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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第2ステージ】軽量級クライマーのイェーツが衝撃的な走りで個人TT制覇「あらゆる準備が報われた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかサイモン・イェーツ
平地を正確に疾走し、坂道を高速で駆け上がった。サイモン・イェーツがトップタイム11分50秒41を叩き出し、プロ人生2つ目の個人タイムトライアル勝利をもぎ取った。マチュー・ファンデルプールはあわや2日連続勝利か……という好走で、ピンク色のジャージを再び身にまとった。
「まちがいなく自分にとって最高のタイムトライアルができた。すごく嬉しい。少し予想外でもあるけどね。可能な限り速く走ったし、今シーズン積み上げてきたあらゆる準備が報われた」(イェーツ)
パンチャー向き。もしくはシクロクロッサー向き。ハンガリーの首都で繰り広げられた短距離TTを、多くの選手がこんな風に言い表した。
なにしろペスト→ブダへと走り込む全長9.2kmのコースには、23ものカーブが待ち受けていた。ほぼ全体が平地でありながら、最後の1.3kmだけは急な上り坂。しかも登り始めに勾配14%ゾーンが待ち受け、なにより坂道の大部分が石畳に覆われている。求められたのは長距離を高速巡航する能力ではなく、コーナリングとブレーキングを正確にこなす技術力と、減速から一気に加速する爆発力。
だからこそ前半に暫定首位に立ち、約30分に渡ってホットシートに座ったエドアルド・アッフィニは、「ピュアタイムトライアリスト向けのコースじゃないし、つまり僕にとってベストなコースではなかった」と悔しがった。
また元個人TT世界チャンピオンで、キャリア22勝中17勝がタイムトライアルというトム・デュムランは、当たり前のように中間計測地点でもフィニッシュでも暫定トップタイムを記録した。ただ、1分後に出走したイェーツに、すべてはあっさりと塗り替えられてしまうのだけれど。
「今日は勝つために走った。調子は良かったし、自分が強い走りをしている感触もあった。でも、どうやら、勝てるだけの強さはなかったようだ」(デュムラン)
まさに衝撃的だった。軽量級クライマーのイェーツが、上り部分1.3kmでデュムランより約4秒半速かったのは、なんら不思議ではない。しかし平地部分の前半7.9kmさえも、世界屈指のスペシャリストを0.61秒上回ったのだ!
「今シーズンは機材パートナーの協力のおかげで、マテリアルやTTポジションの向上に励んできた。なによりマルコ・ピノッティに感謝している。彼のためにもすごく嬉しいんだ」(イェーツ)
衝撃的な走りで個人TTを制覇したサイモン・イェーツ
そう、かつて自らもジロの個人TTステージを勝ち取ったことのあるピノッティが、日々のTTトレーニングのメニュー作りから、今回の機材選択まで、イェーツにきめ細やかな指導を行ったという。BMCコーチ時代にはローハン・デニスやリッチー・ポートを教え導き、現在はバイクエクスチェンジ・ジェイコの「パフォーマンスディレクター」。昨年ガンナを破りイタリアTTチャンピオンに上り詰めたマッテオ・ソブレロをも、しっかり区間4位に送り込んだ。
もちろんイェーツ本人に、ルーラーとしての資質が備わっていなかったわけではない。若かりし日にはトラック競技で自転車の基礎を叩き込まれ、ジュニア時代には世界選手権でマディソン金・団体追抜銀と実績も残している。2018年ジロ初日にはど平坦TTで7位に食い込んだ経験さえあるし、2019年パリ〜ニース5日目には、プロ人生初のTT勝利をもぎ取っていた。
とうとう最後までイェーツを追い越す選手は表れなかった。176人の全出走選手の、最後にコースへ飛び出していったファンデルプールは、上りの麓の中間計測でイェーツまで0.65差に迫った。マリア・ローザを守るどころか、区間勝利の可能性さえ浮上した。得意の石畳の急坂に突入してからは、ダンシングスタイルで果敢に攻めた。しかし走り終えた先では、差は2秒99に広がっていた。
「かなり僕向きのTTコースだった。できる限りの力を尽くした。でも最後の上りに向けて、体力を温存しておかなきゃならないことも分かっていたから……。区間勝利まであとわずかだったからこそムカムカするけど、確かに、満足しなきゃいけないんだよね」(ファンデルプール)
2勝目が取れなかったことに失望を隠せなかったファンデルプールだが、マリア・ローザが守れたことに対しては、素直に喜びを表した。前日のフィニッシュで第2集団に4秒差をつけ、さらにはステージ勝利で10秒のボーナスタイムを手にしていたおかげで、イェーツとの総合タイム差はいまだ11秒の余裕がある。
「今日はマリア・ローザを守るために走った。それが本来の大目標だった。だから明日、通常ステージで、リーダージャージを着て走れることが嬉しいんだ」(ファンデルプール)
マリア・ローザを守ったマチュー・ファンデルプール
ピンクはもちろん、青とシクラメンのシャツも手元に留め置いた。代わりに山岳ジャージをまとうのは、最終登坂をトップで駆け上がったのリック・ツァベル。ちなみに同「スプリンター」は、2年前のジロ初日の逃げで、正式に山岳ジャージを身にまとったことがある。またマリア・チクラミーノは、前日区間2位のビニヤム・ギルマイが代理着用。ギルマイが着ていた新人賞の白いジャージは、ソブレロの手に渡った。
つまりイェーツはキャリア9勝目のグランツール区間勝利を手に入れ、シーズン開幕直後から続く好調さを改めて確認し、あらゆる総合ライバルたちにタイム差をつけた。さらにTV会見でインタビュアーが強調した通り、「しかもマリア・ローザを着ていない」。まさに最高のシチュエーションだ。
「今日は12分の努力をしただけ。まだまだ僕らの前には、たくさんの難しいステージや1時間の努力を要する山々が待ち構えている。この先はまったく別の戦いが始まる。もちろんライバルたちからタイムを稼げたこと、一切のタイムを失わなかったことについては興奮してるけど……もっと全体像を見ていかなければならない」(イェーツ)
総合2位イェーツに対して、デュムランは3位5秒差(首位とは16秒差)につけ、第1ステージで高い攻撃性を見せたウィルコ・ケルデルマンは13秒差。さらにデュムランとダブルエースのトビアス・フォスが17秒、今大会こそ絶対的エースのジョアン・アルメイダが18秒差で続く。ロマン・バルデとリチャル・カラパスの24秒差は、2人にとっては間違いなく悪くない結果だ。ミケル・ランダは33秒差、ヒュー・カーシーは38秒差。
またアスタナ・カザクスタンの「アシスト役」ヴィンチェンツォ・ニバリは、イェーツに対する遅れをわずか19秒で食い止めたが、「エース」ミゲルアンヘル・ロペスは42秒を落とした。同じくトレック・セガフレードで「ステージ狙い」のバウケ・モレマは17秒差なのに対して、「総合エース」ジュリオ・チッコーネは、2日目にして早くもイェーツから50秒・総合首位から1分01秒もの遅れを喫している。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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