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【Cycle*2023 UAEツアー:プレビュー】ホームチームの命運託されるA・イェーツとアルカンシエルで乗り込むエヴェネプールが総合争い2強か スプリンターの競演も惹き込まれること間違いなし!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介UAEツアー
ここ2年、大会を制してきたタデイ・ポガチャルが今年は欠場。UAEチームエミレーツにとって「ツール・ド・フランスと並んで大事なステージレース」と位置づける7日間の命運は、総合エースの1人として今季から加入したアダム・イェーツに託されることになった。
国を挙げて自チームを支援してくれているだけに、負けるわけにはいかない。UAEツアーは、ともすれば自分たちの将来にもかかわってくる。
ポガチャルは勝った2回とも、タイム差以上の強さを見せつけた。勝負に徹し、無駄な動きを省いてリーダージャージのキープに集中。2つ設けられた山岳ステージで外すことはおろか、ライバルに前を行かせることさえも許さなかった。
その2大会でポガチャルの背中を見続けたのがアダムだった。もっとも、3年前にはポガチャルとの勝負を制し、1分もの総合タイム差をつけてみせた。ただ、それがポガチャルに、UAEチームエミレーツに火が点いたきっかけになった。
その後2度敗れ、いわば“倍返し”を食らったわけだが、今年からは彼らに仲間入り。個人的には3年ぶりの覇権奪回を、そして新チームへは王座防衛のために忠誠を尽くす機会になる。ツアー・ダウンアンダーを鮮やかに勝ったジェイ・ヴァイン、オールラウンドに役目を果たせるブランドン・マクナルティ、ミッケル・ビョークなど、脇も固まっている。砂漠特有の強風がプロトンを壊そうものなら、ヴェガールスターケ・ラエンゲンというスペシャリストが腰を上げる。
しかし、限りなくベストなメンバーをそろえたとて、そう簡単には勝てるわけではない。今年は彼らの前に、現役のマイヨアルカンシエルが立ちはだかる。
23歳の若き世界王者、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)の方が今大会のステージ構成にはフィットしているかもしれない。なぜなら、チームが伝統的に得意とするチームタイムトライアルが山岳2ステージより先に控えており、アダムら総合系ライダーたちから先制できる可能性が高いからだ。ここでタイムを奪って優位に立てば、まったくもって苦にしていない山岳はジャージを守ることだけにフォーカスできる。今大会はエーススプリンターのティム・メルリールとの共闘ではあるが、平坦と山岳・チームTTとの棲み分けに問題が発生することはないだろう。
UAEツアー
大会前半戦のヤマ場となるチームタイムトライアルの距離は、17.2km。チーム力がそのまま反映され、長距離ではないとはいえ思いがけない大差がつくケースもある。総合系ライダーを抱えるチームはトップタイムをマークすることに越したことはないが、最低限上位で、それもトップから数秒以内にとどめておきたいところだ。
いま一度、個人総合争いが動くであろうステージを確認しておくと、第2ステージで迎えるチームタイムトライアルが“第一弾”。カリファ港内を走るルートは、長い直線と直角コーナー、2カ所のヘアピンコーナーのみ。主催者いわく「風が選手たちを許すなら」との条件付きではあるものの、直線・コーナーとも幅広だというので、ひたすら高速巡航が可能とのこと。
続く第3ステージは、名物山岳の1つであるジェベル・ジャイスへ。頂上のフィニッシュラインまで約20km続く長い上りが特徴で、平均勾配は5.6%。残り2km地点で最大勾配9%に達する。
そして大会最終日、第7ステージでもう1つの名峰ジェベル・ハフィートへ。再び山頂フィニッシュで、登坂距離は10.7km。いくつものヘアピンコーナーを抜ける上りは、平均勾配6.8%で、フィニッシュ前3kmで最大勾配11%に。フラムルージュが設けられる残り1km地点で少しばかり下り基調となるのもポイントだ。
UAEツアー
チームTTの距離や2回の山頂フィニッシュから見て、先に挙げた2人の力が大いに発揮されると見るのが自然だが、セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ)やエマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)、エイネルアウグスト・ルビオ(モビスター チーム)といった登坂力自慢たちも上位戦線には顔を出してくるはず。ダウンアンダーから好調のペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)の走りも押さえておきたい。
そして、UAEツアーといえばスプリントも大きな呼び物。今回も7ステージのうち4つが平坦ステージにカテゴライズされる。そのどれも、全体的な高低の変化が少ないことから、ハイスピードからのフィニッシュ勝負という迫力満点のレースが繰り広げられる。中東レースゆえ、砂漠地帯を走る際の風がスプリンターたちの邪魔をすることもあるが、それをも振り切って最後に勝った者こそが、真の勇者である。
UAEツアー
ときに総合系ライダーたちを凌駕して主役の座を得ることだってあるスプリンター勢。今年も充実の顔触れだ。
今大会で過去3勝と、通算ステージ勝利数で並ぶのがサム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)とカレブ・ユアン(ロット・デスティニー)。ベネットはすでに今季1勝を挙げて好調なのに対して、ユアンはシーズンインのオーストラリアでは勝つことができず(UCI非公認のシュワルベクラシックでは勝っている)2023年初勝利をかけて乗り込む。
サウジ・ツアーで1勝したディラン・フルーネウェーヘン(チーム ジェイコ・アルウラー)と、同様にブエルタ・ア・サンフアンで勝っているフェルナンド・ガビリア(モビスター チーム)も好調を維持。前述のメルリールも、ツアー・オブ・オマーンで1勝しており、状況次第では彼ら以上の強さを見せつける可能性も。
移籍問題の長期化や自宅での強盗被害で苦いオフを過ごしたマーク・カヴェンディッシュは、ようやくアスタナ・カザクスタンチームの一員として始動。こちらもオマーンでシーズンインし、勝利こそならなかったもののリードアウトマンとの連携は上々と満足げ。同じく滑り込み移籍のケース・ボルが発射台を務める見込みで、スプリントへの精度は確実に高まってくる。
ホームのUAEチームエミレーツはフアン・モラノが大役を務め、サンフアンで1勝のサム・ウェルスフォード(チーム ディーエスエム)やベテランのエリア・ヴィヴィアーニ(イネオス・グレナディアーズ)もスピードを生かしたい。
スプリンター陣については、ポイント賞が大会における活躍度の指標となる。
2023年大会は、16のUCIワールドチームと4つの同プロチームが出場。UCIプロチームからはロット・デスティニー、イスラエル・プレミアテック、グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ、そしてファビアン・カンチェラーラ氏がオーナーを務めるチューダー・プロサイクリングチームがエントリーしている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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