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サイクル ロードレース コラム 2022年9月12日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第21ステージ】自転車大国ベルギーに44年ぶりの栄光!神童と呼ばれたレムコ・エヴェネプールが若き王に「本当にみなさんありがとう。それじゃあ、パーティーで!」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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仲間と担がれて歓喜するエヴェネプール

仲間と担がれて歓喜するエヴェネプール

史上最強の自転車選手エディ・メルクスが生まれて初めてツール・ド・フランスを制した時、大観衆で埋め尽くされたブリュッセルのグラン・プラス(大広場)が、真っ赤にライトアップされた。新たなグランツール覇者の誕生を、44年も待たされた自転車大国ベルギーは、若き王の戴冠に歓喜した。22歳レムコ・エヴェネプールは、2022年ブエルタ・ア・エスパーニャの堂々たる総合王者となり、激しかったスプリント勝負の終わりに、今シーズン最後のグランツール区間勝利はフアン・モラノの手に落ちた。

「チームにとっても、母国にとっても、そして僕にとっても、歴史的な勝利だ。この3週間で成し遂げたことを、誇りに思う」(エヴェネプール)

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アネミック・ファンフルーテンが女子3大ツール同一年総合優勝という、凄まじいカニバルぶりを見せつけた日曜日の、午後遅くに、男子プロトンは最後の100km弱へのんびりと走り出した。オランダのユトレヒトで幕を明けた激闘の3週間は、落車やコロナ禍の荒波をくぐり抜けた134選手と共に、大団円を迎えようとしていた。

スペインの首都に描かれた全長5.8kmの周回コースには、アレハンドロ・バルベルデが先頭で入ることを許された。なにしろ42歳の大ベテランにとって、グランツールのプロトン内で過ごす人生最後の1日。参戦16回目のスペイン一周で、区間12勝、総合優勝を含む総合表彰台7回、ポイント賞4回、複合賞3回という「エル・インバティド(無敵の男)」は、おかげで沿道に詰めかけたたくさんのファンたちに心置きなく別れの挨拶をすることができた。

「僕にとっては感動的なブエルタだった。勝利した時に一挙に襲いかかってくる感情とは違って、日々少しずつ抱き続けた感動だった。マドリードの周回は信じられないほど素晴らしかった。この3週間たくさんの愛情をくれたファンたちにお礼を言いたいし、僕に多くを与えてくれたブエルタに感謝したい」(バルベルデ)

カメラに手を振るバルベルデ

カメラに手を振るバルベルデ

バルベルデの1度目のフィニッシュライン通過を見届けると、いよいよ、集団は本格的なバトルへと飛び込んだ。

しかも2度目のライン通過へ向けて、モビスターとイネオス・グレナディアズがスピードを上げた。すでに前夜、大多数は総合争いの緊張感から解き放たれていたはずだったのに……総合2位エンリク・マスと総合7位カルロス・ロドリゲスが夢中でスプリントへ打って出た。慌てて総合6位テイメン・アレンスマンのチームメートも着順を潰しに走った。ロドリゲスに対する総合リードは、たったの1秒しかなかったから!

最終的にはマスが1位通過で、3秒のボーナスタイムを競り落とした。いや、むしろ、20ptを積み重ね、ポイント賞3位に浮上した。おかげで人生3度目の総合2位で手にしたUCIポイント680ptに加えて、ポイント賞3位としてのUCIポイント20ptをも収集。モビスターのエースとして、来季のワールドツアー残留に向けた大切なミッションを達成した。

一方でDSMアシスト勢の奮闘で、21歳ロドリゲスは5位通過に終わり、ボーナスタイム収集と総合6位浮上の大胆な試みは失敗に終わった。ちなみに3位通過は同僚のリチャル・カラパスだった。総合エースの1人として大会に乗り込みながらも、序盤でタイムを大きく失い、そのせいか「常勝軍団」イネオスは2014年以来8年ぶりにグランツール総合制覇を逃した。それでもカラパスは、英国チームの一員として走る最後のグランツールでーー来季はEFに移籍ーー、ステージ3勝と山岳賞の底力を見せた。

直後に始まった今大会最後の「逃げ」は、ユリウス・ヨハンセンとルーク・プラップが大いに盛りたてた。まるで今大会を象徴するような22歳と21歳の若きコンビにして、いずれ劣らぬ世界屈指のトラックライダー(前者は元団体追抜世界チャンピオン、後者は東京五輪団体追抜銅メダリスト)は、たったの2人きりで、そこから約7周回にも渡って見事な逃避行を繰り広げることになる。

ほんの20秒ほどのリードしか奪えなかったが、その差は簡単には縮まらなかった。当初は単にタイム差コントロールに励んでいたはずのスプリントチーム軍団は、徐々に必死になっていった。ヨハンセンもプラップも、鋭角コーナーの多いテクニカルなサーキットで、執拗に粘り続けた。それでも最終9周回目の、最後のU字カーブをこなした直後、残り850mでとうとう2人は降参した。

そこからはUAEの4人隊列が先導した。文字通り連日勇ましく逃げ、区間1勝はもちろん今大会のスーパー敢闘賞に選ばれたマルク・ソレルが、残り500mまで無我夢中で引いた。すでに区間3勝を誇るマッズ・ピーダスンを引き連れて、トレックも競り上がったが、UAE列車は決して先頭を譲り渡さなかった。ついには最終発射台のフアン・モラノが、パスカル・アッカーマンを後輪に引き連れて、勢い良くもがき始めた。

区間勝利を手にしたモラノ

区間勝利を手にしたモラノ

「使命はアッカーマンをスプリントに導くことだった。いつもリードアウトとしてやっているように、残り300mで加速した。でも左側からピーダスンが上がってくるのが見えた。だから先頭を守るためにスピードを上げ続けなきゃならないと考えて、そのままプッシュした」(モラノ)

きっと逆側からアッカーマンが追い抜くはず……と信じながら踏み続けたモラノは、そのままフィニッシュラインまで先頭を守り切った。ピーダスンをぎりぎりで圧倒した上に、自陣のエースに横に並ぶ隙さえ与えなかった。グランツールでは同郷フェルナンド・ガビリアのために働くことの多かったコロンビアの俊足にとっては、生まれて初めてのワールドツアー勝利だった。

「この勝利を大好きな母に、兄弟に、家族みんなに捧げたい。とても感動してる。ここに至るまでの道のりを、アスリートとして、自転車選手として、人間として強くあるために重ねてきたあらゆる努力を思い返している。本当に幸せだし、感謝している」(モラノ)

UAEにとっては、この区間2勝目は、いわゆる「ケーキの上のさくらんぼ」。ジョアン・アルメイダも総合5位に食い込んだし、チーム総合首位さえ祝った。なにより20歳の誕生日まであと5日のフアン・アユソを、初めてのグランツールで、いきなり総合表彰台に送り込んだ。なんと同僚タデイ・ポガチャルがグランツール初出場・初表彰台を成し遂げた年齢より、丸1歳若く、つまり1904年ツール総合覇者アンリ・コルネに次ぐ史上2番目に若いグランツール総合表彰台乗りを達成させたことになる。

また今大会4度目の区間2位で終えたピーダスンは、むしろ区間3勝の大成功の記憶と共にポイント賞ジャージを持ち帰る。3週間で稼いだポイントは通算409pt。2位以下に2倍以上の大差をつけての圧勝だった。

3週間で最後のスプリントが争われた背後では、エヴェネプールが歓喜のガッツポーズを握りしめ、正式な第77代ブエルタ総合覇者になった。ベルギーにとって44年ぶりの栄光なのだとしたら、2003年に誕生したクイックステップ・アルファヴィニルにとっては、正真正銘、創設以来初めてのグランツール総合制覇だった。

レムコ・エヴェネプール

レムコ・エヴェネプール

「人生で体験した最も美しい瞬間だ。最後の数キロは、あらゆる思いが頭の中を駆け抜けた。思い出、犠牲、プライド……プライド。今はただポジティブな感情で満ち溢れている。トロフィーを表彰台の上で掲げ持てたなんて、本当にとてつもないこと。僕が成し遂げた人生最高の快挙だし、チームメートたちと揃って表彰台に上がれたことは、最高の瞬間だった」(エヴェネプール)

区間2勝を手に、早熟な才能は22歳で頂点へと上り詰めた。人生2度目のグランツール出場で、完走は初体験。しかも、かつてサッカーのベルギー代表チーム「赤い悪魔」のメンバーとして暴れまわることを夢見たレムコ少年は、自転車を本格的に始めてたったの5年と数ヶ月で、マイヨ・ロホを持ち帰った。

そして、おそらく、これはエヴェネプールにとっての「1勝目」に過ぎない。長い栄光の日々……この先に期待される、あらゆる同世代のフェノメノンたちとの激闘の歴史は、いまだ始まったばかりなのだ。

「本当にこのブエルタを勝つことが出来て嬉しい。そして、もしかしたら、また来年戻ってくるかもしれないし、来ないかもしれない。約束は出来ないけれど、本当にみなさんありがとう。それじゃあ、パーティーで!」(エヴェネプール)

こう表彰台の上でいたずらっぽく笑った後、シャンパンファイトを楽しんだエヴェネプールは、オフに結婚予定のフィアンセとゆっくり過ごす暇さえないまま、大急ぎでオーストラリアへ飛び立つ。マドリードでの歓喜からちょうど1週間後、世界選手権の個人タイムトライアルから、再び全力で走り出す。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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