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【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第7ステージ】自身にとってもコフィディスにとっても3年ぶりのブエルタ区間優勝で男泣き!ヘスス・エラダ「とてつもなく大きな意味を持つ勝利だし、本当に嬉しい」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか男泣きするヘスス・エラダ
ベテランが男泣き。プロトンの猛烈な追い上げをかわし、共に逃げ切った4人の仲間たちを相手に、ヘスス・エラダがスプリントを勝ち取った。熾烈な追いかけっこの背後で、レムコ・エヴェネプールは静かな1日を過ごし、マイヨ・ロホを難なく守り切った。
「言葉では説明できないほど、感情が爆発した。ここ数日間、僕を苦しめてきた緊張感が、一気に解き放たれたんだ」(H・エラダ)
不思議な地形のコースは、まるで謎解きのようだった。それでもスタート前にマッズ・ピーダスンはこう宣言していた。ステージの真ん中に立ちはだかる長い長い1級山岳を利用して、ライバルスプリンターたちを蹴落とし、集団スプリントで勝ちパターンに持ち込む……と。だからこそスタートから数キロで6人が逃げ出すと、トレック・セガフレードはすぐさま集団制御に取り掛かった。
ヘスス・エラダにオメル・ゴールドスタイン、サムエーレ・バティステッラ、ジミー・ヤンセンス、ハリー・スウェニー、なにより2日前に逃げ切りで区間3位、しかもマイヨ・ロホまで2秒に迫ったフレッド・ライトが滑り込んだ6人の逃げ集団は、一時は最大4分半のリードを許された。しかしピーダスン率いるトレックに呼応するように、カーデン・グローブスのスプリント力にかけるバイクエクスチェンジ・ジェイコもせっせと牽引作業に加わった。おかげで残り86.6km、1級山岳の登坂口にたどり着く頃には、余裕は約3分半に減っていた。
野心むき出しのトレックは、全長22.4kmのうんざりするほど長い上りが始まると、クライマーたちを牽引役に投入した。先頭で作業に取り組んだのは「元アングリル覇者」ケニー・エリッソンドと、今ジロのエトナ山頂フィニッシュから10日間マリア・ローザを着用した「フアンペ」ことフアン・ロペス。ピュアスプリンターにとっては少々速すぎるけれど、「去年までの僕なら避けていたが、今季の僕の脚なら上手くやれる」と自信をみなぎらせるピーダスンにとっては丁度良い、そんな絶妙な速度を2人は刻み続けた。
真っ先にベルギーチャンピオンのティム・メルリールが脱落した。パスカル・アッカーマンもたまらず遅れ始めた。山頂まで5kmに迫った時点で、グローブスが喘ぎ始めたのは、間違いなくトレックの不利に働いた。バイクエクスチェンジは一時的に先頭から姿を消し、サポートのために集団最後尾へと集結した。
それでもトレックの懸命な作業は続いた。スタート直後に逃げ潰しに走ったエウスカルテル・エウスカディが、協力を始めたおかげで、ダニエル・マクレーもじわじわと後退を始めた。上り最終盤ではイネオス・グレナディアーズも力を貸した。おかげで、おそらくピーダスンが最も蹴落としたかったサム・ベネットも、とうとう山頂1km前後で後方へと沈んでいった!
たしかに邪魔者は数人蹴散らした。しかし、これほどの尽力にも関わらず、残り64kmの山頂で、逃げとメイン集団との差はいまだ2分45秒も残っていた。長い上りでスピードを上げたのは、なにもメイン集団だけではなかったからだ。代償としてゴールドスタインが耐えきれずに脱落し、逃げは5人に数を減らした。
しかも山頂からの残る64kmは、もはや下りと平地しかない。おかげで一旦は遅れたスプリンターたちも、メインプロトンに次々と帰ってきた。残り50kmでベネットさえ集団に追いついた!
つまりスタート直後からさんざん働き、アシストを疲弊させてきたというのに、オランダの平地2ステージを楽々と制したマイヨ・ベルデはあいかわらず集団内に居座っている……。もはやトレック・セガフレードに仕事を続ける理由はなくなった。残り42km。ピーダスン親衛隊は作業から撤収した。逃げとのタイム差は2分半だった。
マイヨ・ロホのレムコ・エヴェネプール
突如として最前列に押し出されたクイックステップ・アルファヴィニルに、もちろん急ぐ理由はなかった。いつもならば俊足スプリンターを擁し、平地ステージで威力を発揮するウルフパックだが、今ステージの使命は、ひたすらマイヨ・ロホのエヴェネプールを安全にフィニッシュまで送り届けること。前を行く5人を無理に捕まえる必要はなかったしーー2日前は総合2秒差につけていたライトも、前日の難関山頂フィニッシュで21分57秒差に後退し、つまりレムコを脅かす存在ではなかったーー、翌日からの難関山岳2連戦に向けて、できるだけ体力も使いたくなかった。自ずとメインプロトンは、ほんの一瞬ながら、減速する。
これに慌てたのが、上りで最終盤までしがみつき、下りで必死に遅れを取り戻したスプリンターたちだ。マクレーはアルケア・サムシックの仲間たちを前線に配置し、グローブスのためにバイクエクスチェンジは再び力を尽くした。
残り25kmで、差がようやく2分を切ると、ついにベネットのためにボーラ・ハンスグローエも作業に乗り出した。すると、しばらく姿を消していたトレックも、残り20kmから作業を再開した。集団スプリントフィニッシュを信じて、4つのチームが持てる力を結集した。……逃げにライトを送り込んだバーレーン・ヴィクトリアスが、2列目に陣取り、先頭交代の邪魔をしていたけれど。
10km=1分。自転車界に伝わる古くからの定説に従えば、逃げとの1分差を縮めるのに10km要する。そしてこの日、逃げが残り10kmのアーチをくぐり抜けた時点で、メイン集団の差はまさしく1分だった。
エラダ、バティステッラ、ヤンセンス、スウェニー、ライトの5人は、決して協力体制を崩すことなく、黙々と前進を続けた。一方のスプリンターチームは、入れ代わり立ち代わり、必死にスピードアップを試みた。残り5kmを切っても、いまだに差は50秒。イネオスも改めて力を貸した。しかしタイム差は思うようには縮まなかった。残り3kmで43秒。
「ラスト3kmのタイム差で、逃げ切りが明らかになった。あとは最終1kmまで、じっと我慢強く過ごした。他の選手の後輪に入って」(H・エラダ)
ぎりぎりまで先頭後退を続けた5人は、残り1.5kmで、ようやく勝負へ向けた駆け引きに切り替えた。
いまだプロ生活で1つも勝ったことのないスウェニーが、用心深く先頭を取り、33歳で未勝のヤンセンスは軽い早がけも見せた。プロ入り前年にツール登竜門とU23版ジロでそれぞれ区間勝利を手にしたライトもまた、初めてのプロ勝利を目指して、恐れず先頭を奪い返した。23歳の若者は、そのまま最前列を誰にも譲らず、勇んで最終ストレートに飛び込んだ。さらには残り250m、向かい風にも関わらず、真っ先にスプリントへと打って出た!
「後方から仕掛けるべきだ、と良く言われるけど、言うは易く行うは難し。あまりにも勝ちたい気持ちが強かった。フィニッシュラインが見えてきた段階で、『僕がスプリント最強だ。ただあそこに向かって走るだけだ』って考えて、少し早めに仕掛けちゃったんだ」(ライト)
5人の中で最も競技経験も勝利経験(今回含めて通算18勝)も豊富なエラダは、前から4番目の位置で、静かに潜んでいた。前方でスプリントの火蓋が切られると、道が微妙に下りに転じたのを利用して、するりとライトの後輪へと滑り込んだ。そして残り75mまで粘ってから、ようやく風の中へと躍り出た。ライトを追い越したのはライン手前ぎりぎり25m。しかも最後尾から勢い良くバティステッラも追い上げてきていたけれど……ハンドルを投げた。
3年ぶりのブエルタ区間優勝に輝いたエラダ
「誰もが疲れていることは分かっていた。でも脚の調子の良さも感じていた。だから自分のスプリント力を信じて、フィニッシュラインまで戦い抜いた。とてつもなく大きな意味を持つ勝利だし、本当に嬉しい」(H・エラダ)
勝利を確信し、拳を幾度も振り上げた。さらには地面に座り込むと、エラダは泣き崩れた。チームのエースナンバーを背負う責任は重かった。何度もトライしてきたが、この日まで一度も逃げに乗れなかったし、前日は落車さえした。しかし4年前はマイヨ・ロホを2日間身にまとった「元モビスターのアシスト」は、自身にとってもコフィディスにとっても3年ぶりのブエルタ区間優勝を、見事に引き寄せた。
2日前に続きライトは区間3位に泣いた。29秒遅れでフィニッシュラインに駆け込んできたメイン集団内では、ベネットが6位を軽々とさらい、最速の脚を改めて証明した。マイヨ・ベルデ用ポイントも15pt積み重ね、ポイント賞首位も堅守。ピーダスンに関しては……まさに骨折り損のくたびれ儲けとはこのことか。区間9位に甘んじ、緑ジャージランキングも2位定位置のままだった。
総合勢は何事もなくステージを走り終えた。総合順位に主だった変動はなく、ポイント賞以外の賞ジャージも持ち主は変わらなかった。
「良い1日だった。天気も良かったし、楽しんだ。逃げが出来上がってからは、ただフィニッシュへ向かうだけでよかった。パーフェクトなシナリオだったよ。現時点で僕は悪くないタイム差を有しているから、今週末もこのリードを守りきりたい。もちろん簡単ではないだろう。だってこの先には、2日連続の山岳ステージが待っているのだから」(エヴェネプール)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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