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サイクル ロードレース コラム 2022年5月11日

【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第4ステージ】ケムナが人生2度目のグランツール区間勝利!人生初マリア・ローザのフアン・ロペス「まずはこの喜びを満喫したい」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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レナード・ケムナ

ステージ勝利したレナード・ケムナ

ハンガリー初日に鋭いジャブを打ったレナード・ケムナが、イタリア初日に長い逃げを成功させた。フアン・ロペスは勝利を逃して悔しがり、マリア・ローザを手にして嬉し泣き。荘厳なるエトナの頂が今大会最初の真実をプロトンに突きつけ、「誰が2022年ジロ・デ・イタリアを勝てないのか」が早くも明らかになった。

「とてつもなくハードな1日だった。特に最後の上りは長くて厳しかった。早くも区間勝利を懐に入れられてすごく満足だし、チーム全体の重圧を少し軽くしてくれるだろうし、うん、僕らは正しい道を歩んでいるよね」(ケムナ)

いよいよ本物のイタリア一周が始まった。前日の休息日ならぬ「移動日」を利用して、シチリア島へと上陸を果たしたジロ一行は、輝く太陽の下へと喜び勇んで走り出した。

大会初の逃げ切りが決まるかもしれない。そんな希望を誰もが抱き、スタート直後から次々と攻撃が巻き起こった。マチュー・ファンデルプールさえも、「今日マリア・ローザを失うだろう」との自らの予言を裏切るかのように、果敢なアタックを試みた。すかさずマリア・チクラミーノ姿のビニヤム・ギルマイが、後輪に飛び乗るシーンさえ見られた。

カオスの時は、それほど長くは続かなかった。相次ぐ加速と緊迫感の中で、小さな集団落車が発生し、サイモン・イェーツも軽く巻き込まれた。おそらく総合エースを擁するチームが、これ以上の混乱を望まなかったのだ。スタートから約15km、プロトンの蓋は閉められた。

まんまと逃げ出した14人は、しかも、大量のタイム差を許された。全22チーム中13チームが前に人員を送り込み(コフィディスが2選手)、ピンクジャージ擁するアルペシン・フェニックスからもステファノ・オルダーニが潜り込んでいたせいか、すぐには集団制御に着手するチームは現れなかった。総合43秒遅れのマウリ・ファンセヴェナントが、逃げ集団内で、あっさり暫定マリア・ローザに躍り出た。

それでも差が11分半にまで開くと、ようやくイネオス・グレナディアーズとバーレーン・ヴィクトリアスが牽引作業に取り掛かった。かといって無理に逃げを追い詰めるつもりもなかったようだ。むしろ7分半から8分ほどの距離を延々保ち続けたし、最終登坂の麓にたどり着いた時でさえ、いまだ差は6分近くも残っていた。

おかげで早い段階で、前を行く14人は、逃げ切り勝利を意識し始めたに違いない。それでも残り30kmを切った直後に単独で仕掛けたオルダーニ以外は……誰もが1級エトナ山の、全長22kmの山道を待った。1分近いリードを奪われても、決して焦らなかった。

そして、上りが始まると、そこまでじっと我慢していた山岳強者たちが本格的に動き出す。2kmほど上り、勾配が7%ほどに上がったタイミングを突いて、フアン・ロペスが加速。昨ブエルタで念願の総合リーダージャージを着用したレイン・タラマエも動き、さらには第2中間ポイントでボーナスタイム2秒を収集したファンセヴェナントにシルヴァン・モニケ、ハイス・リームライゼ、ケムナも合流する。

6人の追走グループができた後も、フアン・ロペスはじっとなんかしていなかった。残り12km、勾配が9%台に上がると、もう一段階スピードを上げた。

「この山道のことは知らなかった。ただ監督から、無線で、最難関ゾーンで『トライしろ』と言われて、僕は飛び出した。オルダーニがそのまま行ってしまうのか、それとも追いつけるのか、僕にはまったく分からなかった。でもトライした。自信はあったし、自分に強さを感じていた」(フアン・ロペス)

5人を振り切ったフアン・ロペスは、残り9.5kmでオルダーニに追いつき、追い越した。さらに登坂の勢いは増し、つい先ほどまで共に追走を仕掛けていた仲間たちには、あっさり45秒差をつけた。

負けたかもしれない、とケムナは考えたという。しかし総合エースを3人擁するチームから与えられた、今大会2度目の「自由に動く権利」を、無駄にすることなどできなかった。残り8km、強烈な反撃を開始する。

「できるだけ長く大きめの集団に留まっていたかった。残り10kmの段階では『よし、行けるぞ』と思える自信がなかった。だって向かい風がきつかったし、それほど勾配も厳しくはなかったから。でもタイム差があまりに大きくなったことに気がついたし、もはや周りのライバルたちから得られるものもなかったから、自分で動く必要に迫られた。ひたすら全力で追いかけた。少なくとも残り1kmまでには、ロペスとの差を埋めなきゃならないと分かっていたから」(ケムナ)

2020年ツールでは、共に逃げたリチャル・カラパスを蹴散らし、25kmもの独走で山頂フィニッシュをもぎ取ったケムナは、この日は残り2.7kmでまんまとフアン・ロペスをとらえた。

ところで、先頭で合流した2人は、軽く言葉を交わしている。ケムナ曰く「暗黙の了解」が取れた。なにしろ後方からは手強いタラマエが追いかけてくる。つまり区間を争うためには……協力こそが得策だった。

「短い会話だったけれど、2人で行こうと決めた。2人で行って、あとはどちらが強いのか見ていこう、と」(ケムナ)

その通り2人は、ギリギリまで共闘体制を崩さなかった。ただエトナ山頂が近づくに連れて、元チームタイムトライアル世界チャンピオンのケムナが刻むテンポは、どんどん強さを増していく。最後は後輪に潜むフアン・ロペスを、振り返ることすらなかった。残り250mのUターンカーブも、毅然と先頭でこなした。

ロペスとの一騎打ちを制したレナード・ケムナ

ロペスとの一騎打ちを制したレナード・ケムナ

対するフアン・ロペスはここで痛恨のミスを犯す。コーナーを抜け出した瞬間にバランスを崩し、距離を開けられた。万事休す。勝負あり。

ケムナの力強いガッツポーズと、悔しがるフアン・ロペス。逃げ集団内では総合で上から4番目につけていたスペイン人は、走り終えた段階では、自分が成し遂げた快挙にまるで気がついていなかった。

「スプリントを争うつもりだったのに、落車しそうになって……すべてがおじゃんだ。フィニッシュ後に誰かから『君が新たなマリア・ローザ』だと声をかけられたけど、僕は信じなかった。10分くらいたってようやく、本当なのだと実感が湧いた」(フアン・ロペス)

つまりケムナが人生2度目のグランツール区間勝利を手に入れ、フアン・ロペスは人生初めてのピンクジャージに袖を通した。17歳でアルベルト・コンタドールの育成チームに合流し、2011年大会でのコンタドールのエトナ登坂勝利は「後にビデオで何度も見直し」たという24歳が、そのコンタドールの2015年ジロ総合制覇以来初めて、スペイン人としてジロ総合首位に立った。

マリア・ローザに袖を通したロペス

マリア・ローザに袖を通したロペス

「すごく幸せだ。どれくらいジャージを守れるのかは分からない。まずはこの喜びを満喫したいし、ただマリア・ローザで走る1km1kmを楽しみたい」(フアン・ロペス)

2人がフィニッシュした2分37秒後に、17人の有力者集団が山頂へとたどり着いた。主導権は最後までイネオスが握り続けた。急激な攻撃にこそ転じなかったものの、エトナの山道で厳しいテンポを強い、集団後方から弱者を次々と切り落としていった。

真っ先に脱落したのが2017年大会覇者トム・デュムランだった。山の中腹で脚が止まり、ライバルたちから約6分半タイムを失った。過去2回マリア・ローザに輝いてきた、地元シチリアっ子のヴィンチェンツォ・ニバリも2分15秒の損失を出した。なにより2人の所属チームは、この日、完全に総合争いから取り残された。デュムランと共にユンボ・ヴィスマの「ダブルエース」を務めるはずのトビアス・フォスもまた、ニバリと同タイムでフィニッシュ。一方でニバリが保護すべきアスタナカザクスタンのエース、ミゲルアンヘル・ロペスは左大腿四頭筋炎症で、ステージ序盤に大会を去っていった。

ユンボとアスタナを除けば、いわゆる総合表彰台候補たちは、ほぼ揃って走り終えた。しかもイネオスがカラパスを筆頭に2人、バーレーンが3人、ボーラ・ハンスグローエが3人(しかも前にはケムナが)、チームDSM2人、バイク・エクスチェンジ2人、モビスター2人……と、多くのエースが仲間を残しての余裕のフィニッシュ。1分42秒差の総合4位に後退したイェーツを筆頭に、6位ウィルコ・ケルデルマン(イェーツから13秒差)から19位ジュリオ・チッコーネ(同50秒)まで、互いの関係性に変化はなかった。

山に入った時点で脚を緩めたファンデルプールは、グルペットでゆっくりと1日を終えた。3日間まとったマリア・ローザを脱ぎ、チクラミーノに着替えた。ポイント賞ジャージは現時点では「目標ではない」そうだけれど、チーム内のエーススプリンター、ヤコブ・マレツコの途中リタイアで、ますます区間勝利を目指す機会は増えるのだろう。

山岳ジャージは、なにごともなければ、ケムナが少なくとも7日目のスタートまでは着続ける。また、ばら色に染まる24歳フアン・ペドロの代理として、22歳ファンセヴェナントが白い新人ジャージを着て走る予定だ。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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