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【Cycle*2022 クラシカ・サンセバスティアン:レビュー】大人になった神童レムコ・エヴェネプールが人生2つ目のベレー帽「おかげで好感触と共に、ブエルタへと乗り込むことができる」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかレムコ・エヴェネプール
たとえ成人になっても、ただの人になるはずもなかった。その大胆さには、ますます磨きがかかる。神童時代の19歳に、約9kmの独走で勝ったレースを、22歳になったレムコ・エヴェネプールは、44.5kmもの単独走行でねじ伏せた。
「パーフェクトな1日だった。チームはスタート直後から凄まじい仕事をしてくれたし、僕は最高に調子が良かった。しかもバスクの観客たちの応援は素晴らしかった。おかげでモチベーションは倍増したし、脚にさらなる力を与えてくれたんだ」(エヴェネプール)
勝負を左右したのは、エヴェネプール曰く「フレッシュな脚」。いつもならツールを走り終えたばかりの者たちが、クラシカ・サン・セバスティアンで輝くことが多いのだけれど、ひときわ暑くて速かった今年のフランスを抜け出した強者たちは、例年以上に苦しんだ。ほんの1週間前まで毎日全力疾走のタデイ・ポガチャルさえも、フィニッシュまで約63kmを残して、最前列から姿を消していった。
もちろんツール総合2勝のチャンピオンを後方へと蹴落としたのは、レムコ親衛隊が強いた猛烈なスピードだった。
なにしろエヴェネプールにとっては1ヶ月ぶりのレースだった。プロ4度目の春に、ステージレース総合2勝と初モニュメントタイトルを含む計10勝を手に入れた後、「長い長いキャンプ生活」に入っていた。イタリアンアルプスでじっくり高地トレーニングを積み、体重を絞り、上りを強化した。つまり身体は完璧に仕上がっていたし、しかもキャンプの成果を早く本番で試したくてウズウズしていた。
だからこそクイックステップ・アルファヴィニルは勢力的にテンポを刻んだ。全長224.8kmのレースも残り3分の1に入り、大会の伝統坂ハイズキベルに差し掛かる頃には、朝からの逃げはすべて回収した。この上りでポガチャルを退け、下りではタデイ・モホリッチの攻撃の芽をもきっちり潰した。
「あまりにもチームが強力に牽引し続けてくれたおかげで、僕はまるで力を使う必要がなかった。エネルギーは十分に残っていた。つまり、僕がすべきことは、全力で飛び出すことだけだった」(エヴェネプール)
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【ハイライト】クラシカ・サンセバスティアン|Cycle*2022
続く激坂エライツへ上り始めると、複数チームが、最前列に殴り込みをかけた。中でもディフェンディングチャンピオンチームのEFエデュケーション・イージーポストが、クイックステップを押しのけ、がむしゃらな加速を試みる。
……と、これが、引き金となった。集団前方が割れた隙を突くように、エヴェネプールが前へと進み出たると、残り46km、そのままとてつもなく大きな一発をぶっ放した。
後輪に飛び乗れたのはサイモン・イェーツただ1人。ジロを第17ステージでリタイアした後、まる2ヶ月の空白を経て戦線復帰したばかりのクライマーもまた、とてつもなく絶好調なはずだった。この1週間でワンデーを1つ、区間と総合を1つずつ勝ち取り、優勝本命の一角に名を挙げられてもいた。
「僕も調子は良かったけど、こんな努力をフィニッシュまで続けることはできないだろうことは分かっていた。だから僕は自分のリズムで走るべきだと考えたんだ」(イェーツ)
つまり自らの意志で、残り44.5km、サイモンは静かに後方へと遠ざかっていった。その後はパヴェル・シヴァコフやカルロス・ロドリゲス、ティシュ・ベノート、さらにはバウケ・モレマと追走集団を形成するも、もう2度とレムコの背中を目にすることはなかった。
一方のレムコはクレイジーな努力をフィニッシュまで続けた。距離に震え上がることなどなかった。そもそもジュニア時代の欧州選手権では、114kmもの独走勝利で世界中にその名を知らしめたし、昨夏ドルイフェンコルスでも61kmのソロライドを成功させている。
かつて自らを崖下へと突き落とし、約9ヶ月間レースから遠ざけたダウンヒルも、もはや怖くはなかった。積極的に踏み続けた。ただタイムトライアル巧者を唯一悩ませたのは、エライツを下った先の長い平地に、強い向かい風が吹いていたこと。できる限り上体を低く下げ、高い出力を保ち続けるよう心がけた。
「それから、ムルギル・トントラで、再び全力に切り替えた」(エヴェネプール)
3年前の初優勝時は、この最終坂ムルギル・トントラの上りで、ついに独走態勢へと持ち込んだ。今年はこの山道に詰めかけた熱狂的なバスクファンを、麓から山頂まで、たっぷりと独り占めすることができた。初々しい感動に溢れた19歳の時とは違い、22歳になったレムコは、フィニッシュラインへと突き進みながら、もっともっと、と観衆を煽る余裕すらあった。
エヴェネプールの歓喜の1分58秒後に、シヴァコフが2位で奮闘を締めくくった。ほんの6日前には、パリのシャンゼリゼ大通りで、チームメートたちの表彰式を遠くから眺めたべノートは、この日は自らが表彰台の上から3番目に上がった。2016年に最終8kmをひとりで逃げた思い出の地で、モレマは4位に、レムコより1歳年下で、約1年前のツール・ド・ラヴニールでは70kmの独走勝利でポテンシャルを見せつけたロドリゲスは、ワールドツアーワンデー自己最高の5位に。イェーツは最終的に6位で1日を終えた。
人生2つ目のベレー帽を手に入れたレムコ・エヴェネプールはーー「1つは両親のため、1つは僕のため」ーー、約3週間後に、ブエルタ・ア・エスパーニャへと走り出す。果たして大人になった神童は、真のグランツール総合ライダーになる素質をも有しているだろうか。人生2度目のグランツールで、おそらく最終審判が下される。
「おかげで好感触と共に、ブエルタへと乗り込むことができる。大いなる自信もついたし、リラックスした気分でもある。ここで勝てたことは、本当に大きい」(エヴェネプール)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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