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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第10ステージ】エリトリアの若き才能ビニヤム・ギルマイが歴史的グランツール区間優勝「自分の成し遂げたことを本当に嬉しく思う」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかフィニッシュ後にファンデルプールと健闘を讃えあうギルマイ
我々は歴史の目撃者となった。ジロ・デ・イタリア創設から113年目にして初めて、エリトリアの才能が、フィニッシュラインで両手を天に突き上げた。つまり22歳のビニヤム・ギルマイが、アフリカ大陸出身の黒人選手として、史上初のグランツール区間優勝に輝いた。上れるスプリンター向けだったはずのステージの終わりは、総合本命たちが熾烈なバトルで燃え上がったが、総合上位勢に変化はなかった。
「信じられない。チームのみんなが僕のために1日中働いてくれた。だからこそこの勝利はチームの成功であり、家族やみんなの成功なんだ。すべての人に心から感謝しているし、自分の成し遂げたことを本当に嬉しく思う」(ギルマイ)
休息日を終え、新しい週が始まった。ハンガリーでの開幕時よりも、ちょうど10人少ない166選手がスタートを切ると、すぐに3選手が逃げ出した。ローレンス・ナーセン、マッティア・バイス、アレッサンドロ・デマルキが、軽い攻防を経てメインプロトンから遠ざかっていた。
2019年大会でカレブ・ユアンが制した第8ステージに似た地形だから……と、ロット・スーダルがこれ以上の飛び出しを認めなかったせいだった。大会4日目でエースがことごとく全滅したユンボ・ヴィスマや、休息日前日に総合の望みを失ったバイクエクスチェンジ・ジェイコも動きを見せたが、マチュー・ファンデルプールのアルペシン・フェニックスやギルマイのアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオがきっちり潰して回った。
おかげでプロトンは一旦静けさを取り戻した。なにしろコース前半は完全なる平坦で、季節外れの暑さの中、無駄な体力は使いたくはなかった。上記3チームが制御するプロトンは、海風に吹かれながら……優勝杯「トロフェオ・センツァフィーネ(終わりのないトロフィー)」を乗せたピンクの列車と並走しつつ、のんびりとペダルを回した。逃げる3人には最大6分20秒のリードを許した。
スタートから99.4km地点、フィニッシュまで96.6km地点の第1中間地点から、戦いは急激に加熱していく。
前の3人では、当然のように、今大会4度目の逃げに乗るバイスが先頭でアーチをくぐり抜けた。同僚フィリッポ・タリアーニの首位を守りつつ、自らも2位の座をきっちり固めた。後方では、いつものように、アンテルマルシェとイスラエル・プレミアテック、さらにはグルパマ・エフデジが動いた。ジャコモ・ニッツォーロが早めに仕掛け、マリア・チクラミーノ姿のアルノー・デマールが続いた。中間でもフィニッシュでもほぼ連日スプリントしているギルマイは、メイン集団内では3位通過(全体6位)に終わった。
この第1中間地点は、海沿いのフラットで真っ直ぐな道から、内陸の起伏コースへと変わる起点でもあった。いよいよ攻撃チャンスと見たバイクエクスチェンジが、クリストファー・ユールイェンセンを前方に飛ばした。ただし他は誰も動かなかった。孤独な試みは10kmほど先で自発的に打ち切られた。
リチャル・カラパス(写真中央)
「軽く身体を打っただけ」ながら、コース脇の草むらに転がり落ちたリチャル・カラパスにとっては、この小さな4級山岳で戦いが激化しなかったのは幸いだったはずだ。一方でユアンにとっては、どうやら十分に厳しすぎる速度だったようだ。調子さえ良ければ勝てるはずの地形で……フィニッシュまで80kmを残し、たった1人で遅れ始めた。
ステージ前半を牛耳った3チームのうち、ロットの野望は早々に消えた。もちろんアルペシンとアンテルマルシェは、今まで以上に熱心に作業へと取り組んだ。続く2つ目の4級山岳では、ダビ・デラクルスが飛び出しを試みたが、ベテランクライマーのレイン・タラマエが、若きギルマイのために高速リズムを刻んだ。山を越えた先でファンデルプールが「氷入りストッキング」をディレイラーに絡ませ、自転車交換を余儀なくされた時は、逆にアルペシンの仲間たちが集団前方でテンポを控えた。
5年前にこの世を去ったミケーレ・スカルポーニが、生前暮らしたフィロットラーノで、第2中間ポイントが争われた。家族や「おうむのフランキー」も沿道でレースを見守る中、やはりバイスが首位通過。スカルポーニもかつて2年半所属したドローンホッパー・アンドローニの一員は、この後もさらに10km逃げ、おかげで「フーガ賞」争いの距離をダントツ首位の通算617kmにまで伸ばしている。
最後まで逃げ続けたのはデマルキだった。2010年夏、やはりアンドローニジョカットリ(現ドローンホッパー)に研修生として加わった際に、スカルポーニとも2度一緒に走り、2度とも表彰台乗りをアシストした経験を持つ。こんなベテランは、残り33kmで独走態勢に持ち込むと、渾身の逃げを続けた。
「今日はおそらく、今シーズンここまでの時点で、僕にとっては最高の1日だった。奥底から力を絞り出せたし、かつての感覚を取り戻すことができた」(デマルキ)
ただしデマルキが1人になった時点で、タイム差はもはや1分しか残っていなかった。しかも、ちょうど同じ頃に、メイン集団では改めてユールイェンセンがアタックを打つ。今度はアルペシンもアンテルマルシェもきっちり1人ずつアシストを張り付かせた。さらにはスタート直後にすでに逃げを試みたトビアス・フォスと、ジュリオ・チッコーネ……つまり総合争いから脱落したエースたちが飛び出しを試みたものだから、集団スピードは否応なしに上がった。フィニッシュ手前21kmで非情にもデマルキを回収しつつ、プロトンは猛烈に前方へと突進した。
そこからはアルペシンが5人で隊列を走らせた。フィニッシュ手前8.5kmに控えるこの日最後の山岳で、ピュアスプリンターを蹴落とし、ファンデルプールを勝たせるために。
しかし山に入った直後に、カオスが訪れる。ユンボが再びフォスを前へと送り出したのだ。おかげでアルペシンのアシスト2人はあっという間に脚を使い果たした。吸収後には3人目のアシストが先頭で必死に集団制御を試みたが、勾配11%ゾーンに差し掛かると、今度はイネオス・グレナディアーズに主導権をむしり取られた。パヴェル・シヴァコフが凄まじい牽引を強いた。山頂間際にはアレッサンドロ・コーヴィも突撃。ルーカス・ハミルトンも呼応し……。
こんな4級峠で繰り広げられた名クライマーたちの共演を、食い止めたのがアンテルマルシェだった。休息日前日ブロックハウスで「最後の6人」に食い込んだピュアクライマー、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォが、ギルマイのために穴を埋めた。と同時に、前から30人ほどの場所で、集団がぱっくり割れる。ピュアスプリンターたちは後方に沈み、前で生き残れた俊足はギルマイとファンデルプールと、さらにはヴィンチェンツォ・アルバネーゼやファビオ・フェリーネだけ。あとは残り全員が……総合エースかそのアシストかクライマー!
マリア・ローザのフアン・ロペス
「今日はまるで総合争いの日みだいたった。こんなレース誰も予想していなかった。たとえピュアスプリンターが勝つ可能性は100%じゃなかったとしても、ファンデルプールのような選手がステージを争うだろうと考えていたから。でもチームメートのダリオ・カタルドから『最終盤は注意していけ』と言われていた。ものすごい集中力を要したし、とてつもなく難しかった。」(フアン・ロペス)
最終的にマリア・ローザを守ることになるフアン・ロペスはもちろん、先頭集団の内のあらゆる選手たちは、山頂からの下りでも極度に集中しなければならなかった。なにしろサイモン・イェーツやヴィンチェンツォ・ニバリがダウンヒル特攻に挑み、チームメイトのチッコーネも飛び出した。エマヌエル・ブッフマンが加速し、カラパスがカウンターアタックを打ち込み、ヒュー・カーシーも独走に持ち込もうと大胆な突進を見せた。
もはやアシストがいなくなったファンデルプールは、グランツール総合エースたちの攻撃を、何度も自ら回収した。残り5kmでは大胆に飛び出しさえした。
「独走態勢に持ち込もうと考えたんだ。自分ではいい飛び出しだったと思うけど、下りの勾配が緩すぎたし、1人で耐え切るのは難しかった」(ファンデルプール)
まるで爆竹のように次から次へと弾け飛んだアタックは、残り1.5kmでついに鎮火した。山頂通過時に4人を残し、この時点でもいまだギルマイの側に2選手がついていたアンテルマルシェが、最後の仕上げに乗り出した。ヤン・ヒルトが集団を制御し、発射台はポッツォヴィーヴォが務めた!
「総合系ライダーであるポッツォヴィーヴォや、タラマエや、ヒルトでさえ、僕のために素晴らしい仕事をしてくれた。最後には、ポッツォが、アメージングだった。僕に『来い!』って言って、残り600mから素晴らしいリードアウトをしてくれた」(ギルマイ)
歴史的勝利を収めたギルマイ
そして、残り300m、ギルマイは勝利への加速を切った。後輪に潜んでいたファンデルプールも、すぐに飛び出すと、ほぼ横へと並びかけた。しかし、大会初日にはそのまま抜き去ったファンデルプールが、フィニッシュまで50m、力尽きた。ただ右手親指を突き上げ、良きライバル、ギルマイの快挙を讃えることも忘れなかった。
「チームが信じられないような努力をしてくれたから、勝利で締めくくりたかったし、可能な限りの力を振り絞った。でも最後は少し足りなかった」(ファンデルプール)
昨秋のU23世界選手権ではアフリカ出身の黒人選手として史上初のメダルを獲得し、3月末のヘント〜ウェヴェルヘムで、フランドル系クラシックを制した史上初めてのアフリカ人選手になったギルマイは、またしても自らの脚で新たな歴史を書き記した。22歳の才能は、この先もたくさんの「史上初」を達成していくに違いない。
ただ表彰式中にスプマンテのコルク栓が左目を直撃し、直後に病院へ直行。残念ながら記者会見は中止された。左目をガーゼで覆った状態で宿泊先へと帰ったが、その後チーム側から、ガーゼなしで笑顔で乾杯する写真が公表された。開幕からの10日間で6回の区間トップ5入りを成し遂げてきたギルマイが、第11ステージに出走できるかどうかは、当日朝の状況で判断するとのこと。
やはり連日ジロを盛り上げているファンデルプールは、2位で奮闘を締めくくり、3位にはアルバネーゼが食い込んだ。つまり猛烈な打ち合いを繰り広げた総合勢は、誰1人としてボーナスタイムを収集することもなく、全員引き分けでステージを終えた。4賞ジャージの持ち主にも一切変動はなかった。
真っ先に遅れ始めたユアンは、31分18秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いた。早ければ第11ステージ後、遅くても第13ステージ後にはリタイアする……と名言するスプリンターにとって、残されたチャンスはもはや多くはない。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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