するなんてオールラウンダーも出現するかもしれない。
その過渡期となる2023年、ツール・ド・フランスのマイヨ・ジョーヌを最大の目標とするヴィンゲゴーとポガチャルはともに、ツール・ド・フランス主催者が運営するパリ〜ニースに参戦することを選んだ。ユンボ・ヴィスマがティレーノ~アドリアティコに起用したのはログリッチとファンアールトだ。
ログリッチは2022パリ〜ニースの総合優勝者だ。しかしその年、4連覇に挑んだブエルタ・ア・エスパーニャの第16ステージで転倒。大ケガを負い、オフシーズンに右肩の手術を受けた。当初は3月20日(月)〜26日(日)のボルタ・ア・カタルーニャ(スペイン)でレース復帰する予定だったが、それを早めてティレーノ~アドリアティコを復帰レースとした。
アラフィリップがファンデルプール、ファンアールト、ポガチャルを制して区間勝利
ログリッチとしてみればティレーノ~アドリアティコで4年ぶりとなる総合優勝を狙いたかったであろうが、ベストコンディションではなく、足慣らしといったほうがいいだろう。このレースを選択した理由は同レースがジロ・デ・イタリアの姉妹レースであることも関与しているはずだ。チームは今季、ヴィンゲゴーがツール・ド・フランスで連覇に挑む。そのためログリッチはジロ・デ・イタリアをターゲットにする。
2023年はジュリアン・アラフィリップ、フィリッポ・ガンナ、ジャイ・ヒンドレー、ミケル・ランダ、マチュー・ファンデルプールなど大会の常連もエントリー。ジロ・デ・イタリアを1週間に凝縮するかのような面白いレースになりそうだ。
イタリア半島は日本列島にも似て、中央部に山脈が連なるので、レースは山岳の要素が極めて高い。3月4日のストラーデビアンケを皮切りとしたイタリアで開催されるRCS主催レースはその後、3月15日(水)のミラノ〜トリノ、3月18日(土)のミラノ〜サンレモと続く。勝ちに行くのか、今後のレースのための調整か? おそらく故障明けのログリッチ以外は全力で勝利を狙ってエントリーしてくるに違いない。
大会の総合優勝者に授与されるトロフィーは金色の三叉のヤリ(英語でトライデント)。これはギリシャ神話ですべての海を支配したとされるポセイドンが使っていた武具で、2つの海を制した象徴として最終日の表彰台で渡される。
左からガンナ、ランダ、ファンデルプール、アラフィリップ、ヒンドレー、ファンアールト
記者会見に臨むファンアールト(左)とアラフィリップ
第1ステージの個人タイムトライアル優勝が期待されるガンナ
ティレーノ〜アドリアティコ日程
3月6日(月)第1ステージ リド・ディ・カマイオーレ 11.5km(個人タイムトライアル)★★
3月7日(火)第2ステージ カマイオーレ〜フォッローニカ 210km★★
3月8日(水)第3ステージ フォッローニカ〜フォリーニョ 216km★★
3月9日(木)第4ステージ グレッチョ〜トルトレート 218km★★★
3月10日(金)第5ステージ モッロ・ドーロ〜サルナーロ・サッソテッロ 168km★★★★
3月11日(土)第6ステージ オシーモ・スタッチオーネ〜オシーモ 193km★★★★
3月12日(日)第7ステージ サンベネデット・デル・トロント〜サンベネデット・デル・トロント 154km★
★は難易度
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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