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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第3ステージ】9年ぶりのジロの舞台で大会16勝目!37歳を迎えるカヴェンディッシュ「僕は決して最強でも最速でもなかったけど、こうして勝ってきた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマーク・カヴェンディッシュ
衰えぬ脚と、尽きぬ勝利への意欲。2週間後に37歳の誕生日を迎えるマーク・カヴェンディッシュが、ラスト300mをまっすぐ先頭で走り抜けて、両手を突き上げた。ハンガリーで過ごした3日目は、大集団スプリントで締めくくられ、マチュー・ファンデルプールが3日連続でマリア・ローザ表彰式へと臨んだ。
「最高だ。僕らチームは大会最初のスプリントで上手くやりたいと願っていて、その通りやりのけた。本当に幸せだよ」(カヴェンディッシュ)
スタートと同時に3人が逃げ出した。ドローンホッパー・アンドローニジョカトリからは第1ステージと同じ2人、つまりマッティア・バイスとフィリッポ・タリアーニが突き進み、エオーロ・コメタ サイクリングチームはサムエーレ・リーヴィを前方へと送り出した。
メインプロトンはあっさり逃げを見送った。ただ11分近くも逃げを泳がせた初日とは異なり、25kmほど先でタイム差が6分半近くに開くと、アルペシン・フェニックスが先頭で整列。マリア・ローザを擁するチームの責任として、集団制御に乗り出した。その後のタイム差は、常に2〜3分程度で淡々と移行した。
200kmを超えるステージの大部分は、静かな時が流れた。途中で軽い雨にも見舞われたが、幸いにもアスファルトをほんの少し湿らせただけ。もちろん前方集団では、2つの中間ポイントを激しく争う姿が見られた。いずれもタリアーニがリーヴィを蹴散らし、「中間ポイント賞」の首位に躍り出た。
また後方でも、1つ目の中間ポイントは、「ポイント賞=マリア・チクラミーノ」争いで活気づいた。フェルナンド・ガビリアがアルノー・デマールを僅差で交わし、集団内トップ通過を決めた一方で、カヴェンディッシュやカレブ・ユアンはもがかなかった。ちなみに前者は初日はポイント収集に動いていたし、後者は常々、グランツール副賞ジャージにはほとんど興味を示さない。
ステージも折り返し地点に差し掛かると、いよいよ3つのスプリントチームも動き出した。つまりカヴェンディッシュのクイックステップ・アルファヴィニル 、デマールのグルパマ・エフデジ、ユアンのロット・スーダルが、前線に1人ずつ牽引役を配置。ファンデルプールのピンク保守とヤコブ・マレツコのスプリント勝利を目指すアルペシンと共に、作業を分担した。
フィニッシュまで60kmを切り、イスラエル・プレミアテックが隊列を組み始めたのは、なにもジャッコモ・ニッツォーロのスプリント準備のためだけではなかった。残り12.6km地点に待ち構える4級峠の前に、どうしても逃げの3人を吸収したかった。ファンデルプールの代理で山岳ジャージを着ていたリック・ツァベルに、ポイント収集のチャンスをもたらすためだ。
後方からの圧力が高まっていくのを察知した逃げ集団は、最後の抵抗を試みた。25秒にまで減ったリードをどうにか守ろうと、残り45km、リーヴィが速に転じた。バイスも必死に食らいついた。逆にバイスがアタックを打ち、リーヴィが追いかける場面も見られた。
しかしスプリンターチームはもちろん、ついには総合系チームも隊列を組み上げ、神経質に場所取りと加速を繰り返すプロトンから、逃げ切ることなど不可能だった。残り29km、バイスのフーガ(逃げ)距離が1日目と合わせて354kmに達した時点で、無情にも前から引きずり降ろされた。
リック・ツァベル
ひとつの大きな塊となって、プロトンはこの日唯一の難関へと突入した。すると、山頂にかけられたわずかなポイントをさらい取るために、パスカル・エーンコーンが大胆に飛び出した。もちろんツァベルも慌てて続いた。
前日の個人タイムトライアルで「平坦部分」で体力をできる限り温存しーーツァベルのタイムは下から2番目、エーンコーンは下から6番目ーー、「登坂部分」で1位と2位のタイムを叩き出すという、まったく同じ作戦を実行した両者は、この日は山頂で直接対決スプリント。エーンコーンが先頭通過で3ポイント、次点ツァベルが2ポイントを収集し、両者共に計5ポイントずつで並んだ。
最終的に、総合順位の比較で、ツァベルが上回った。かつて「キング・オブ・スプリンター」ジャージをツールで6回、ブエルタで3回勝ち取った偉大なるエリックの息子は、昨ジロ1日目に続いて、人生2回目のグランツール山岳ジャージ着用権利を手に入れた。
あとはすべてが大集団スプリントへと突き進んだ。山頂スプリントの勢いそのままにエーンコーンが先行を続け、フーガ賞成績表に「5km」を書き記したが、残り6kmで静かに集団へ戻った。またトラブルを避けるため、イネオス・グレナディアーズが長らく最前列を堅持したものの、救済措置が発動する最終3kmに入るとスプリンターに座を明け渡した。
そのラスト3kmは、直線路が、フィニッシュまで伸びていた。テクニカルではなく、ひたすらスピードの勝負になる。こう誰もが予測していた。唯一の注意箇所は、ラスト1km地点に待ち構える大きなロータリー。ここに先頭で突入したのがウルフパック列車だ。熾烈なポジション争いを繰り広げるライバルチームを、驚異的な加速一発で、鮮やかに退けて!
カオスが集団を襲った。多くのスプリンターが列車を見失った。長いラストストレートでは、ピンクジャージのファンデルプールも発射台作業を仕掛けたが、後輪にマレツコがいないことに気が付き、すぐに足を止めた。ただカヴェンディッシュだけが、専用発射台ミカエル・モルコフの後輪にじっと留まっていた。完璧な仕事をしてくれたチームのおかげで、理想通りの場所につけていた。
大会16勝目をさらい取ったカヴェンディッシュ
「チームみんなが協力してくれたし、信じられない仕事を成し遂げた。彼らのような選手が周りにいてくれるだけで、僕は自信が湧いてくる。最高のメンバーが僕のためだけに働いてくれるということは、なんの言い訳も通用しないということでもあるけどね」(カヴェンディッシュ)
そして、カヴェンディッシュは、残り300mで飛び出すことを選択した。自らの後輪を奪い合うライバルたちを尻目に、とてつもないロングスプリントを切った。
「最後は、風の中、長いスプリントを切った。フィニッシュまで持ちこたえなきゃならなかったし、とにかく左端をキープすることだけを心がけた」(カヴェンディッシュ)
まさに後輪につけていたデマールは、あまりに遠くからの加速に衝撃を受け、すぐに横に並ぼうと試みたばかりに風にやられた。左側から攻めたガビリアは上がりきれぬまま。ビニヤム・ギルマイはカヴに前を、ガビリアに左を、デマールに右を塞がれ、どこにも出口がなかった。ようやく好位置に上がっていたマレツコも同様に閉じ込められ、はるか後ろで出遅れたユアンは、慌てて急加速するも……カヴがすでにあらゆるライバルを蹴散らした後だった。
「最強や最速は、必ずしも『ベスト』という意味ではない。たとえばユアンは最速の脚を持っているけど、だからってレースをいつも勝てるというわけではない。僕は決して最強でも最速でもなかったけど、こうして勝ってきた」(カヴェンディッシュ)
かつて「現役最速」の呼び声をほしいままにしたカヴェンディッシュは、9年ぶりに戻ってきたジロで、大会16勝目をさらい取った。プロ通算160勝目でもあった!
2年前のジロで区間4勝と大勝したデマールは2位、5年前に同じく4勝のガビリアは3位で、大会1度目の集団スプリントを終えた。初日に落車したヤン・トラトニクがステージ半ばで自転車を降りたことを除けば、なんら事故も問題もなく、総合順位に一切の変動はなかった。青ジャージこそツァベルの手に渡ったが、つまりファンデルプールが相変わらず総合ジャージとポイントジャージを独占したまま、ハンガリーに別れを告げた。
マリア・ローザのファンデルプール
「マリア・ローザでイタリアに乗り込めるのは嬉しい。普通に考えれば、エトナ山でジャージを守るのは不可能だけど、当日の調子をみていきたい。もちろんこの先も、展開次第で、ステージ勝利を狙っていくつもりだ」(ファンデルプール)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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