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【Cycle*2022 エシュボルン・フランクフルト:レビュー】ビッグカムバック!サム・ベネットが359日ぶりの勝利でドイツ籍のボーラ・ハンスグローエにタイトルもたらす
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介サム・ベネットが359日ぶりに勝利
長かったトンネルの出口へ思い切って踏み込んだ。そこから差す光は完全に視界にとらえていたし、出口の先で迎える自身の姿まで完全にイメージできた。
359日ぶりの勝利。
最後に勝ったのは2021年5月。そのレースを境に、サム・ベネットは戦線から消えた。膝の故障をきっかけに、長くレースシーンから離れることを余儀なくされたのだ。今年に入って勝利に迫ったレースこそあれど、十分なインパクトは残せていなかった。それでも、出口のないトンネルなど存在しない。再び勝ち名乗りを上げる日を信じて走り続けた。
「もう350日以上経っていたからね。そろそろ勝つときがくるだろうと思っていたけど、それがまさに今日だったね!」(サム・ベネット)
エシュボルン・フランクフルト。ドイツ自転車界が世界に誇るワンデーレースは、3年ぶりとなるメーデー開催。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、一昨年は中止、昨年は時期を変えて秋開催だった。それもあって、前回はロード世界選手権前の最終調整の場としてあらゆる脚質の選手が集まったが、本来の実施時期に戻るとやはりスプリンターがメインの構図に。レース半ばの丘陵地帯が今年も選手たちを手招きするが、いつもと同様、スプリンターの脚を削るようないたずらはしないはずだ。
その通り、今年もセオリーに沿って進んだ。早々と5人の逃げが決まると、有力スプリンターを擁するチームがアシストを数人ずつ出し合ってレース全体をコントロール。タイム差は開いても3分40秒。スタートから30kmほどで丘陵地帯へと入っていくが、上りをこなすうちにその差は縮小傾向となっていく。
ちょうど中間地点に達しようかというところで、メイン集団ではちょっとしたアタック合戦になった。逃げグループが崩壊し、ピエール・ロラン(B&Bホテルズ KTM)ひとりになったところへ、4選手が合流。メンバーを変えて再度の5人逃げとなるが、メイン集団にとっては脅威にすらならなかった。沿道に多くの観衆が集まった名所・マンモルシャインの4回目登坂が終わろうかというところで、先行していた選手たちはすべて集団にキャッチされた。
それからは、アルペシン・フェニックスやボーラ・ハンスグローエ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオといったチームが集団を率いた。フランクフルトの周回コースに入ると、レースをかき乱されまいと、これらのチームが一層のハイペースで牽引。こうなると、スプリント勝負になることは決定的である。
フィニッシュまで7kmを切って、フランクフルト市街地周回のファイナルラップ。バーレーン・ヴィクトリアスとアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオの主導権争いに、イスラエル・プレミアテック、コフィディスも参戦。残り3kmを切って再びボーラ・ハンスグローエが上がってきたと思いきや、またもバーレーン・ヴィクトリアスが主導権を奪ってみせる。2度の鋭角コーナーを抜けて最後のストレートに入るところでは、隊列の乱れを縫ってアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオがまた上がってきた。絶賛売り出し中のビニヤム・ギルマイが、アレクサンダー・クリストフを5度目の勝利に導こうとベストポジションへと引き上げる。
これでクリストフ有利かと思われた矢先、猛然とプッシュしたのはボーラ・ハンスグローエだ。ダニー・ファンポッペルによる一気の引きから放たれたのは、ベネット。最後の100mはもう、フィニッシュラインめがけて力いっぱい踏み続けるだけでよかった。
「すべてが完璧に機能した。見ての通り、ダニー・ファンポッペルが勝利に値する仕事をしてくれたんだ。そのおかげで、僕は余計なことを考えずにスプリントするだけでよかった」(ベネット)
マンモルシャイン2回目の登坂中に脚のけいれんに見舞われ、最後まで走れるか不安だったというベネットだったが、幸い最終局面を前に回復。早い段階からレースを構築したアシスト陣に報いる最高のフィナーレを演じた。そして、ドイツ籍のボーラ・ハンスグローエにとっても、地元レースでのタイトル獲得は最高の喜び。しかも、この日はスイスで行われていたツール・ド・ロマンディでアレクサンドル・ウラソフが個人総合優勝を決めていたから、二重の歓喜になった。
ベネットに敗れはしたものの、2位に食い込んだフェルナンド・ガビリア(UAEチームエミレーツ)、3位のクリストフも、それぞれにチームの勢いを自身の走りに結びつけている印象だ。ガビリアは直後に控えるジロ・デ・イタリアが楽しみになってきたし、クリストフはパヴェステージが待つツールへ調整を進めていく。前回覇者のヤスパー・フィリプセンは車群に沈んで11位だったが、もちろんこのまま静かに引き下がるつもりはないだろう。
ベネットが復活を自らの勝利をもって証明したことにより、群雄割拠のスプリント戦線はより一層熱くなる。2年前にはツール・ド・フランスでポイント賞を獲った男がトップに戻ってきたとあれば、この先の平坦レースは激しさを増すこと必至。各選手のスピードや勝負強さはもちろんだが、リードアウトを含めたチーム力も今後の重要なファクターになる。
そしてこのレースでは、われらが新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)、中根英登(EFエデュケーション・イージーポスト)の日本人ライダーも元気な走りを見せた。ともに丘陵地帯では集団の前方でチームメートの引き上げ役を務め、その姿は何度も国際映像に映し出された。新城はパリ~ルーベでの落車負傷、中根は体調不良がそれぞれ心配されたが、もう大丈夫。先々への楽しみが膨らむ好走だった。
サイクルロードレースのトップシーンは、いよいよグランツールへ。ジロ・デ・イタリアの開幕がすぐそこに迫っている。さらにその先にはツール・ド・フランスが…。予想をはるかに超えるドラマを目にし、新しい歴史の証人となろうではないか! 充実のシーズンはまだまだ前半戦だ。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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