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サイクル ロードレース コラム 2022年8月31日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第10ステージ】東京五輪金メダリストのログリッチを蹴散らして区間勝利のレムコ・エヴェネプール「マイヨ・ロホで区間を勝てたなんて、すごく素敵な気分だ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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自身初のグランツール区間勝利を射止めたレムコ・エヴェネプール

自身初のグランツール区間勝利を射止めたレムコ・エヴェネプール

得意の個人タイムトライアルを誰よりも速く走ったレムコ・エヴェネプールが、生まれて初めてのグランツール区間勝利を射止めた。マイヨ・ロホとしての堂々たる走りで、総合2位以下とのタイム差を1分12秒から2分41秒へと開き、神童は大会後半戦へと自信を持って臨む。

「ステージ優勝が本当に欲しかった。だから肩の荷は下ろせた。今後はひたすらレッドジャージを守り、最終的に持ち帰ることに集中していくだけ」(エヴェネプール)

休息日と、北スペインからの大移動を終え、2022年ブエルタ・ア・エスパーニャは新しい週へと走り出した。残念ながら大量6人が新型コロナウイルス陽性で帰宅しーースプリント区間2勝サム・ベネットも含まれていたーー、さらに2人が体調不良でDNS。この日スタート台から走り出したのは156選手で、44番目にスタートしたレミ・カヴァニャが、真っ先に好タイムを叩き出した。

クイックステップ・アルファヴィニルのチームメートで、2019年ツール・ド・フランス第13ステージでは27.2kmの個人TTを制したロード世界王者ジュリアン・アラフィリップが、自らの成績は考えずに極めてのんびり走った(4分30秒遅れの55秒)のだとしたら、別名「クレルモンフェランのTGV」は、来る世界選手権を睨んで全力を出し切った。

30.9kmの個人タイムトライアルは全長に渡ってほぼ平坦で、テクニカルなコーナーは数箇所しか存在しない。最終盤に小さな小さな上りが挟み込まれてはいるものの、決して選手たちが苦しみ喘ぐような難所でもない。いわゆる「スペシャリスト」向けのコースで、元仏TTチャンプは34分18秒80の暫定トップタイムを記録。そこから約2時間15分に渡って、首位だけに座ることを許された「ホットシート」を温め続けた。

「もちろん今大会における優先順位はレムコ補佐」であり、「明日からは再びレムコのために100%尽くす」と宣言するカヴァニャは、ただ「中盤の8〜9kmに渡って集中力が途切れた」ことを認めた。「最後の最後には抜かれるだろう」ことも、はっきりと理解していた。

ついには最後から3番目に出走したプリモシュ・ログリッチが12秒上回り、カバニャは首位の座を追われた。東京五輪の同種目金メダリストもまた、最終走者のレムコに、あっさりトップタイムを塗り替えられてしまうのだけれど。

穏やかな雰囲気で選手に拍手を送る街の人たち

穏やかな雰囲気で選手に拍手を送る街の人たち

そもそも区間3位カヴァニャと6位ローソン・クラドックを除いて、区間上位には、総合エース級ばかりが並んだ。今大会ここまでまるで影の薄かったミゲルアンヘル・ロペスは、区間9位・1分47秒遅れと、復調を匂わせた。また今ジロ2日目に個人TT勝利をさらいーーたとえ急坂フィニッシュだったといえどもーー、孤独な努力が苦手とのイメージを見事に払拭したサイモン・イェーツは、1分42秒差の区間7位と改めて自らの進化をアピールした。

イネオス・グレナディアーズの若手エース3人組も、期待に違わぬ好走を披露した。テイオ・ゲイガンハートは区間8位に、カルロス・ロドリゲスは1分22秒差の4位に食い込んだ。

なにより先週末はまるで思い通りの走りができなかったパヴェル・シヴァコフにとっては、「キャリア最高の個人タイムトライアル」だった。第1中間地点ではカヴァニャとコンマ差で並び、フィニッシュでも「暫定」2位。最終的にはエヴェネプールから1分27秒遅れの区間5位で締めくくった。グランツール出場7回目にして、個人TTで初のひと桁台に食い込んだことに「ちょっとした驚き」を隠せなかったそうだが、「調子が戻ってきたことを確認できた」と今後2週間に向けて自信もつけた。

一方でUAEチームエミレーツの2人にとっては、少々苦い結果だったかもしれない。コース後半スピードに乗ったジョアン・アルメイダは、フィニッシュ直前にコースを間違え、10秒以上を失った。また前半から飛ばしたフアン・アユソは、終盤に息切れした。それぞれ2分13秒遅れと2分17秒遅れでステージを終えた。

ピュアクライマーとして「いかにタイム差を最小限に留めるか」にこだわったエンリク・マスは、1分51秒遅れの区間10位。2分先に走り出したログリッチに総合で逆転されたせいで、「完全に満足はできない」ものの、非常に良いタイムトライアルができたことには間違いない。

ブエルタには過去3度出場し(その3度ともに総合優勝をもぎ取り)、全4度の個人タイムトライアルを制してきたログリッチもまた、初めての敗北に100%満足することなどできないはずだ。しかもエヴェネプールには、48秒もの大差をつけられた。それでも大会4日目のマイヨ・ロホは、区間2位で再び総合2位の座に浮上した。

「自分のパフォーマンスには満足している。良いタイムトライアルが走れたし、誇りに思う。ただ僕より速い選手が1人いただけ。ブエルタはまだ中間地点にさえ着ていない。だからこの先も多くの戦いが待ち構えている。この先も毎日、好成績を上げるための可能性を追い求めていくし、チャンスは必ず訪れるはずだと確信している」(ログリッチ)

このログリッチ曰く「人生最高の調子で突っ走っている」レムコが、まるで当然のごとくすべてを蹴散らした。第1中間地点では、そこまで首位を堅守してきた同僚カヴァニャの記録をいきなり21秒上回り、第2中間地点ではトップタイムを36秒も塗り替えた。

マイヨ・ロホで首位フィニッシュするレムコ・エヴェネプール

マイヨ・ロホで首位フィニッシュするレムコ・エヴェネプール

「チームメートのレミが完璧なタイムトライアルをしてくれたおかげで、僕はあらかじめ好タイムを把握することができたんだ。それにチームバスでレースを見ながら、彼に比べて他の選手たちが中盤でタイムを落としていることにも気がついた。だから僕はひたすら全力でプッシュし続けた」(エヴェネプール)

プロ転向1年目の19歳で、エリート個人TT世界2位という関係者の度肝を抜いた元「神童」は、22歳の夏、最後までスピードを決して緩めなかった。フィニッシュ直前にはスプリントさえ切る余力さえ残していた。フィニッシュタイムは33分18秒65。全出走者の中で唯一、時速55キロ(55.676km/h)を超える圧巻の勝利だった。

「マイヨ・ロホで区間を勝てたなんて、すごく素敵な気分だ。凄まじく速いタイムトライアルになると分かっていた。だからステージ優勝できて本当に嬉しい。夢が叶った。今からはブエルタ総合優勝を目指して戦っていく」(エヴェネプール)

ちなみにグランツールにおける史上最速タイムトライアルは、2001年ジロプロローグでリック・ヴェルブルッヘが叩き出した58.874kmだが、走行距離は7.6kmに過ぎなかった。距離が30kmを超えるタイムトライアルでは、2005年ブエルタ第20ステージ38.9kmでの56.218km/hという凄まじい記録が残っているが、コースの後半が下り基調だったことを特筆しておこう。

初めてのステージ優勝を楽しんだエヴェネプールは、5日連続でマイヨ・ロホ表彰台に上った。2位に浮上したログリッチに対しては、すでに2分41秒ものリードを有する。ツール・ド・フランスでは大会半ばに2分以上の差をつけてしまう総合覇者も珍しくないが(2021年ポガチャル、2015年フルーム、2014年ニバリ……)、むしろ接戦の多いブエルタにおいては、過去10年見返してみても、10日目にこれほどの余裕を持つ選手は存在しなかった。

また一歩後退した3位マスは総合で3分03秒、4位ロドリゲスは3分55秒と、遅れはますます大きくなった。5位イェーツ4分50秒差、6位アユソ4分53秒差、7位アルメイダ6分45秒差、8位ロペス6分50秒差、9位シヴァコフ7分06秒差、10位ゲイガンハート7分37秒差……。

果たして大会の後半11日間で、タイム差はどこまで広がってしまうのか。もちろんエヴェネプールも決して油断してはならない。とびきり難しい2022年ブエルタ・ア・エスパーニャには、いまだ難関山頂フィニッシュ5回を含む7つの山岳区間が待ち受けている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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