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【Cycle*2023 サウジ・ツアー:プレビュー】JCL TEAM UKYOが世界への扉を開く! 日本ロードレース界の方向性を定めるのは、強力スプリンターやパンチャーがそろうサウジアラビアでの5日間
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介サウジ・ツアー
シーズン序盤の中東遠征は、ロードレースに携わる者にとってすっかり当たり前のものとなった。いまやUCIワールドチームだけでなく、同コンチネンタルチームにとっても、そこには無数のチャンスが転がっている。この地を豊かにしたオイルよろしく、ロードレースシーンにおいても、次へのステップの場となって久しい。
今年のサウジ・ツアーは、日本のロードレース界にとっても大きな礎になる。“日本のロードシーンの今”を象徴する精鋭部隊「JCL TEAM UKYO」が初出場を果たす。国内プロリーグ「ジャパンサイクルリーグ(リーグ正式名称:三菱地所JCLプロロードレースツアー)」をはじめとする国内外のレースで力を見せてきた日本人選手と、日本に縁のある外国人選手とで構成される、“令和版ドリームチーム”。所属10選手のうち、山本大喜、小石祐馬、岡篤志、石橋学、レイモンド・クレダー、武山晃輔、ベンジャミ・プラデスの7人がサウジアラビアへ乗り込む。
「日本からツール・ド・フランスへ」「世界の頂点に立つサイクルロードレースチームを日本から」。大きなコンセプトとともに動き出したチームにとって、サウジ・ツアーはこれ以上ない“世界デビュー”の場。なぜなら、この大会の主催者はツールと同じA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)だから。JCL TEAM UKYOの戦いは、“世界における日本”を知ると同時に、ツールというビッグドリームへ一歩踏み出す機会なのだ。
もちろん、そう簡単な戦いではないことは、チーム・選手・スタッフ全員が理解している。このプロジェクトを率いる清水裕輔監督は、「サウジ・ツアーで上位進出できる力があるなら、今すぐにでもツールで戦える。チームが動き出したばかりであることを考えると、かなり厳しいレースになることは覚悟している」と語る。コースセッティング、出場チームの顔触れ、そして始動したばかりのチーム状況……苦戦を強いられることは避けられない。ならば、どうやって一矢報いるか。どうやって世界にJCL TEAM UKYOの存在を誇示するか。これらが今回のテーマとなるだろう。
5日間で争われる大会は、サウジアラビア北西部の歴史都市・アルウラーが拠点。アルウラーと聞いてピンときた方は大正解! そう、今大会にも出場するチーム ジェイコ・アルウラーをスポンサードする同地である。「世界最大の生きた博物館」と言われ、ユネスコ世界遺産にも登録されるアルウラーは、いまなお都市開発が進められており、紀元前20万年前までさかのぼる遺跡と近現代の街並みとが融合する。5ステージすべて、この街の周辺を走る設定だ。
大会前半の2日間は、スプリンターが主役となるだろう。少しばかりのアップダウンをこなしつつ行く第1ステージ、全体を通して下り基調の第2ステージは、きっと速いペースで進んでいきそうだ。
個人総合争いが動き出すとみられるのが、第3ステージ。レース後半から標高1000mを超える区間となり、最後の約10kmを上ってのフィニッシュでは、上位陣にタイム差がついても不思議ではない。
最大のヤマ場が第4ステージ。平坦基調を進んだ先に待ち受けるのは、ハラット ウェイリッドの急坂。登坂距離2.8kmで、平均勾配12%。特に上り始めて1km先から16%、18%と勾配が厳しくなる。上った後もフィニッシュまで約8kmあり、急坂で堪えた脚をさらに回していかないといけない。
締めとなる第5ステージには、グラベル区間が登場。古代都市マダイン・サーレハの遺跡群を縫って走るプロトンは、今大会のクライマックスともなる。そして何より、中東といえば風である。5日間を通して、強風による集団分断には大いに注意が必要だ。
このレースへ向けて、実質のホームレースとなるチーム ジェイコ・アルウラーはエーススプリンターのディラン・フルーネウェーヘンを送り込む。ルカ・メズゲッツ、ゼネク・スティバルといったリードアウトマンをしたがえての必勝態勢だ。そこへ風穴を開けるべく、UAEチームエミレーツはパスカル・アッカーマン、コフィディスはマキシミリアン・ヴァルシャイド、バーレーン・ヴィクトリアスは新加入のアンドレア・パスクアロンを投入する。移籍問題がようやくクリアになったケース・ボルは、晴れてアスタナ・カザクスタン チームの一員としてデビューを迎える。
個人総合では、昨年のジロ・デ・イタリアでステージ1勝のサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)や、グランツールでの実績も豊富なフェリックス・グロスシャートナー(UAEチームエミレーツ)、ルーベン・ゲレイロ(モビスター チーム)らが優勝候補に挙がる。昨年のU23ヨーロッパ王者のフェリックス・エンゲルハートは、ルーキーながらチーム ジェイコ・アルウラーで重責を担うことになるかもしれない。今年のジロ出場を決めているチーム コラテック、今季から稼働したQ36.5プロサイクリングチームの動向もしっかり見ておきたい。
そして……、繰り返しになるがJCL TEAM UKYOにとってこれまでにないハイレベルな中で、どこまで戦えるのか。世界と日本との“距離”を測る大いなる5日間に、私たちも立ち会おうではないか。
JCL TEAM UKYO・清水裕輔監督に聞く サウジ・ツアーへの意気込み
──サウジ・ツアーへの準備はどのような形で進んだのでしょうか?
「この大会のためにキャンプ(合宿)をしたり……というのはなかったのですが、常に選手たちとは情報を共有し合って、まずはこの大会を走るということを重視して日々過ごしてきました」
──サウジ・ツアーはチームにとってどんな位置づけのレースになりますか?
「7選手でレースに挑める点はわれわれにとっては大きくて、けが人をのぞく主力メンバー全員でこの大会に向かうことができます。その意味では、今シーズンを迎えるうえで理想的だと考えています」
──選手たちにはこの大会でどのようなことを求めていきますか?
「総合という観点では、ベンジャミ・プラデスが一番可能性があるかなと感じています。彼はこの先に控えるアジアのレースで力を発揮してもらいたいとも考えています。また、日本人選手では小石祐馬、岡篤志が中心になります。5日間を通して強い横風との戦いにもなるでしょうから、そのようなコンディション下で走ったことのある両選手の経験値が生かされるはずです。ここ数年国内で結果を残してきた山本大喜については、まずはヨーロッパ勢との対峙に慣れてもらうことを優先しつつ、このレースを走ってもらいたいと思っています」
──サウジ・ツアーといえばスプリントも名物ですが、こちらはいかがでしょう?
「チームとしてはレイモンド・クレダーで勝負していきます。ただ、UCIワールドチームが主導権を握るレースにあって、彼らがトレインを組んで最終局面へ向かっていく中でわれわれがどう立ち回るのか。アジアや国内のレースではレイモンドひとりで状況打開ができていましたが、今回はそれが通用するとは思えません。ですから、日本を代表するチームとしてトレインを組んで、レイモンドの上位進出にも挑戦していきたいと考えています。牽引力・巡航力のある石橋学、ポジショニングを得意とする武山晃輔の働きにも期待したいですね」
──大会のカテゴリーは1クラスです。個人総合では25位まで、ステージでは3位までにUCIポイントが付与されます。チームとしてはそのあたりも意識はしますか?
「もちろんUCIポイントは狙っていきます。特に個人総合ではしっかりポイント圏内を走れるよう戦っていきたいと思っています」
──日本からツール・ド・フランスへ」この大きな理念のもと動き出したJCL TEAM UKYOですが、ツールと同じA.S.O.が主催する大会でデビューすることはかなり大きな意味を持つように思います。
「まさにその通りです! 1クラスのレースとはいえ、顔触れはワールドクラスですし、A.S.O.が主催、そしてJ SPORTSで日本のファンにも観ていただける……これだけインパクトがある機会はそうそうないと感じています。チームとして、世界のどの位置にいるのかを知る機会にもなりますし、ここ数年日本国内での活動が主だった選手たちにとっては、改めて世界へ目を向ける場ともなりますね。選手たちもモチベーションが高まっています」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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