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サイクル ロードレース コラム 2022年9月1日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第11ステージ】エースを失ったバイクエクスチェンジ・ジェイコのカーデン・グローブスが自身初グランツール区間勝利「残す2ステージも狙っていくよ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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自身初のグランツール区間勝利を掴んだカーデン・グローブス

自身初のグランツール区間勝利を掴んだカーデン・グローブス

総合5位サイモン・イェーツと総合9位パヴェル・シヴァコフ、さらにはケルンファルマの3選手が新型コロナウィルス陽性で出走を断念し、世界チャンピオンのジュリアン・アラフィリップが落車リタイアを余儀なくされた日、190km超の長距離ステージをプロトンは時速37.8kmでゆっくりと走り終えた。イェーツの抜けたバイクエクスチェンジ・ジェイコの完璧な発射台から、カーデン・グローブスが生まれて初めての区間勝利へと飛び出し、「ルル」の再起を祈りつつレムコ・エヴェネプールはマイヨ・ロホ保守の旅を続ける。

「サイモン陽性の知らせに今朝はみんな本当にがっかりしたから、これこそ立ち直るための最高の方法だった。お祝いしたいけど、彼がここにいてくれたら良かったのにとも思う」(グローブス)

海と太陽と向かい風。行く先に1つの山岳ポイントも存在しない平地ステージは、総合エースたちにとってはうってつけの「休息日」になるはずだった。スタート直後にイェツセ・ボル、ヴォイチェフ・レパ、ジョアン・ボウの3人が逃げ出すと、スプリンターチームたちに制御を委ね、赤ジャージ率いるクイックステップ・アルファヴィニルも静かに時を過ごした。

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地元スペインの招待3チームがそれぞれ1人ずつ送り込んだ小さな逃げの背後では、真っ先にティム・メルリール擁するアルペシン・ドゥクーニンクが牽引に取り掛かった。マッズ・ピーダスンのトレック・セガフレードとダニエル・マクレーのアルケア・サムシックも、すぐに揃って作業を開始した。

イェーツを失ったバイクエクスチェンジも、カーデン・グローブスのために、遅れずプロトン前線へと人員を送り込んだ。オランダで区間2勝のサム・ベネットが前日帰宅し、エーススプリンターのいないボーラ・ハンスグローエさえ、とうとうダニー・ファンポッペルにかけて制御に加わった。

5つのチームがコントロールする集団は、逃げ直後こそ4分差を与えたものの、その後は慎重に1分半〜2分半ほどに保ち続けた。遮るもののない海沿いの一本道には、延々と強い向かい風が吹付け、いずれにせよ前の3人はこれ以上スピードを上げることなど不可能だった。

なにも特筆すべきことの起こらない時間が、3時間以上続いた。しかし変哲のなさそうな町中の、右カーブで、突如として悲劇が発生した。アラフィリップが道に投げ出され、座り込んだまま動けなくなったのだ。

3月のストラーデ・ビアンケでは落車し、続くミラノ〜サンレモとツール・デ・フランドルは気管支炎で欠場。4月のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの落車では肩甲骨骨折と気胸に苦しみ……長い長いリハビリを経てついに本格復活を遂げたツール・ド・ワロニーは、コロナ陽性(有症状)でリタイアを余儀なくされた。つまりシーズン序盤から苦しんできたアラフィリップは、ブエルタ第1週目の終わりに「ようやく調子が上がってきた」と喜んでいたはずだった。アルカンシェルの復活ストーリーは、このブエルタ第11ステージの残り64kmで終わりを遂げた。右肩脱臼で、アラフィリップは即時大会を離れた。

落車して道路に座り込むアラフィリップ

落車して道路に座り込むアラフィリップ

「我々が願っていたような素敵な1日にはならなかった。こんな静かなステージで、あんなに残念なことが起こるなんて。チームにとっては大きな損失だ。とにかく彼がそれほど苦しむことのないよう願ってるし、『ルル』が早く良くなるよう祈ってる」(エヴェネプール)

静かな時間はその後も続いた。残り52km、前方でボルがアタックを打ち、独走態勢に持ち込んだ。スプリンターチームはただ黙々と隊列を走らせ、残り26kmで音もなく回収を終了した。ひとつにまとまったプロトンは、ひたすら塊のままで突き進んだ。

フィニッシュ手前10.2km地点の中間ポイントさえ、ほぼなにも起こらなかった。現マイヨ・ベルデを擁するトレックと、前保持チームのボーラがわずかに言葉を交わし、緑ジャージをまとうピーダスンが争うことなく先頭通過を果たした。20ポイントを悠々と積み重ねた。

そこから、急激に、プロトン前方に緊迫感が満ち溢れていった。なにしろ残り5kmから、2度の方向転換が待ち構えていた。特に4kmの、今ステージ最後のカーブは鋭角で、抜け出した先は海からの横風に直接さらされる。だからこそあらゆる総合チームが、落車や分断の危険を回避しようと、カーブへ向け全力でスプリントを切った!……幸いにも、恐れていたようなアクシデントは、発生しなかった。

おかげでラスト3.5km近い長い長いロングストレートは、純粋に、スプリンターたちの壮大な戦いの舞台となった。

真っ先に主導権をつかみ取ったのはバイクエクスチェンジだった。最終直線に入るやいなや、4人隊列で最前列へと駆け上がった。イネオスやコフィディス、バーレーンも前を争ったが、すぐに先頭から弾き飛ばされた。

「これまでチームの半分がサイモンの総合争いをサポートしてきたけれど、今日からはチーム全員がステージ勝利に集中した。つまりチームのみんなが僕を支えてくれたんだ。ラスト4kmは完璧な仕事をしてくれた。おかげで僕はフレッシュな調子のまま先頭に留まることができた」(グローブス)

残り1kmに入っても、グローブスは2人の牽引役の背後に、しっかりと控えていた。アルペシン発射台が後方から勢い良く駆け上がったが、肝心のメルリールが後輪にくっついていなかった。トレックの最終発射台はラスト500mで早くも仕事を終えてしまったし、ブエルタ区間10勝のジョン・デゲンコルプは、逆にあまりにも遠くから仕掛けすぎた。その直後にはフアン・モラノが夢中で先頭に躍り出た。しかし、ちらりと後ろを振り返った時、やはりスプリントエースのパスカル・アッカーマンの姿は背後になかった。

「僕は、後ろから上がってくるために努力しなきゃならなかった他の選手たちに比べて、十分にフレッシュな体力が残っていた。ありがたいことに僕は好ポジションにつけていた。あとはスペース目掛けて飛び出し、自分のスプリントを切っただけ」(グローブス)

右側に抜け道を見つけたグローブスは、そのまま爆発的なスピードを保ったまま、フィニッシュラインへと駆け上がった。はるか後方からはファンポッペルとメルリールも急速に追い上げてきたが、あと一歩が足りなかった。2人がラインを越える頃、23歳のオージーはすでに笑顔で両手を挙げていた。

「ファンタスティックな気分だ。初めてのグランツール勝利を手に入れたんだから、最高だよね。本当に嬉しいし、残す2ステージも狙っていくよ」(グローブス)

プロ入り3年目で初めてグランツールを走る夢を叶えたグローブスは、大会11日目で初めての区間勝利さえ手に入れた。またバイクエクスチェンジは、2022年の3つすべてのグランツールで区間勝利を手にした5つ目のチームとなった。

予定よりもはるかに時間のかかったステージを、総合上位勢は問題なく走り終えた。タイム差には一切変動がなかった。ただ元総合5位イェーツと9位シヴァコフの離脱により、それぞれが総合順位を1つ、もしくは2つ上がった。

大会6日目まで途中棄権はわずか計8人だったが、この4区間だけで24人がブエルタを去った。新型コロナウイルス陽性によるリタイアは20人。おかげでプロトンは一気に150人に小さくなり、8人の完全体を保つのはわずか4チームのみとなった。

仲間とライバルを失ったエヴェネプール

仲間とライバルを失ったエヴェネプール

「2人の強豪選手がレースを離れたと聞いて、気分が悪い。大会にとって良いことではないし、選手本人にとっても所属チームにとっても不幸だ。これは本当に『運』の問題であり、もしも僕に降り掛かってきたら、それは『悪夢』だよね」(エヴェネプール)

現時点で開催委員会が決定した対応策は、チームバス駐車場を完全にバブル化すること。全日程帯同+各休息日の抗原テストで陰性となった希望メディアに限って、これまでチームバス駐車場での自由な取材活動が許されていたが、第12ステージ以降はスタートもフィニッシュもインタビュー等は区切られたゾーンのみに限定される。無観客レースの提案もなされたようだが、今のところ同措置はとられていない。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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