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【Cycle*2023 サウジ・ツアー:レビュー】“カウボーイ”ルーベン・ゲレイロがプロキャリア初のステージレース個人総合優勝! JCL TEAM UKYOは世界へ一歩目の足跡残す
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介サウジ・ツアー
アラビア半島最大の国・サウジアラビアで最もドラマティックで美しいと言われる街・アルウラーを舞台にしたサウジ・ツアー。ときに“宝石”とも称されるこの街を基点に戦った5日間のステージレースは、28歳のオールラウンダー、ルーベン・ゲレイロが一番の輝きをつかんだ。
マラヤコンサートホールを背景に総合表彰
今年モビスター チーム入りし、そのデビュー戦だった。丘陵地帯に入った第3ステージを5位にまとめると、最大勾配18.8%のハラット・ウワイリドを上った最難関の第4ステージで狙い通りの勝利。UAEチームエミレーツ勢が主導権を握ったレース終盤だったが、冷静に仕掛けどころを探ってステージ優勝を手繰り寄せた。
「開幕からの3日間が平坦基調だったから、上りが重要な第4ステージで脚がどう反応するか正直見当がついていなかった。だからもう、自分のタイミングを待つしかなかったんだ。UAEは2人残っていたから、必然的に彼らがグループを牽引することになると思って、それを利用しようと考えた。その甲斐あってスプリントがうまくいったよ」(ルーベン・ゲレイロ)
チームのニューフェイスを、仲間たちが最後まで守った。すっかり溶け込んで、みんなで「カウボーイ」と呼ぶようになったリーダーを、残る6人が徹底ガード。スペイン唯一のUCIワールドチームでありながら、今大会には同国選手は1人。このチームにしては珍しく、6カ国からなるメンバー構成で挑んだレースで、チームワークの良さを証明してみせた。その姿は、スポーツディレクターを務めるイヴォン・ルダノワにして「不屈そのものだった」。
「フラムルージュを通過したとき、とても感情的になった。できるだけ集中してマックス・カンターのスプリントをアシストしたかったのだけれど、いろいろと落ち着かなくなってしまったので、リーダージャージを守り切ることに集中させてもらったよ。ステージレースを勝つということの本当の意味を知る最高の機会になったね」(ゲレイロ)
へグラ遺跡
日々のステージは、強風とスプリントが中心の“ザ・中東レース”。第1ステージから横風やパンク、クラッシュによる混乱が生じた中、ディラン・フルーネウェーヘン(チーム ジェイコ・アルウラー)がオープニングウィン。チームをスポンサードするアルウラーでの勝利は至上命題だった中、大会初日にそのミッションに成功。一時は風の影響でメイン集団から遅れる場面があったものの、チーム一丸となって前線へと復帰させ、フィニッシュでの爆発につなげた。
事実上のホームチームがリーダージャージを得て迎えた第2ステージ。ジョナサン・ミラン(バーレーン・ヴィクトリアス)がフルーネウェーヘンから主役の座を奪う。残り30kmを切ってからの横風区間で後方に取り残されたミランだったが、ドゥシャン・ラヨビッチらの献身的なアシストで前線復帰。第1ステージで2位だったラヨビッチは、勝負をミランに託して役目を終えた。
進行方向左側から吹き付けた風の中、ケース・ボル(アスタナ・カザクスタンチーム)の動きに反応するようにスプリントを開始したミラン。2連勝を狙ったフルーネウェーヘンより先に仕掛けたことが奏功し、トップをキープ。並びかけたフルーネウェーヘンにわずかな差で勝利した。
これで勢いづいたミランは、第3ステージでも勝ちにいく。パスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ)やゼネク・スティバル(チーム ジェイコ・アルウラー)がフィニッシュ前2kmからの上りでアタックする中、焦らずスプリントに賭ける。戦力アップが著しいウノエックス・プロサイクリングチームのコントロールでアッカーマンとスティバルをキャッチすると、いよいよフィニッシュ前での大一番。ソーレン・ヴァーレンショルト(ウノエックス・プロサイクリングチーム)のスピードには敗れたミランだったが、連日の上位フィニッシュでついにリーダージャージを獲得。
結果的に第4ステージでゲレイロらから遅れ、リーダーの座は1日限りだったが、今大会の中心に立った1人だったミラン。第2ステージを勝った時点から「個人総合を意識して走ってみたい」と意欲を示し、リーダーを降りても「翌週に控えるトラックのヨーロッパ選手権につながるレースになっている」と明るい表情を見せた。チームパシュートでイタリア代表の主力を務める22歳は、今季のスプリント戦線で台風の目になりそうだ。
シモーネ・コンソンニ(コフィディス)
そんなミランとトラック・イタリア代表でチームメートのシモーネ・コンソンニ(コフィディス)も、第5ステージで快勝。大会最終日まで勝利に執念を燃やしたチーム ジェイコ・アルウラーや、好調のウノエックス・プロサイクリングチームなどが主導権を争ったが、早めのスプリント開始でライバルのお株を奪うことに成功。「いやぁ、本当に大変だったよ。でも後悔だけはしたくなかったんだ」とホッとした様子のスピードマンは、「これでチームは良い流れに乗っていけると思う」と笑顔で語って、ミランと同様にトラック・ヨーロッパ選手権へと向かった。
シーズン序盤からハイレベルなレースが演じられたなかに、JCL TEAM UKYOの姿もあった。清水裕輔監督が「厳しい戦いになることは覚悟している」と戦前に語っていたが、ならばと第1ステージから逃げグループに乗り込んで、その存在を誇示。初日の武山晃輔に始まり、第2ステージでは石橋学、第3ステージでは山本大喜がレースをリードした。
第2ステージではエシェロンで武山がクラッシュし負傷リタイアの洗礼を浴びたが、この日はメイン集団に残ったレイモンド・クレダーがスプリントにチャレンジ。最終・第5ステージでもベンジャミ・プラデスと岡篤志が先頭近くで最終局面へ向かい、それぞれ12位と13位。個人総合最上位は山本の38位で、目指していたUCIポイントの獲得はならなかったが、「日本から世界へ」と合言葉に動き出したチームの第一歩として、確実に足跡は残した。
「世界の強豪相手に僕らができる戦い方で対抗した。チームとしての決意も高まり、これからもっと前に進んでいける」と清水監督。
上位戦線にとどまらない熱きドラマは、われわれ日本のロードレースファンにとって忘れることのない歴史の1ページとなった。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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