人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2022年3月20日

ドロッパーシートポストで全員をドロップしたモホリッチ

サイクルロードレースレポート by 辻 啓
  • Line
ドロッパーシートポストが装着されたモホリッチのバイク(サドルの下に注目)。ハンドルバーのドロップ部分にスイッチが装着されている

ドロッパーシートポストが装着されたモホリッチのバイク(サドルの下に注目)。ハンドルバーのドロップ部分にスイッチが装着されている

未だかつてシートポストを指差してフィニッシュした選手は他にいただろうか(いや、きっといない)。

レースを制するのは、いつも選手の圧倒的な走りと革新的な技術。2022年モニュメント第一戦ミラノ〜サンレモで、新兵器を投入したバーレーン・ヴィクトリアスのマテイ・モホリッチが衝撃的なダウンヒルテクニックを披露し、独走勝利を飾りました。

その新兵器の名前はドロッパーシートポスト。ロードレースファンには馴染みのない言葉であり、実際にこのテキストを書いている際もスムーズにカタカナに変換してくれません。マウンテンバイクでは市民権を得ているどころかすでに欠かせない存在になっている機材ではあるものの、ロードレースではこれまで採用されてきませんでした。

その名の通りシートポストをドロップさせる(下げる)もので、ハンドルバーに装着したスイッチひとつでスッとサドルが下がる仕組み(ガスシリンダーによる昇降式オフィスチェアに似ている)。通常のペダリング時は高い状態(通常のサドル高)に設定し、下りや荒地を走る際にスッとサドルの高さを50〜100ミリほど下げることができます。たったそれだけ?と思うなかれその効果は絶大で、ライダーの重心を下げ、ペダルに立った状態で身体を動かしやすくなるので重心移動が楽になり、つまり下りの走りが安定。そして身体が低くなるのでエアロ性能も向上します。

問題は重量で、どうしてもドロッパーシートポストとスイッチのセットで400グラムほどになり、通常のシートポストの重さを差し引いても概ね250グラムほどの重量増。登りでの走りが勝敗を分つロードレースにおいては誰も採用してきませんでしたが、バーレーン・ヴィクトリアスのメカニックたちはミラノ〜サンレモに向けてドロッパーシートポストを軽量バイクに取り付けることを思いついたようです。モホリッチがミラノ〜サンレモで乗ったのは、シートポストがエアロ形状のエアロバイクではなくラウンド形状の軽量バイク。すでにUCI規定の6.8kgを下回ってしまうため重りを入れないといけない軽量バイクがプロトン内に散見される現在、250グラムの重量増は問題なかったと想像できます。モホリッチはトレーニングライドでドロッパーシートポストをテストした際に、その大きな利点を感じて実戦に投入したとコメントしています。

マテイ・モホリッチ

マテイ・モホリッチ

こうしてモホリッチは平均勾配3.7%のポッジオの登りで繰り広げられたアタック合戦を耐え抜き、下り突入とともにサドルを下げて先頭に躍り出て、コーナーを目一杯攻めて独走に持ち込み、サドルの高さを元に戻して平坦路を快走。下り区間だけで築いた6秒程度のリードは、サンレモのローマ通りに引かれたフィニッシュラインまで逃げ切るには十分でした。

もともとダウンヒルスペシャリストとして知られるモホリッチは、2013年のロード世界選手権U23レースでトップチューブに座りながらペダリングする新しいダウンヒル技術を生み出した選手です。のちにUCIがスーパータック(トップチューブに座ること)を禁止したため『モホリッチ乗り(フルーム乗り)』ができなくなりましたが、その代わりにドロッパーシートポストを投入して再び世間をアッと言わせてみせました。

レース詳細ページはこちら

「UCIは今後ドロッパーシートポストを禁止するのでは?」という声もありますが、あくまでも下りの安定性を高める機材なので、すぐに禁止の方向には動かないと想像できます。トラブル発生時に様々な身長のライダーに対応しないといけないニュートラルサポートバイクにドロッパーシートポストが採用されていた事例もあり、エースのサドル高にすぐ調整可能な機構を搭載したバイクも過去には使用されていました。

マウンテンバイクで培われた技術がロードレースを席巻するのは今回が初めてではなく、ディスクブレーキも12速のグループセットも、チューブレスタイヤもマウンテンバイクが先。これからも革新的な技術がオフロード界からやってくるかもしれません。

文;辻啓

代替画像

辻 啓

海外レースの撮影を行なうフォトグラファー

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ