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【Cycle*2023 ツアー・ダウンアンダー:レビュー】地元オーストラリアのジェイ・ヴァインがプロ人生初のステージレース総合優勝
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか総合優勝ジェイ・ヴァイン
オークル色のリーダージャージが、3年ぶりに持ち主を見つけた。コロナ前と同じように、南半球でロードレースシーズンが幕を明け、世界中から詰めかけた強豪たちを蹴散らし、地元オーストラリアのジェイ・ヴァインが2023年ツアー・ダウンアンダーの覇者となった。
すでに23回目を数える大会の、史上初のプロローグを制したのは、アルベルト・ベッティオルだった。出走138人中、4番目にコースへ飛び出したイタリア人が、約2時間15分もの長い待ち時間の終わりに勝利を確定させた。
それでも開幕1週間前に個人タイムトライアルでナショナルチャンピオンになったヴァインは、14秒遅れの9位と好位置で終了。フィニッシュラインに向けてスプリントする意欲さえ見せた。最終的に2位以下に11秒差をつけて総合を制する27歳オージーは、この時点ですでにサイモン・イェーツに対して12秒のリードを有していた。
イェーツを総合エースに掲げるチーム ジェイコ・アルウラーは、唯一のオーストラリア籍ワールドチームとして、「たくさんの野心」を抱いて乗り込んだ。同チームスプリントエースのマイケル・マシューズもまた、凄まじく奮闘した。初日プロローグはヴァインと同タイム10位に滑り込んだ。第1ステージは2度の中間ポイントでポイントとボーナスタイムを収集し、第2ステージも同じように繰り返した。続く第3「クイーン」ステージでは、難関の果てに区間4位のスプリントで周囲を驚愕させ、残す第4、第5ステージでも中間ポイントを1つずつ押さえた。6日間の会期中、マシューズの頑張りを目にしない日など、1日たりともなかったのだ。
ただし勝利には縁がなかった。第1ステージは発射台に上手く導かれたが、フィル・バウハウスの長く力強いスプリントの前に屈した。総合リーダージャージにもわずか6秒足りなかったーー優勝さえしていればあと6秒ボーナスタイムが手に入っていたはずだったーー。翌日は最終盤のメカトラで、区間争いを断念したし、最終日前日のスプリント機会は、大胆に早駆けしたブライアン・コカールのワールドツアー初優勝をただ後方から眺めるしかなかった。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】|YouTube
【ハイライト】ツアー・ダウンアンダー 第5ステージ|Cycle*2023
「長い間、この勝利を待ち続けてきた。10年前から!僕向きのフィニッシュ地形で、開幕前からこのステージだけにひたすら狙いをつけてきた。本当に誇らしい。……間違いなくマイケル向きの地形でもあったけど、彼は初日から連日努力してたからね。少し疲れちゃっていたんじゃないかな」(コカール)
幸せな区間勝者が推察した通り、マシューズは「脚がなかった」と振り返る。それでもポイント賞だけは持ち帰った。母国のダウンアンダー最終日の表彰式を、生まれて初めて満喫することができた。
レースの中心地であるアデレードで生まれ育ったローハン・デニスは、第2ステージで喜びに浸った。最後の山岳でヴァインが加速を仕掛けると、イェーツ、ジャイ・ヒンドレー、マウロ・シュミットと共に流れへ飛び乗ったのだ。3人がオーストラリア人で、5人全員がグランツール区間勝利経験者で、しかもTT世界王者にグランツール総合優勝経験者が2人……というモチベーションもレベルも高い先頭集団の背後で、スプリンターチームの追走の足並みが揃わなかったことも幸いした。
2015年大会3日目は、残り1km前後で急襲を決めたデニスだが、2023年大会3日目は、ラスト500mのカウンターアタックで勝利を射止めた。8年前と同じように、区間勝利には総合リーダージャージもついてきた。ただ最終日まで守りきった当時とは違い、今年はわずか1日で黄土色のジャージを手放すことになる。
だって「コークスクリューが難しすぎた」し、「ジェイ・ヴァインが強すぎた」から!第3ステージの残り5.8km地点にそびえる1級山岳コークスクリューは、平均勾配9.2%、最大勾配24.2%の超がつくほどの激坂。その上りで、大方の予想通り、ヴァインが攻撃に転じた。
2020年末のズイフトアカデミーアワード勝者は、昨秋のブエルタでの山頂区間2勝で、その恐るべき登坂能力をたっぷりと証明済みだった。しかも「アカデミー優勝商品」は単なる1年契約に過ぎなかったが、すでにプロ生活は3年目に突入。今季からは強豪UAEチームエミレーツで山岳隊員を務める。
第5ステージ勝者はサイモン・イェーツ
こんなヴァインの加速に反応できたのはイェーツただ一人だけ。少し遅れて、単独で、ペリョ・ビルバオも追いついてきた。最終的な総合トップ3の直接対決だった。
「I love it when a plan comes together(作戦がうまく行くのは最高)」
区間優勝こそビルバオに奪われたが、ステージの終わりにリーダージャージを身にまとったヴァインは、インタビューで、特攻野郎Aチームの「ハンニバル」ことジョン・スミスの決め台詞を口にしている。
「チームなしでは僕は成し遂げられなかっただろう。このリーダージャージはすべてチームメートのおかげ。このステージで僕がすべきことは、とにかく最後の山でプッシュすることだけだった」(ヴァイン)
大会史上初めてプロローグで始まったダウンアンダーは、大会初登場の山道で、最終日のクライマックスを迎えた。16秒以内に総合上位3者が並んでいた。スタート直後から逃げと吸収が幾度も繰り返された。緊迫した戦いが続く中、文字通りフィニッシュラインを越える瞬間まで、総合優勝の行方は分からなかった。
今度はイェーツがアタックを打つ番だった。16秒差を逆転するために。チームに今季初勝利をもたらすために。すでにポイント賞を確定させていたマシューズが、発射台さえ買ってでた。元ブエルタ総合覇者は、残り1.7kmですべての力を解き放った。
もちろんヴァインは難なくついてきた。2021年ツール総合4位のベン・オコーナーも同伴した。イェーツは邪魔者を振り切ろうと、何度も加速を試みるが、ただひたすら「イェーツについていけ」と自らに言い聞かせ続けたヴァインを、置き去りにすることなど不可能だった。それでもフィニッシュラインでは、ぎりぎりで先行を成功させ、腕を天に突き上げた。総合2位イェーツと総合首位との最終的なタイム差は、11秒だった。
母国オーストラリアで、27歳ヴァインが、プロ人生初のステージレース総合優勝を成し遂げた。新チームではジョアン・アルメイダの補佐役に指名され、この先2月中旬からジロ・デ・イタリアまで同じレースを転戦する予定だが……今回の成績をきっかけに、自由に走る機会も、時には与えられるのかもしれない。
もはや世界は正常化し、以前となんら変わらないレースシーンが戻ってきた。この先も中東や南米、さらにはスペインや南フランスと、陽光を求めて大陸を股にかけた転戦が続く。2019年以来4年ぶりのフルシーズンが、いよいよ始まったのだ!
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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