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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第1ステージ】渾身の力でライバルたちをねじ伏せたマチュー・ファンデルプールが快挙「今回のジャージは僕個人にとっての『目標』だった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマリア・ローザに袖を通したマチュー・ファンデルプール
最初は驚くほど静かに、最後はたまらないほど激烈に。2022シーズン最初のグランツールは、初日からいきなりハードな上り坂フィニッシュで選手たちの脚を試し、威厳ある勝者を選びだした。マチュー・ファンデルプールが渾身の力でライバルたちをねじ伏せ、生まれて初めてのジロで、ばら色に輝いた。
「スペシャルな気分だよ。今日がマリア・ローザを着る唯一のチャンスだと分かっていた。だから上手くやり遂げられて、本当に嬉しい」(ファンデルプール)
長い歴史を感じさせる古い町並みと、豊かな自然と、そして沿道を朗らかに縁取ったたくさんの笑顔。新型コロナウイルスのせいで2020年開幕が中止に追い込まれた後、2年間この日を待ち続けたハンガリーの人々が見守る中、第105回ジロ・デ・イタリアの始まりを告げるフラッグが振り下ろされた。
本スタートと同時に飛び出していったのは、ドローンホッパー・アンドローニジョカトリの2選手。マッティア・バイスとフィリッポ・タリアーニが、まるでタンデム車さながら前方へと突き進むと、大会最初のエスケープはあっさりできあがった。例年ならば主催者招待枠で出場権を得たイタリア籍チームが、こぞって逃げを試みるものだけれど、この日は1チームしか動かなかった。
たったの30kmほど走った先で、2人の逃げは、プロトンから10分50秒ものタイム差を許された。前方も、後方も、穏やかな時が流れた。チームメイト同士は途中2ヶ所ある中間ポイントを均等に分け合い、ジロおなじみフーガ賞も、揃って182ポイントで並んだ(総合で上位のバイスがそれぞれ首位)。つまりドローンホッパーの2人は182kmに渡って最前線を走り続け……フィニッシュ手前13kmでメイン集団に吸収された。
プロトン内では、「数ヶ月前にこの第1ステージのコースをチェックしてジロ参加を決めた」というファンデルプールを率いるアルペシン・フェニックスが、真っ先に集団制御に乗り出した。しばらく先では、「2ヶ月くらい前からこのステージに狙いをつけていた」ビニヤム・ギルマイを保護するため、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオも牽引に参加。さらにはEFエデュケーション・イージーポストも、マグナス・コルトの勝利目指して、集団先頭に1人配置した。道の果てに待ち受ける4級フィニッシュを、できる限り有利な形で迎えようと、3チームは地道な作業を続けた。
大部分のピュアスプリンターは、むしろ1度目の中間スプリントに力を注いだ。中でも過去のジャージ経験者たちは、3週間先のマリア・チクラミーノのために、わずかな得点チャンスも無駄にはしない。2015年・2016年ポイント賞ジャコモ・ニッツォーロが集団内で先頭をさらい、2020年受賞者アルノー・デマール、2013年受賞者マーク・カヴェンディッシュもそれぞれにポイントを手に入れた。
一方で残り27.5km地点の、ボーナスタイムが発生する2度目の中間ポイントでは、誰もスプリントには興味を示さなかった。すでに数キロ前から複数チームが隊列を組み上げ、猛烈に突き進んでいた。単にその時点でチーム隊列の先頭につけていたトーマス・デヘントが、ごく自然に、逃げの2人に続く3位通過を果たした。
つまり残り5.7kmに待ち受ける直角カーブと、直後に始まる上りに、ロット・スーダルが真っ先に突っ込んでいったのもまた、極めて自然な流れだった。カレブ・ユアンを好位置へ導くために、常に先頭に陣取った。「上れるスプリンター」を蹴落としたいアルペシンが、束になって猛然と加速を試みるが、ロットのアシストたちは熱心に制御を心がけた。
上り途中で、ローレンス・ナーセンがアタックを仕掛けた時は、集団は特にパニックには陥らなかった。総合本命リチャル・カラパスを守るイネオス・グレナディアーズが、淡々と先頭を引いた。ただ細かいカーブが連なる道では、落車が起こり、足止めを喰らった選手たちもいた。
2.5kmを残して、レナード・ケムナが矢のように飛び出していくと、様子は一変する。昨ツールの山岳ステージで、25kmの独走勝利を決めた強脚の攻撃に、アンテルマルシェが急加速。集団を小さく千切りながら、ラスト800mを切った直後にようやく邪魔者をとらえた。
カオスはますます色濃くなる。ケムナ同僚で、なにより総合表彰台候補のウィルコ・ケルデルマンが、凄まじい加速を切った。そこにしがみついたのがスプリンターのユアンに、上れる俊足コルトに、パンチャーのディエゴ・ウリッシに、クライマーのバウケ・モレマやペリョ・ビルバオやカラパスという……。
そしてラスト250mから始まる緩やかなコーナーの大外から、ギルマイがスプリントを仕掛けた。
最終盤でライバルを蹴落として勝利したマチュー
「理想的なスプリントができたわけではなかった。前を塞がれたせいで、好位置を取り戻すために迂回しなきゃならなかったから。でも『できる限り長くこらえるんだ』って自分に言い聞かせた。最後は完璧なタイミングで、自分の加速が切れた」(ファンデルプール)
一瞬で大きく距離を開けられるも、ファンデルプールは前を行くビルバオとコルトの左側をすり抜け、素早くギルマイに並んだ。そのコルトの背後で時を待っていたユアンも、弾かれたように、右側から追い上げギルマイの後輪に滑り込む。しかしユアンは直後に地面に激しく転がり落ち、一方のファンデルプールは、さらにもう一段階スピードを上げた。身体の奥底から力を絞り、最後まで全力で踏み抜いた。ガッツポーズさえ出せなかった。
初めてのツール・ド・フランスでは、2日目に区間と総合リーダージャージを射止めたファンデルプールは、初めてのジロ・デ・イタリアでは、1日目に同じ快挙を成し遂げた。またツールのマイヨ・ジョーヌが、祖父レイモン・プリドールが着たくても着られなかった思い入れの深いジャージだったのだとしたら(ちなみに父アドリは1日着用)、祖父が出場したことのないジロで、マリア・ローザを羽織るのは(やはり父は1回出場)……別の意味で特別だった。
「イエロージャージはより『感動的』だった。祖父の代から続く、我が家の歴史だったからね。今回のジャージは、むしろ僕個人にとっての『目標』だった」(ファンデルプール)
その2021年ツールでは、6日間マイヨ・ジョーヌを守ったが、今回は1日限りかもしれないと考える。他選手に大きくタイム差をつけたわけではないし、翌日には個人タイムトライアルが待っている。
「もちろんジャージを守りたいし、トライしていく。昨ツールではTT後にもマイヨ・ジョーヌを守った。だから明日は、もう1度、自分自身でも驚く走りを見せられるといいのだけれど」(ファンデルプール)
総合・ポイント・山岳ジャージはファンデルプールが独占したが、白い新人賞ジャージだけは、区間2位のギルマイの手に渡った。この春にヘント〜ウェヴェルヘムで初出走初優勝をさらった驚異の22歳は、生まれて初めてのグランツール初日を、満ち足りた気分で終えた。
2位でフィニッシュしたギルマイ
「すごくきつかった。でも……アメージング!がっかりなんかしていない。幸せだ。だって初めてのグランツールで、偉大なるファンデルプールの背後で2位に入ったんだから。それに、これは、始まりに過ぎないんだ」(ギルマイ)
そのギルマイのバイクに前輪を接触させ、フィニッシュ手前ほんの数十メートルで落車したユアンは、1分04秒差の76位。上りフィニッシュのため、「3km救済ルール」は適応されなかった。3位にはビルバオが滑り込み、コルトは4位。この2人が、第2ステージでは、ファンデルプールの代わりにそれぞれシクラメン色と青色のジャージをまとう。
またケルデルマンとカラパスも、先頭集団でフィニッシュ。総合表彰台のライバルたちの大部分は、ほんのわずかながら2人からそれぞれ4秒を失った。ギヨーム・マルタンだけが、落車分断で足止めを喰らった影響で、12秒遅れている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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