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サイクル ロードレース コラム 2022年10月11日

【Cycle*2022 イル・ロンバルディア:レビュー】ポガチャルがマッチスプリントを制して2022年シーズン締め「最高の締めくくり。ほぼ完璧なシーズンだったよ!」 バルベルデ、ニバリは笑顔でキャリアに別れ

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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笑顔で表彰台に立つポガチャル

笑顔で表彰台に立つポガチャル

王座防衛に立ちはだかったのは、1週間前にアタックを決められた相手だった。ライバルのコンディションがすこぶる良いことは把握していたし、一度や二度のアタックで引き離せるとも思っていなかった。だから、最後までもつれても焦ることなく、マッチスプリントでリベンジしてみせた。

1905年初開催、今回で116回目の伝統レース、イル・ロンバルディア。「落ち葉のクラシック」との別名を持つ、格式高き秋のレースは、プロトン最強ライダーの1人であるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が2連覇を達成。昨年と同様にフィニッシュ前での一騎打ちを制して、2012・2013年のホアキン・ロドリゲス以来となる連勝を実現させた。

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「昨年勝ったこのレースに戻ってこれて幸せだよ。それも最高の形で終えることができた。チームワークも並外れたものだったし、スタートからフィニッシュまで全行程を通して大成功だった」(ポガチャル)

2022年最後のUCIワールドツアーを彩るべく、ビッグネームが集結した今回。ツール・ド・フランスでポガチャルを破ったヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)もきっちり仕上げてイタリア入りし、ブエルタ・ア・エスパーニャでの落車負傷が癒えたジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル)も初タイトルを賭けて参戦。長年にわたってわれわれを魅了してきた“走る伝説”アレハンドロ・バルベルデ(モビスター チーム)とヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン チーム)は、キャリア最後の公式戦に思い入れのあるこのレースをチョイスした。

シーズンの終わり、さらにはキャリアを終える数人の選手を祝う中でベルガモのスタートラインを出発したプロトン。まずは10選手の飛び出しで幕が開けた。

レース距離253km、タフな登坂区間が複数待ち受けるコース設定にもかかわらず、全体的に速いペースで進行。ユンボ・ヴィスマやモビスター チームがメイン集団をコントロールすると同時に、先頭グループを常時射程圏内にとどめながら進んでいく。前半のアップダウンをこなすと、中盤の平坦区間で前方とのタイム差を一気に縮める。“勝負のゴング”ともいえるマドンナ・デル・ギザッロ教会の鐘を聴く頃には、集団は逃げていた選手たちを全員捕まえた。

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【ハイライト】イル・ロンバルディア|Cycle*2022

フィニッシュまで70km以上残されているというのに、逃げは全員キャッチされたばかりか、先のロード世界選手権個人タイムトライアルを制したトビアス・フォス(ユンボ・ヴィスマ)や、パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)といった選手たちも上りで早々と遅れた。そのうえ、計ったかのようにUAEチームエミレーツがこの「サイクリストたちの聖地」で猛然とペースアップ。今年のグランツールをにぎわせたジョアン・アルメイダがメイキングするのだから、集団の人数は絞られて当然である。

この区間で完全に主導権を握ったUAEは、今回から2回登坂になったサン・フェルモ・デッラ・バッターリアの1回目を越えて、フィニッシュ地コモへ到達。残り1周の鐘を聴いて、いよいよレースは終盤である。

昨年からコースがマイナーチェンジされていようと、勝負どころはやはりいつもの場所である。そう、チヴィリオで展開が大きく動いた。この上りに向けて、少しずつ集団内のポジションを上げていたボーラ・ハンスグローエから、先鋒としてマッテオ・ファッブロが前線をうかがう。これをきっかけにスピードが上がった集団では、ニバリやアラフィリップが後方へと追いやられてしまう。

次の動きへ緊迫感が増す中、早くも真打ち登場。アシスト陣に戦線を整えてもらったポガチャルが満を持してアタック。すかさずチェックに動いたのはエンリク・マス(モビスター チーム)。遅れてミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)も加わったが、脚の差は明白。ランダはポガチャルとマスが仕掛けるたびに差をつけられ、しばらくしてテンポで追いつくような流れの繰り返し。2人に対して、決定打を繰り出せる状態には見えない。

3人の後ろでは、彼らの動きに合わせきれなかったヴィンゲゴーやセルヒオ・イギータ(ボーラ・ハンスグローエ)らが追走。ここにバルベルデも合流し、懸命に前を追う。

人数こそ追走メンバーが上回ったが、このところ好調の先頭3人の走りは別次元。2回目のサン・フェルモ・デッラ・バッターリアでマスがアタックすれば、ポガチャルもカウンターで応戦。両者の動きでランダが遅れると、勝負は完全に2人のもの。先頭交代のローテーションもきっちりとこなすと、ついにコモ湖畔のフィニッシュ前までやってきた。

ポガチャルとマスとの一騎打ち

ポガチャルとマスとの一騎打ち

残り1kmのフラムルージュを過ぎてからは、ポガチャルが前に出てスプリントタイミングを図る。2人の探り合いは、残り150mでついに決定的な局面へ。先に仕掛けたのはマス。一瞬ポガチャルの前に出たようにも見えたが、王者は冷静に対処。最後の最後まで前を譲らなかったポガチャルが、2連覇のフィニッシュ。両手を広げ、全身で喜びを表現しながらのウイニングセレブレーションを演じてみせた。

「チヴィリオでのアタックは予定通りだった。同時に、マスが反応するだろうとも思っていた。最近の彼は上りでの強さがすさまじく、僕はチャレンジする側だと感じていたんだ。2人になってからも協調体制を保ってくれたし、お互いにパーフェクトなレースができたんじゃないかな」(ポガチャル)

鮮やかな勝利で2022年シーズン締め。2月のUAEツアーから始まった今季は、ストラーデ・ビアンケでの衝撃の独走劇、「敗れてなお強し」のツール、そしてロンバルディアと、ビッグレースで常に主役を張った。今年は16勝を挙げて、長かったシーズンを終える。

「ほぼ完璧なシーズンだったと思っているよ。来年?いやぁ、本当に楽しみだ。ツールではヨナス(ヴィンゲゴー)はもちろん、レムコ(エヴェネプール)とも対戦できるかもしれない。実現したら最高のレースになるだろうね!」(ポガチャル)

ポガチャルに競り勝った1週間前のジロ・デル・エミーリアの再現成らなかったマスは、喜びとさみしさが入り混じり、レース後はエモーショナルだった。

「正直言うと、アレハンドロ(バルベルデ)に勝ってほしかった。代わりに僕が表彰台に立つことになり、ちょっと悲しい。でも、イル・ロンバルディアでポガチャルに次ぐ2位だからね。それは喜んで良いと思う」(エンリク・マス)

バルベルデが退き、これからモビスター チームを引っ張る立場として、改めて何を目標にすべきかが明確になったレースにもなった。

「今後はワンデーレースも目標になる。リエージュ~バストーニュ~リエージュ、クラシカ・サン・セバスティアン、そしてイル・ロンバルディア。これらが絶対に勝ち取りたいレースで、そのためのトレーニングにも本腰を入れる。ステージレースだけの男ではないと証明したいからね」(マス)

そして、マスに席を譲って42歳のバルベルデはキャリアを終える。最後の最後まで、表彰台、いや優勝が見える位置を走った姿は、もはや“鉄人”の領域に達している。レースを終えた表情は、感情的になるわけでもなく、淡々と、どこか達観した様子だった。

「最高に楽しいレースだったよ。エンリクの2位は実力通りだし、僕も6位。後味の良い最終戦になった。僕は勝ち方をエンリクに教えてきたつもり。それが今日実れば良かったんだけどね。でもこれから何回とチャンスがめぐってくるはずだよ。ここまで長く走ってきたけど、若い選手に席を譲る時がきた。これからのロードレースは後輩たちに託すよ」(アレハンドロ・バルベルデ)

レース前に握手をかわすニバリとバルベルデ

レース前に握手をかわすニバリとバルベルデ

同じくキャリア最終レースのニバリは2分17秒差の24位。上位戦線からは遅れたが、2017年に独走劇を演じた相性抜群のレースを最後まで走り切った。

「コース、沿道の盛り上がり、集団の雰囲気…すべてを楽しんだ。チヴィリオでレースが動いたときには、脚がもう限界だった。レース前にこれが最後なんだと思って複雑な気分になったけど、フィニッシュまで集中して走ることを心掛けたよ。走り終えたら子供たちが泣いていてね…真っ先に抱きしめることができて僕は幸せ者さ」(ヴィンチェンツォ・ニバリ)

この日はバルベルデとニバリのほかにも、タネル・カンゲルト(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、ミケル・ニエベ(カハルラル・セグロスRGA)が引退することを表明。ニエベは大規模なクラッシュに巻き込まれ、苦い最終戦になってしまったが、長いキャリアを偉大なレースで締めくくった。劇的なドラマが見られる優勝争いだけでなく、別れを告げる一戦であるあたりも、「落ち葉のクラシック」ならではである。

アフターコロナの趣きが広がった2022年のサイクルロードレースシーズン。最高峰のUCIワールドツアーはこれで終わり、残るビッグレースとしてジャパンカップ サイクルロードレース、さらにはツール・ド・フランス さいたまクリテリウムが控える。

シーズン終わりの哀愁と、日本開催レースの喜びとが同時に胸に飛び込んでくる不思議な感覚…久々にやってくるこんな思いを楽しみながら、これからの日々を過ごそうではないか。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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