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ツール・ド・フランス2022 総括 | 別府史之のetape par etape
本場ヨーロッパの自転車ロードレース界で、長年トッププロとして活躍してこられた別府史之さんにお話を聞く、「別府史之のetape par etape(エタップ・パー・エタップ)」。
第4回目は、今年もとびきり熱かった、そんなツール・ド・フランスの戦いを振り返っていただきました!
■2022年ツール・ド・フランスの総合争い、いかがでしたか?
ずばり「ユンボ・ヴィスマvsタデイ・ポガチャル」でした。
ポガチャルは、UAE・チーム・エミレーツの一員としてではなく、個人で戦っていたように感じました。チーム力の厚いユンボ・ヴィスマに、ポガチャルが必死になって喰らいついていく。そんなスタイルで総合争いは進んでいきましたね。
ツールが始まった時点では、UAEも、ジョージ・ベネットやラファウ・マイカという強いアシストを揃えてはいたんです。ただ残念ながら、コロナや負傷で、少しずつ選手を削られていってしまった。本来なら終盤にかけてチームでポガチャルを助け、お膳立てする予定だったはずですが、実際は最終局面にアシストが残っていない場面が多かった。エースのポガチャルを前に送り出し、後は1人で頑張ってくれ、という形になってしまいました。
あと今回のツールは、山岳フィニッシュがとても多かったので、序盤戦から飛ばし過ぎると後々ダメージが残ってしまうような展開になるんじゃないかな……と開幕前から感じていたんです。しかも、その序盤には、ワウト・ファンアールトがマイヨ・ジョーヌを着て活躍したじゃないですか。それに対して真っ向勝負したのがポガチャルだった気がするんですよね。
本来であれば、総合を考えるなら、そこまで序盤から飛ばさなくても良かったはずなんです。でも「陽動作戦」じゃないんですけど、ワウトが動くことによって、あ、自分も行かなきゃみたいな感じで動いていた。動かされていた。これも敗因のひとつだと思ってます。まあすべてはワウトが強すぎるせいなんですけど、その陽動作戦にばっちりはまって、結構ポガチャルは脚を使ってしまったな、と。
■本当にワウトは強すぎましたね??
驚異的な強さを見せたワウト・ファンアールト
昨年も今年も個人タイムトライアルで優勝して、さらに山岳でも強い。去年もモン・ヴァントゥで勝ったくらい強かったんですが、でも、今回の2022年のツールのワウトに関して言えば、もはや誰にも手が付けられないほどでした。
個人的に一番驚いたのは、マイヨ・ジョーヌを着て、カテゴリー3級の登りで飛び出して、単独でそのままステージ優勝を飾ったこと。あのステージを見た時に、これは前代未聞だな……と。もちろんマイヨ・ジョーヌを着てステージを勝つ選手はたくさんいますけど、ツール序盤で、マイヨ・ジョーヌ着ているのに攻撃に出る、というのはほとんどない。
長年この競技をやってきて、レースもたくさん見てきましたが、「こんな戦い方があるんだ!」って改めて思ったんです。あれはワウトにしか出来ない走り方だった。ワウトだから通用するというか、あの走りで通用するのはワウトしかいないというか。今のプロトンの中で、彼が飛び抜けた存在だからこそ、ああいう走りができたんではないのかなと。
マイヨ・ヴェール争いは2位とすごいポイント差をつけたし、山岳賞ジャージだって5位ですよ。ちょっとシフトを変えていけば、マイヨ・ア・ポワも狙える位置にいた。つまり本人が望めば、マイヨ・ヴェールとマイヨ・ア・ポワの両方が狙える。ステージも勝てる。さらに、ゆくゆくは、このまま行くと総合も取れちゃうんじゃないか……。恐ろしいパワーを秘めている選手です。
総合向けに走り方をシフトして行けば、総合も行けると思いますよ。ただ今年2022年のこのコースはどうかと聞かれたら、難しいでしょうね。山岳フィニッシュが多すぎて、山岳スペシャリストが活躍するようなツールでしたから。ただ、たとえば過去にブラッドリー・ウィギンスが制したような(2012年)、TTで勝ち上がれるようなコースプロファイルであればチャンスはある。特に「ワウトで総合を狙う」というチームが存在しさえすれば、行けるんじゃないかなと思いますね。
■マイヨ・ジョーヌのヴィンゲゴーの走りはどう評価しますか?
もちろん昨年のツールでも大活躍したんですけど、前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネで、チームリーダーのプリモシュ・ログリッチをサポートする役割だったのにも関わらず、実際のところログリッチよりも上れていたんじゃないか……っていうシチュエーションがあった。そして、今回のツールでポガチャルと競り合っているのを見て、改めて思いましたね。今一番上りが速い選手はヴィンゲゴーだ、と。
山岳が強い選手というのは、普通はそれほどタイムトライアルを得意にはしていないものです。でもヴィンゲゴーは、第1ステージも最終日前日も上位に入ってきた。蓋を開けてみたら、ポガチャルやゲラント・トーマスよりも速かった。これには少し驚かされましたけど、その分、しっかり準備してきたんだとも思います。
そう考えると、武器をたくさん持っている選手ですね。山岳スペシャリストであり、タイムトライアルが走れて、しかもすごく優秀なチームメートを擁している。向かうところ敵なし。弱い部分が全然見つからない選手だな、というのが今回のツール・ド・フランスの印象でした。
■個人的に印象に残ったステージは?
マイヨ・ジョーヌを着てワウトがアタックして、単独でフィニッシュまで行った第4ステージですね。マイヨ・ジョーヌを着ての独走優勝というのはビックリしました。
かつての僕のチームメートでもあるファビアン・カンチェッラーラが、スプリントステージと思いきや、マイヨ・ジョーヌを着ながら単独でロングスパートをかけてステージ優勝してしまったことがありますが(2007年大会第4ステージ)、あの時よりもさらに強い衝撃を受けました。ツール序盤でマイヨ・ジョーヌを着てる選手というのは、普通は守る立場というか、「明日も着られればいい」みたいな感じになりがちなんですけど、常に攻める姿勢を崩さないというのはやっぱり美しかったです。
もう1つ上げるとするならば、第19ステージの、クリストフ・ラポルトのあのアタック。衝撃的でした。たしかに、カウンターアタックで誰か行くんじゃないか、っていう状況ではありました。ラスト3km切ってから、前の選手たちは泳がされていて、たとえばマイケル・マシューズとかパンチャー系の選手が飛び出していくんじゃないか……っていうときに、まさかの、ユンボ・ヴィスマの、ラポルトが飛び出して取るとは!!あれは爽快でした。「おお、そう来たか!」と。
■特別に思い入れを感じた選手はいましたか?
第14ステージで勝利したマイケル・マシューズ
解説する立場として、元チームメートを特別に応援してはダメだ、フラットな感情でやっていくべきだ、と自分に言い聞かせてやったので、実は内心葛藤もしたんです。ルーベのステージで勝ったクラーキー(サイモン・クラーク)もそうですし、マイケル・マシューズもそうですし、マス・ピーダスンもそうですし……。
それ以外で名前をあげるとすれば、クイックステップのミケル・モルコフですね。第2ステージでは、ファビオ・ヤコブセンのリードアウト役として、芸術的なまでの仕事をした。ちゃんと他の選手も潰しつつ、しっかりヤコブセンのために道を確保して、ステージを勝たせた。さらにはヤコブセンが山岳で遅れようものなら、一緒に走って、完走を目指してフィニッシュまで連れて行った。素晴らしい仕事人でした。
でも、第15ステージで、本人が体調不良で遅れてしまった。それでもずーっとひとりで走り続けて、フィニッシュを目指した。結果的にはタイムカットになってしまいますが、でも、多くの人に応援されながら最後まで走り続けたというのも、選手として素晴らしいなと。
勝利だけがこの競技ではないんです。グランツールでの花形はもちろん総合勝者や各賞ジャージ、ステージ勝者ですけど、チームメートのために自分の身を粉にして走る選手もいます。自分の仕事をまっとうする。自分の体調が悪い時にもしっかり最後まで走り切る。そんなモルコフの姿は、元選手として誇らしかったですね。
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ツール・ド・フランス総括|第4回 別府史之のetape par etape
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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