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サイクル ロードレース コラム 2022年5月30日

【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第21ステージ】ジャイ・ヒンドレーが忘れ物を取り戻す悲願のジロ総合制覇「オーストラリア人であることを心から誇りに思う」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マリア・ローザのジャイ・ヒンドレー

マリア・ローザのジャイ・ヒンドレー

イタリアントリコローレがフィナーレの日に華々しく輝き、ばら色のジャージが、いにしえの勇者の記憶を永遠に留める円形闘技場に帰り着いた。マッテオ・ソブレロが最終個人タイムトライアルを圧倒し、ジャイ・ヒンドレーが第105回ジロ・デ・イタリアの総合勝者として、「トロフェオ・センサ・フィーネ(終わりのないトロフィー)」を天に掲げ持った。

「マリア・ローザを着て、アリーナへと走り込んだときの気持ちは、本当にスペシャルだった。あの瞬間のことは、ずっと忘れないだろ」(ヒンドレー)

3週間前、ハンガリーのブタペストから、176選手で走り出したジロ一行が、149人になってヴェローナにたどり着いた。旅の終わりを祝うパレードランがない代わりに、17.4kmに渡って、誰もが沿道やアリーナの観客を独り占めにした。

この日1番にコース上へと走り出す栄誉を手にしたたロジャー・クルーゲは、無事に、総合149位でジロを終えた。2020年ツールでは「ランテルヌ・ルージュ=赤ランタン」と呼ばれる総合最下位となり、今回は「マリア・ネーラ=黒ジャージ」。同じく非公式ではあるものの、当人たちの間では熾烈なデヘント競争では、総合74位トーマスが総合105位アイメを蹴散らした。

雨が降ったせいで、いまだところどころ濡れた路面で、46.607km/hの最高時速を記録したのはソブレロだった。昨6月のイタリア選手権個人タイムトライアルで、世界王者フィリッポ・ガンナを蹴散らしナショナルチャンピオンに君臨した25歳は、上り基調の前半9.5kmを最速の39.614km/hで駆け上がり、下り基調の後半7.7kmをやはり最速59.102km/hでかっ飛ばした。

「上りのてっぺんをフィニッシュラインに見立てて、そこに向けて全力を尽くしたんだ。あとの下りは、残った体力でこなさなきゃならなかった」(ソブレロ)

フィニッシュラインで22分24秒54のタイムを叩き出し、暫定首位に躍り出た。1時間半後に最終走者ヒンドレーが走り終えても、変わらずトップのままだった。3週間前のブタペスト個人TTはチームメイトのサイモン・イェーツから13秒差の4位に甘んじたが、今度こそ人生初めてのグランツール区間勝利をもぎ取った。

つまり今大会2度の個人TTはいずれもバイクエクスチェンジ・ジェイコが持ち帰り、また大会開催国イタリアは、異なる5人の選手で5つのステージを制した。

「素敵な気分だ。信じられない。僕は自分をタイムトライアルスペシャリストだと思っているけれど、この先はロードレースでの結果も目指していく。たとえばタイムトライアルを含むステージレースで、総合にも挑戦したい。特にモルティローロでは総合選手たちにそれほど遅れず登ることができたから、自分に自信が持てたんだ」(ソブレロ)

21ステージを制したマッテオ・ソブレロ

21ステージを制したマッテオ・ソブレロ

勝つ気満々でソブレロは「前夜は上手く寝付けなかった」そうだが、ほんの24時間前にマリア・ローザをまとったヒンドレーは、「かなりクレイジーな気分」で今大会最後のスタートラインについた。ただ2020年の0秒差とは違い、今年は1分25秒の余裕があった。

「最終日前日にピンクジャージを取って、最終日のタイムトライアルに向かう……っていうのは2年前と同じ状況だったけど、でも、うん、今日はより自信を持って臨むことができた。コースが自分に向いていたし、TT練習を重ねてきたし、なにより2年前の教訓があったから。神経質にはならなかった。それでもすごく緊張したし、2020年と同じことを繰り返すつもりはなかった。今日は勝ちを引き寄せたかった」(ヒンドレー)

この5月29日に29歳の誕生日を迎えたリチャル・カラパスは、3年前は、この同じヴェローナの最終タイムトライアルでマリア・ローザを着ていた。しかし前夜、6日間守り続けてきたリーダージャージを脱いだエクアドル人は、この日はTTナショナルチャンピオンジャージで全力疾走に挑んだ。

サスペンスも、ドラマチックな逆転劇も、もはや2人の間には起こらなかった。そもそも第1ステージから第19ステージまで、ヒンドレーとカラパスの最大タイム差は10秒でしかなく、第16ステージ以降は3秒差で激しく競り合ってきた。そんな実力が恐ろしく拮抗した2人は、この日もやはり、凄まじい僅差のまま。なにしろ山の頂上の第1中間地点では、カラパスがわずかに0.83秒上回っただけなのだ!

さすがに新王者が、中間計測後に「ポジティブなニュース」を受け取り、総合優勝を確信すると、残りはむしろ慎重に安全に走ることを選んだ。一方で最後まで力を抜かなかった2019年総合覇者が、7.39秒リードでフィニッシュラインを越えた。

清々しい笑顔を見せるカラパス

清々しい笑顔を見せるカラパス

「難しいジロだったけれど、結果には納得している。勝ったのは最強の選手だ。だからこそ僕は2位で満足なんだ。マリア・ローザで過ごした日々は素敵な経験だった。いつか再びここに戻ってきて、総合争いに挑戦するつもり」(カラパス)

そして全長3450kmのレースの、最終17.4kmだけをピンクジャージで走ったヒンドレーが、ついに2年越しの念願を叶えた。総合2位との最終的なタイム差は1分18秒。2010年に創設され、2017年にワールドツアー登録に切り替えたボーラ・ハンスグローエに、チーム史上初のグランツール総合優勝をもたらし、またオーストラリア人として史上初のジロ総合覇者となった。

「オーストラリア人であることを心から誇りに思うし、このジャージを母国に持ち帰れることが嬉しい。オーストラリア人であり、かつプロの自転車選手というのは、かなり精神的にタフな人種だと思ってる。オージーライダーはみんな打たれ強くて、去年の僕も本当にへこまされたけれど、こうして強くなって帰ってきたんだから」(ヒンドレー)

ちなみに2020年3月以来、新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限で、1度もオーストラリアに帰ることができていないヒンドレーにとって、急遽アリーナに飛んできた両親の眼の前で、マリア・ローザ表彰式に臨めたことがなによりの幸せだった。

ヒンドレーが2年がかりのジロ獲りを成功させ、カラパスが人生4度目の総合表彰台を楽しんだのだとしたら、ミケル・ランダはついに7年ぶりにグランツールポディウムに帰ってきた。また所属チームのバーレーン・ヴィクトリアスは、昨ツールとブエルタに続き、グランツール3大会連続でチーム総合首位。2年連続で違反や罰金ゼロを意味する「フェアプレーチーム賞」も獲得!

また総合9位と10位が入れ替わり、つまりフアン・ロペスは順位をひとつ落としたが、新人賞の白いジャージは余裕で守りきった。アルノー・デマールが2年ぶり2度目のマリア・チクラミーノを射止め、クーン・ボウマンはオランダ人として初のジロ山岳王に君臨した。

大会序盤にタンデム逃げを何度も見せたドローンホッパー・アンドローニジョカトリの2人は、フィリッポ・タリアーニが中間スプリント賞を、マッティア・バイスがフーガ賞(617km)、それぞれに持ち帰った。

トロフェオ・ボナコッサ賞に選ばれたヴィンチェンツォ・ニバリ

トロフェオ・ボナコッサ賞に選ばれたヴィンチェンツォ・ニバリ

そして37歳ヴィンチェンツォ・ニバリは、2010年に生まれて初めてジロ総合表彰台に上ったヴェローナの円形闘技場で、選手人生最後のジロを締めくくった。3大ツール全制覇を誇る「メッシーナの鮫」は、ジロには計11回参戦し、総合優勝2回、表彰台4回、ステージ7勝。最後の成績は総合4位だった。記者で構成される審査団から「トロフェオ・ボナコッサ賞=最も美しい偉業を成し遂げた選手」に選ばれ、最後にもう一度、最終日の表彰台に上がった。

やはりヴェローナでマリア・ビアンカに輝いたリッチー・ポートは、残念ながら、思い出の地にたどり着く2日前にジロに別れを告げた。ニバリの2度目のジロ制覇時に、共に総合表彰台に上ったアレハンドロ・バルベルデも、ついにジロでは見納めとなる。

バルベルデが人生31回目のグランツールで、26回目の完走を果たし、一方でマチュー・ファンデルプールは生まれて初めて3週間を最後まで走り切った。初日ステージ勝者にして今大会初代マリア・ローザは、連日レースに火をつけ、この日も爆走で区間3位に飛び込んだ。当然のように総合敢闘賞をかっさらった27歳は、次はもちろん、この夏のツール・ド・フランスで大暴れする予定だ。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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