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【Cycle*2023 UAEツアー:レビュー】レムコ・エヴェネプールが世界王者の貫禄! 今季最大目標のジロ制覇へ、UAEツアーで確かな第一歩となる個人総合優勝 スプリンターナンバーワンはメルリールに
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介UAEツアー:総合表彰台
昨シーズン、ビッグタイトルをほしいままにし、世界チャンピオンにまで上り詰めたレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)。マイヨ・アルカンシエルで乗り込んだUAEツアーでは、チームタイムトライアルでの1勝に加えて、2回あった山岳ステージをともに2位フィニッシュ。終始安定した走りで2023年シーズン1つ目のタイトルをゲットした。
もっとも、オフシーズンは山岳トレーニングが不足していたという。昨年、数々の勝利を収めた代償として、22歳(この1月に23歳になった)の身体には相応のダメージが残った。十分な休養をとると同時に、アルカンシエル獲得の祝賀会も各方面で催された。日頃の感謝を伝えるために、できるだけ祝いの場には顔を出すようにしていたというが、一方でオフトレーニングが不足がちになってしまう点は否めなかった。
それもあってか、今季初戦だった1月のブエルタ・ア・サンフアン(アルゼンチン)ではいささか不発。立て直しの意味も込めたUAEツアーは重要な位置づけのレースだった。2023年シーズン最大目標に据えるジロ・デ・イタリア制覇へ向け、結果的にこれ以上ない価値のあるものとなった。
「現時点では満足できる成果だ。高地や専門性の高いトレーニングをしていない段階でこれだけ走れたのだからね。この先多くの改善を行っていけば、もっと良い走りができると思う。まだまだトップコンディションではないよ」(レムコ・エヴェネプール)
UAEツアーを勝ち取り、いよいよ高地トレーニングへと移る。現状を知り、どの分野を高めていくべきかを認識した。次戦は、3月20日からのボルタ・ア・カタルーニャ(スペイン)であることも明かしている。
レースを振り返ろう。今大会の主役はエヴェネプールにとどまらなかった。何しろ、スプリンター陣にして「これこそ世界スプリント選手権だ」と口をそろえるほどに、スピードマンたちが豪華勢ぞろいしたのだ。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】UAEツアー 第7ステージ|Cycle*2023
その“スプリンターナンバーワン決定戦”が第1ステージが繰り広げられると思いきや、大波乱の開幕に。北からの風がプロトンを崩し続け、リアルスタート直後から各所でエシェロンが形成される状況に。出遅れた選手たちが一度はメイン集団に復帰したものの、残り29kmでスーダル・クイックステップが仕掛けるとまたしてもプロトンは混乱に陥った。
結果的に最前線で勝負できたのは13人。エヴェネプールのほかに、チームメートのティム・メルリール、カレブ・ユアン(ロット・デスティニー)、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタンチーム)らが入り、そのままチームTT状態でフィニッシュまで到達。最後はメルリールとユアンが同時にフィニッシュラインへハンドル投げ。15分を超える写真判定の末に、オープニングウィナーはメルリールに決まった。
UAEツアー:横風で分断されたプロトン
「誰もが知る通り、カレブは強いからね。でも自信はあった。勝者が決まるまで時間がかかったけど、それだけの価値のある素晴らしいレースだったね」(ティム・メルリール)
スーダル・クイックステップは、この時点で今大会の主導権を握ることに成功した。個人総合がかかるエヴェネプールもトップグループで走り終え、ライバルの多くに51秒もの差をつけたのだ。
彼らの勢いは、第2ステージの走りにも生かされた。17.3kmのチームタイムトライアルは、EFエデュケーション・イージーポストが長く一番時計に君臨。この種目を得意とするチームが次々と後れを取り、EFのライダーたちも勝利を信じてホットシートに座り続けていた。しかし、そんな彼らの希望を打ち砕くように、スーダル・クイックステップの走りが冴えた。
前半こそリズムが合わなかったものの、中盤以降に修正。前日の勝利でリーダージャージを着ていたメルリールも積極的に牽引役を務め、終わってみれば1秒差でEFエデュケーション・イージーポストを上回った。
チームTTを終えた段階でリーダージャージはルーク・プラップ(イネオス・グレナディアーズ)に移ったが、同タイムで続いたエヴェネプールにしてみれば優勢なのも同然だった。
UAEツアー:メルリールが区間2勝
それが明確になったのが第3ステージ。今大会1つ目の山岳ステージで、ジュベル・ジャイスの頂上へ。ステージ優勝こそ、早めに仕掛けたエイネルアウグスト・ルビオ(モビスター チーム)が獲ったが、上りスプリントの様相となったメイン集団ではエヴェネプールが先着。ステージ2位ボーナスの6秒に加え、集団に1秒差をつけたことから、この時点でリーダージャージに袖を通した。
第4ステージ以降は大きな波乱はなく、本来の“スプリンターナンバーワン決定戦”のムードへ。それまでなかなか思うように展開できていなかったホームチームのUAEチームエミレーツが、フアン・モラノを放つことに成功し、ようやくホストの威厳を保つ。
続く第5ステージでは、今季序盤好調のディラン・フルーネウェーヘン(チーム ジェイコ・アルウラー)が快勝。フェルナンド・ガビリア(モビスター チーム)やサム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)らの追随を許さなかった。また、このステージでは中間スプリントポイントで、エヴェネプールがメルリールのアシストを受けて2秒ボーナス獲得に成功。個人総合2位で追っていたプラップとの差を9秒と広げた。
日替わりで勝者が出ていたが、第6ステージで晴れて“No.1スプリンター”が決定。メルリールが2勝目を挙げ、今大会のポイント賞を決定的にした。毎ステージで僅差のフィニッシュとなり、この日も多くのチームが入り乱れた最終局面だったが、そんな中を完全に抜け出したのが彼だった。最後は後ろを確認する余裕もあり、他のスプリンターとの違いは一目瞭然。一方で、今季初勝利をかけていたカヴェンディッシュは残り1kmでパンクのアクシデント。たびたび上位進出をしていたオラフ・コーイ(ユンボ・ヴィスマ)もUAEでの勝利はかなわなかった。
スプリンターの頂上決戦は終わったところで、残されたのは個人総合の行方。フィナーレを飾るのは、大会名物のジュベル・ハフィートの山頂フィニッシュ。ここですべてが決まる。
UAEチームエミレーツのエース、アダム・イェーツ
最後の最後にきて、ようやくこの男の強さが証明された。今回のホストであるUAEチームエミレーツの総合エースを託されていたアダム・イェーツが、アシストたちのペースメイクを受けて残り6kmでアタックすると、ついていけたのはエヴェネプールとセップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)だけ。やがてクスも遅れると、エヴェネプールとの一騎打ちになった。
そして残り3km、最も勾配が厳しくなる区間で再度のアタックを決め、独走に持ち込んだ。エヴェネプールがリーダージャージのキープにシフトしたこともあり、クイーンステージでの栄誉はイェーツに、そしてUAEチームエミレーツにもたらされた。
「さすがに1分以上の総合タイム差を逆転することは難しいと分かっていた。だから、ステージ優勝にフォーカスした。UAEチームエミレーツは常に私を信頼してくれていたし、ホームレースで勝利に導いてくれたことに心から感謝したい」(アダム・イェーツ)
最終日をステージ2位でまとめたエヴェネプールは、個人でのステージ勝利こそなかったものの、序盤戦からの貯金を守り続けてUAEツアーを初制覇。終わってみれば、個人総合2位のプラップとは59秒差がついた。
そのプラップも殊勲の走り。第1ステージをトップグループで終え、翌日にはリーダージャージにも袖を通した。以降は2番手の位置を走り続ける形になったが、ジュベル・ハフィートの上りもうまくまとめて順位をキープした。
「UCIワールドツアーの表彰台にはとても興奮しているよ。温かいオーストラリアでオフトレーニングを積んだことが好影響をもたらしたのだと思う」(ルーク・プラップ)
豊富なタレントを有するイネオス・グレナディアーズにまたひとり、エースクラスのライダーが台頭した。「上りも平坦も得意だから、どんな役目も果たせると思う」と胸を張った現役オーストラリア王者は、エヴェネプールと同じ2000年生まれ。そう遠くない将来、この2人がロードレース界を引っ張っていることだろう。
「ツール・ド・フランスと並ぶ最重要レース」に位置付けていたUAEチームエミレーツは、意地を見せたイェーツが個人総合3位。昨年まで2連覇していたタデイ・ポガチャルに匹敵する強さとはいかずも、モラノのスプリントも含めて、及第点の1週間だったのではないだろうか。
シーズン序盤恒例の中東レースは、これでいったん一区切り。いよいよヨーロッパ各国をメインとしたレースシーンへと移っていく。暖かな土地での脚試しを終えた選手たちは、一様に大きな目標ヘ向かってギアをもう一段階、二段階とアップさせていく。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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