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サイクル ロードレース コラム 2022年9月6日

ブエルタ・ア・エスパーニャ裏話 | 別府史之のetape par etape

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ブエルタ・ア・エスパーニャ裏話 | 別府史之のetape par etape

ブエルタ・ア・エスパーニャ裏話 | 別府史之のetape par etape

本場ヨーロッパの自転車ロードレース界で、長年トッププロとして活躍してこられた別府史之さんにお話を聞く、「別府史之のetape par etape(エタップ・パー・エタップ)」。

第5回目は、現在開催中のブエルタ・ア・エスパーニャについて、ご自身が出場した経験をもとに、テレビには映らない舞台裏を教えてくれました。

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3大ツールを全部走った別府さんから見て、ブエルタとはどんなレースですか?

暑い夏場から始まる、本当に「ホットなレース」というイメージを持ってます。2005年に僕がプロになった当初は、ブエルタはどちらかというと、新人選手が出場して活躍するようなカテゴライズのグランツールだったんですね。というのは道も広いし、落車の心配もないし。ジロやツールに比べると「走りやすいグランツール」というとらえ方をしていました。

でも近年は、ツール・ド・フランスを走った選手たちが、良いコンディションのままブエルタに乗り込んできて、コンディションが良いまま総合優勝やトップ10に入ってしまう。また、チームにとっては、「ポイントの稼ぎどころ」でもあります。つまりブエルタの立ち位置は、近年少し変わってきたのかなと思ってます。

あとブエルタって、「世界選手権のウォーミングアップ」という位置づけもあります。シーズン全体を通して見た時に、ブエルタの時期って徐々にシーズンオフに向けて調子が下がってくる頃なんですけど、ピークを世界選手権に持っていきたい選手たちは、ブエルタでコンディションを再び上げてきます。

かつては、どちらかというとシーズン前半はゆっくりスタートして、シーズン後半もゆっくりフィニッシュする……そういうやり方が定番でした。だけど近年は、春先からシーズンオフまで全開で走り抜けてますよね。だから今年のブエルタも、選手たちは、最後の最後まで限界ギリギリの戦いを繰り広げてくれると思います。

もちろん……いわゆるスペインクオリティで、なんかちょっと「ゆるい」感じもあるんです。でも、やっぱり3大ツールですから、総合争いのバチバチした戦いは本当に激しいです。

ブエルタのコースは厳しいと言われますが、実際にはどうですか?

2022年大会で存在感を示すジェイ・ヴァインはZwiftからプロになった

2022年大会で存在感を示すジェイ・ヴァインはZwiftからプロになった

劇的に厳しい山頂フィニッシュが多い……っていうイメージが強いかもですね。確かに山岳はすごく厳しいです、真のクライマーが勝つことが多いので、他のグランツールと比べれば厳しいコース設定に思えるかもしれません。

ただブエルタと言えば、たまに起こるエシュロンも怖いんです。スペインも中部や南部に行くと、周りに樹木が何も生えてない平坦な大地が延々と続きます。たとえばマドリードは大都市ですし、周辺には森もありますが、一歩その外へ出ると一気に砂漠地帯。人間が住みにくいような乾燥した荒野が広がってます。そこに強風が吹いてきたら……当然のように横風分断が起こります。空から撮られた映像は、すごく美しいんですけど。走っている側はきついですよ。

でもスペインという国自体は、自転車乗りにとっては最高の場所です。たとえばバルセロナの近くのジローナは、サイクリストの聖地とも呼ばれてます。今年の始めに僕も行ってきたんですけど、本当に、ちょっと近所を歩くだけで必ずプロのサイクリストにすれ違うような町です。

なにより自分の中にあるスペインのイメージは、「合宿地」です。冬のオフ中には、たくさんのチームが、スペイン地中海岸でトレーニングキャンプを組みます。みかん畑のあるバレンシアやアリカンテの地域は気候も暖かく、道幅も広くて、自転車にとって走りやすい道が多いんですよ。自転車選手にとっては、苦痛なく走れる、なんだか天国みたいな場所です。

サイクリストにとっても走りやすいロケーションだからこそ、ストラバとか見ると、ありとあらゆる場所にログが残ってます。しかもプロ選手もアマチュア選手もありえないスピードでKOMを駆け上がってますからね。みんな自転車が好きなんだな〜って感じさせられます。

ブエルタを取り巻く雰囲気って、やっぱり「ゆるい」ですか?

うーん、ゆるさ、というのは、観客が見やすいレースという意味も含まれると思ってます。例えばジロ・デ・イタリアでも、観客が、本当に近い距離で選手たちを応援してくれる。でもツール・ド・フランスの場合は、セキュリティがはるかに厳しくて、フィニッシュラインもスタートラインも近づくことさえ難しい。フィニッシュエリアにはバリアが張り巡らされてありますから。でもジロやブエルタは、選手と観客、ファンとの距離感がすごく近いんですよね。

レムコ・エヴェネプールを直ぐ側で激励するファン

レムコ・エヴェネプールを直ぐ側で激励するファン

まあ、いわゆる、「古き良き時代」という感じでしょうか。選手たちの距離とちょっと近すぎるせいで、それがアクシデントにつながることも過去に何度かあったんですけども……でも、やっぱり、それがジロやブエルタの良さでもある気がします。

ツール・ド・フランスでも熱狂的なファン集団というと、オランダのグループ、イタリアのグループ、バスクのグループと別れてます。地元フランスのサイクリングファンよりも、もしかしたら外国のファンの方が多いんじゃないかなって思ってしまうぐらい。その中でもやっぱりバスクは熱狂的なファンが多かった。山に向かって走っていると、なぜか遠くからもくもくと煙が上がっているのが見えてきたりします(笑)。

バスクは以前は独立運動がさかんに行われていましたし、「バスクカントリー」と呼ばれるくらいですから、実はバスク人に、君はスペイン人だ……っていうと、1、2時間は説教されちゃいますよ。誰もがバスク人というプライドを持っていて、互いのつながりってのもすごい大切にしてる。熱狂的なファンが多くて、みんな選手たち一人ひとりのことをよく知ってくれている。僕のこともよく知っていて応援もしてくれました。

スペインでの食事はいかがですか?

スペインと言えばやっぱり海産物。あとパエリアに、チョリソーに、イベリコハムに……。しかも一言でパエリアと言っても、その中のお肉を鶏肉にするのか、豚肉にするのか、うさぎ肉にするのか、と地方によっても色々ですけどね。

本当に、スペインには、美味しい食べ物がたくさんあります。レース中にもホテルのビュッフェで「あ、ちょっとこれも食べてみたいな」って思う料理が結構ありました。

ただ、海産物は、選手としては気をつけなきゃいけない。実際に自分もブエルタに出た時には、チームや他の選手たちから、「海産物系は食あたりするかもしれないから気をつけろ」と口を酸っぱくして言われました。レース中に原因不明のリタイアがあると、実はそういうことだったりします。トレーニングキャンプに行った時に、まだレース中じゃないし大丈夫かな……って食事を楽しむような感じで食べたら、そういったアクシデントに見舞われたこともありました。だから本当に食事には気をつけないといけないんですよ。

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ブエルタの思い出|第5回 別府史之のetape par etape

それにしてもチームのスタッフたちは、ブエルタ中に選手食とは違う、地元の美味しい海産物を食べていたりしますからね。僕ら選手たちは、それを横目に見ながら、羨ましいと思いつつ。もちろんレースをしっかり走ることのほうが大切ですから、我慢しながらご飯食べていました。だから今は、自由にいろいろなものを食べられる立場になったので、楽しみです。あぁ、これ食べたかったんだよな〜っていう料理も食べられます!

ところで、多分、日本ではバスクのイメージってあまり持っていないと思うんですよ。実はバスクは、ミシュランの星付きレストランが、ヨーロッパで一番多い地域なんです!それにスペインというと魚のイメージがありますけど、お肉料理も美味しいんです。

僕がブエルタに出たときは、最終日の後は、帯同していたシェフが焼いてくれた美味しいお肉を食べました。シェフはいつも市場で新鮮なお肉や魚を買ってきてくれていたんです。お肉なんてほとんど調理しなくても、焼くだけで美味しいんですから。バスク出身のマイケル・イリザル選手やアイマール・スベルディア選手が、特注で頼んだお肉を頂いたこともあります。うわ、やっぱりバスクは食が美味しいところなんだなぁと感じました。

そもそもスペインでは、普通にパンにガーリックをこすりつけて、そこに潰したトマトを塗って、オリーブオイルと塩をかけて食べるだけでめちゃくちゃ美味しい。いわゆる「パンコントマテ」って言うやつですけど、やっぱり素材がいいのかな。

あとワインが穴場です。物価自体もフランスに比べて安いですし、つまりフランスに比べたら、美味しいワインが良心的な価格で飲めます。しかもお肉も美味しいし、本当になんか天国のような場所ですね。レースじゃなくて観光で来たいな、っていう気分がいつも強かったです。そうそう、いつかレース中継とセットで、「ブエルタ・ア・エスパーニャ食事編」っていう特集を組んだら面白いんじゃないでしょうか?

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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