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ジロ・デ・イタリア2021王者 エガン・ベルナル
世界最高峰のUCIワールドチームを中心に、17年間に渡ってプロの自転車ロードレーサーとして活動し、昨シーズン限りで競技生活を退いた別府史之さん。2022年からはJ SPORTSのレース中継にも登場していただいてます。
それにしても、本場を知る元選手からの、プロトンの内側目線での詳しい解説は、聞いていて勉強になることばかり。だったら、別府さんに、もっとレースのあれこれを教えてもらいたい!ということで、今月から動画連載が始まります。題して「別府史之のetape par etape」。
「etape(エタップ)」とは、フランス語で、いわゆるステージレースの「区間」のこと。「エタップ・パー・エタップ」で、ステップ・バイ・ステップ、一歩一歩、という意味になります。つまり毎月、少しずつ、別府さんに色々なことを聞いていっちゃおうという企画です。
「レース中は展開がどんどん変わっていくので、ゆっくりひとつの事を話している時間がないことに驚いてます。話している途中で打ち切らなきゃならないこともありますし。だから、なにを話していたのかよく分からない状況になっちゃったりして……解説って難しいんだなぁと。でも、動画ならじっくりと話したいことを話すことができそうなので、頑張ってやってみます!」
記念すべき第一弾のお題は、5月6日(金)に開幕するジロ・デ・イタリア。別府さん自身でも2011・2012・2014・2015年と計4回完走されているイタリア一周ならではの魅力や、今大会の注目選手などを、語っていただきました。
■ジロは冒険だ!
「ジロの場合、まだ季節は5月。大きな山を登っていくと、雪がまだ残っていたり。それに、道はローマに続く、って言われるくらい歴史のある街がイタリアには多いので、道幅がすごく狭かったりもします」
「ジロ・デ・イタリアのことを、みんなが口を揃えて『グランデジロ』、つまり大きいツールという風に呼ぶんですよ。というのは、やっぱり、いろんなことがジロ・デ・イタリアの最中に起こるから。道が過酷だし、悪天候に見舞われることもあるし、距離がすごかったステージも、8時間くらいかかったステージもありました。本当に、すごい『ミラクル』が起こるんですよね」
まだ雪の残る険しい山岳地帯を上る
「グリーンエッジ所属時にジロに出場したことがあるんですけど、その時にマシュー・ホワイト監督が最初に言ったのが、『ようこそアドベンチャーレースへ』でした。『え、アドベンチャーレース!?……ふむ、なるほど』って(笑)。本当にその呼び名にふさわしいレースなんじゃないかなと思ってます」
■ジロと言えばやはり激坂
「勾配と上りの長さ、低酸素になるので標高の高さ(標高2758m)を考えると、自分的にはステルヴィオが一番苦手だったかもしれないですね」
「(ステルヴィオは)ロケーション的には最高なんですよ。九十九折になっていて、すごい絵になりますし、車の撮影とかにも使われたりとかするんです。もう走りたくはないですけど……ロケーション的には素晴らしです」
「モルティローロやガヴィアも距離的に近くにあって、このあたりは山の聖地というか、自転車乗りだったら一度は行っておかなきゃいけないような場所です」
「個人的にはゾンコランが好きです。道も狭いし、勾配もあるんですけど(登坂距離10.5km・平均11.5%)、選手が進むスピードが遅いので、観客が本当にすぐ真横にいるんです。今すぐにでも選手を押しちゃうんじゃないかっていうくらい距離が近い。選手も観客も一体になれる。だから僕としてはゾンコランが一番印象に残っている山です」
「ジロの山の盛り上がりは本当にすごいですよね。ツールのように柵で囲われていない場所も多いので、観客との距離が近く、応援の熱に突き動かされて走る側も頑張れた……みたいな感じはありましたね」
■イタリアは美味しい国ですが…
「ツールやブエルタはシェフが帯同することが結構あるんですけど、ジロの場合は……もちろん連れてくるチームもありますが、イタリアは比較的ホテルが出してくれる食事がおいしいからいらないだろう、というチームもあるんです。実は。だから他のグランツールに比べると、比較的シェフがいないチームも多いんじゃないかな」
「選手というのは、食事もエネルギーとしてたくさん摂りたいから、ひとつの皿にお肉とか炭水化物とか乗せちゃう。でもイタリアのシェフは、それを許さない。それにリゾットとかパスタをちゃんと時間を見て出す。『アルデンテで食べてもらいたいから、時間だけは絶対守ってね』っていう所が多いです」
「でも選手たちはレース終わるのも遅いし、マッサージ終わってから食事する時間もバラバラなっちゃったりします。だから、そういうところは、シェフが口うるさい感じはしましたね……。まあ、その辺がイタリアらしいなと。パスタやリゾットに命をかける、じゃないですけど、すごぃ情熱をかけて作っているんだなと感じました」
■総合争いは「カラパス」に注目
2019年大会総合優勝のリチャル・カラパス
「去年からレース采配が上手いな、レースの仕方が上手いな、と思ったのはカラパスです。東京オリンピックでもそうでしたが、スマートに走っていましたね」
「走りを見ていると、あまり力の無駄遣いをしない、行けるところで行く、っていう形ですね。去年のツールでも、かなりスマートな走りをしていて。『あ、こういう走り方ができるんだ』って。南米の選手って、結構、どんどん行っちゃえ的な自転車の乗り方するんですけど、カラパスはとても冷静に判断してレースしているな、という感じです」
「しかも、イネオスの場合、サポート陣が手厚いんですよ。イネオスが結構いいメンバーを揃えて来るので、このチームが中心となってレースが繰り広げられていくのだろうと思ってます」
「アルメイダもいつも上位には入ってくるんだけど、若さのせいなのか、テクニックのせいか……順位を落としているところがあります。今度こそ、若さと力でねじ伏せられるのか」
「ロペスはものすごく強いですし、調子もいいんですけど……まあ、血気盛んすぎて。最後まで問題なく走りきれるかどうかですね」
「デュムラン……どうなんでしょう?昨シーズンに一旦レースから離れて、その後に華々しく復帰はしましたが、今季は少し影が薄いですね。もしかしたらどこかで黙々とトレーニングを積んでいるのかもしれません。ただユンボが彼をエースに持ってくるということは、それに値するだけの調子を取り戻せているということ。そう思います」
「グランツールは3週間なにが起こるかわかりません。やりすぎて失敗すると、大きな痛手を負ってしまう。でも、やっぱり、最終的には『ブレーキをかけない選手』が総合を取るのではないかと思ってます」
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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