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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第12ステージ】マチュー・ファンデルプールを囮に使ったステファノ・オルダーニがプロ初勝利「いつだって勝者のメンタリティは失わずに来た」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかステファノ・オルダーニ
豪華で大胆な作戦を、見事に成功させた。大スター選手のマチュー・ファンデルプールを囮に使って、ステファノ・オルダーニがプロ初勝利をさらい取った。ピンク姿がすっかり板についたフアン・ロペスは、問題なく総合首位の座を守り、総合トップ10にも一切の変動はなかった。
「フィニッシュ後にはマチューが力強いハグをしに来てくれた。すごく感動的な瞬間だった。彼のようなチャンピオンと同じチームで走れているなんて、本当に最高だし、日々たくさんのことを学んでいる」(オルダーニ)
序盤1時間の走行時速はなんと55.7km!つまりスタートから56.9km地点に構える第1中間ポイントまで、約1時間で駆け抜けてしまったことになる。そして、この第1中間ポイントを抜け出した直後に、ようやく逃げが出来上がった。
スタートとほぼ同時に凄まじい力比べが勃発した。アタックしては吸収され、吸収されてはアタックし、アタックしては吸収され……のエンドレス。そのうち例の第1中間ポイントが近づいてきたものだから……そこまで逃げ合戦にはほとんど加わっていなかったグルパマ・エフデジが、突如として隊列を組み上げた。猛烈に前進すると、マリア・チクラミーノのアルノー・デマールを素早く先頭へと送り出した。
グルパマが前方へと発射させたのは、なにも軽々と首位の12ポイントを収集したデマールだけではなかった。今大会最強スプリント列車の勢いを利用して、大きな塊が飛び出していったのだ!
こうして22人がまんまとエスケープに乗り出した。全22チーム中、16チームが前に人員を送り込んだ。スタート直後から猛攻を繰り返していたアルペシン・フェニックスからは、ファンデルプールにオスカル・リースビーク、そしてオルダニの3人が滑り込んだ。総合争いの望みが断たれたユンボ・ヴィスマやバイクエクスチェンジ・ジャイコも2人ずつ前に入ったし、同じく総合の望みが断たれた張本人、ウィルコ・ケルデルマンも絶好機を逃さなかった。
先頭集団に誰1人として送り込めなかったイスラエル・プレミアテックから、この日36歳になったアレッサンドロ・デマルキが慌てて後を追い始めたが、数キロ先で断念。一方で、入れ替わるように、同じく逃げ遅れたバルディアーニCSFファイザネ2人とドローンホッパー・アンドローニジョカトリ1人が追走を開始する。すでに55秒のタイム差が開いており、絶望的な「芋掘り」に思えた。しかし約20km先で執念を無事に実らせた。
つまり25人に膨らんだ先頭集団は、順調にプロトンへのリードを広げていく。総合最上位は11分02秒遅れのケルデルマンで、フアン・ロペスのマリア・ローザを脅かさぬ程度に、後方ではトレック・セガフレードがテンポを刻んだ。残り100kmで差は5分ほどにまで広がった。その後しばらくは延々と同じようなタイム差を保ち続けたが、残り50kmを切ると、さらにじわじわと距離は開いていくのだった。
逃げ出すのにはずいぶんと苦労したが、逃げ切りは早々に確信したはずだ。だから区間勝利へ向けた駆け引きも、極めて早い段階で始まった。残り60kmを切った頃から、先頭交代にせっせと励む代わりに、そわそわと辺りを見回す選手が増えてきた。チームメート2人に守られたファンデルプールを、誰もが恐れ、一挙一動を警戒した。
先頭を走るマチュー・ファンデルプール
「今日の僕らの計画は、少なくとも1人は逃げに乗ること。可能であれば複数で前に行くこと。そしてナポリ(第8ステージ)と同じ過ちを犯さないこと。もちろんマチューが僕らのエースで、僕も逃げ中は彼のために働いた。そして誰もがマチューを見ていた。だから、僕らは、カードを切った」(オルダーニ)
やはりアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオの仲間と2人で潜り込んでいたロレンツォ・ロータが、残り56km、1人前へと走り出していったのは、単なる「山岳ポイント収集のため」だった。しかし残された逃げ集団内では、一気に争いが加熱した。2人のユンボが交互に加速を試み、ハイス・リームライゼが上手く抜け出した。すかさずオルダーニも後に続いた。山の向こうで3人は合流し、そのまま先を急いだ。
背後では、相変わらず、誰もがファンデルプールの動向に右往左往したた。下りを利用して、オルダーニの普段の練習仲間だというダヴィデ・バッレリーニがスピードアップを敢行し、ファンデルプールも流れに乗じると、みんなが一気に前へ急いだ。ファンデルプールが加速を止めると、周囲はきょろきょろと顔を見合わせた。またしてもMVDPがどかーんと一発を振り下ろすと、ライバルたちはわーっと詰めかけ、マチューが減速すると、他も動きを止めた。
そう、ファンデルプール個人に関しては、ナポリと同じ状況だった。しかしこの日、前を逃げていたのはチームメートのオルダーニだったから……アルペシンにとっては願ってもいないシナリオだった。
「逃げ集団内でのマチューの存在が、間違いなく、勝利を左右した」(オルダーニ)
ファンデルプールへのこだわりを捨て、ようやく4選手が本格的な追走態勢に入った頃には、フィニッシュまでの距離は35kmを切っていた。この日3つ目の山岳で、前の3人との約55秒差を埋めにかかった。ケルデルマン、バウケ・モレマ、ルーカス・ハミルトン、サンティアゴ・ブイトラゴというクライマー4人衆は、山頂では、タイム差を38秒にまで縮めた。
しかしケルデルマンが「動くのが遅すぎた」と後悔したように、2度とオルダーニ・ロタ・リームライゼの3人組をとらえることは出来なかった。それどころか続く平地で再び差を引き離された。フィニッシュが近づくに連れて少々足並みが揃わなくなった4人に対して、いまだプロ人生で1勝もつかみ取ったことのない3人は、ひたすら無心で前進を続けた。
フィニッシュでロレンツォ・ロータと激しく競り合うオルダーニ
初めてのグランツール勝利に向けて、ようやく3人が駆け引きを始めたのは、残り2kmのアーチをくぐってから。
同じイタリア人同士で私生活でも仲良しのオルダーニとロタを、ラスト1kmの直角コーナーを利用して出し抜きにかかったのは、リームライゼだった。パンチャーの2人は、慌てずクライマーとの穴を埋めた。さらには、まるでトラックのバンク上と見間違うほどに、真っ直ぐな大通りで、3人は壮大な駆け引きを繰り広げた。残り250m、真っ先にスプリントを切ったのも、やはりリームライゼだった。
すぐさま後輪に飛び乗ったオルダーニは、追いすがるロタを振り払い、そして先頭でフィニッシュラインを越えた。アンダー23時代の2018年に地方レースを勝って以来のラインレース勝利であり、ジュニア時代の2016年以来6年ぶりとなるUCI大会勝利だった。
「いつだって勝者のメンタリティは失わずに来た。勝利の感覚が恋しかった。もしもジロの区間を勝てたら……なんて考えたこともある。でも、あまり夢を見るのは、好きじゃない。もしかしたら考えるのが怖かったのかもしれないし、そのせいで目標に到達できないことを恐れたのかもしれない。フィニッシュした後さえ、信じられなかったよ」(オルダーニ)
追走の4人組は、最終的にタイムをまるで縮められぬまま、57秒遅れでステージを終えた。ファンデルプールは同僚リースビークと共にのんびり7分45秒遅れでフィニッシュし、9分08秒遅れでプロトンも到着した。
マリア・ローザを守ったフアン・ロペス
本人曰くあくまで区間勝利目指して走り、総合タイムに関しては二の次だったというケルデルマンは、つまり総合タイムを8分11秒縮めた。第9ステージにメカトラで失った10分53秒の大部分を取り戻し、総合順位は23位から13位・2分51秒差へと再浮上。ただし12位とのタイム差はいまだ1分24秒も残っている。
また総合首位から12位までに一切の変動はなかった。チームメイトから「補佐される側」になったことには未だに慣れないながらも、フアン・ロペスはマリア・ローザとしての立場を改めて守り通した。ポイント賞デマールは首位を固め、山岳賞もディエゴ・ローザの肩から動かなかった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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