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【Cycle*2022 ミラノ~サンレモ:プレビュー】優勝大本命のファンアールトか、それとも絶好調男ポガチャルか、はたまた稀代のクラシックハンター・ジルベールか。クラシックの中のクラシックが伝説の地から幕を開ける。
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2020年大会を制したワウト・ファンアールト
イタリアン・リヴィエラの煌めく青を眺めながら、世界中の自転車ファンは、春の本格的な訪れを知る。快く流れていく膨大な時間と、突如訪れる手に汗握るクライマックス。シーズン最初のモニュメント、ミラノ〜サンレモは、2022年もとっておきの美しきスペクタクルを演出してくれるはずだ。
伝統と革新。1907年に産声を上げた同レースは、第113回大会のスタート地として、新たな場所を選んだ。それがヴェロドローモ・マスペス・ヴィゴレッリ。かつてトラックで世界選手権7勝・五輪銅メダルを獲得したアントニオ・マスペスの名を冠する自転車競技場は、今からちょうど80年前、1942年にファウスト・コッピがアワーレコードを記録した場所でもある。
つまりイタリアが誇る「カンピオニッシモ(チャンピオンの中のチャンピオン)」の伝説の地から、「クラシチッチマ(クラシックの中のクラシック)は走り出す。
大会創設時からの伝統峠トゥルキーノは、3年ぶりに復活だ。2019年秋の土砂崩れのせいで、過去2大会は、コース半ばに待ち受けるこの坂道を迂回せざるを得なかった。そのせいで、ただでさえ世界最長を誇るクラシックレースの、走行距離がさらに数キロ伸びるはめになったのだが(2020年は305km!)、今年はすべてが元通り。つまり全長293kmのコースの、142.9km地点に、無事にトゥルキーノが戻ってきた。
古き良き未舗装路時代は、このトゥルキーノこそが勝負地だったそうだ。ただし現代のミラノ〜サンレモにおいては、ポー平原での長く退屈な時間を抜け出す合図に過ぎない。ここからコースは海岸線をたどり、小さなうねりが、次第に増えていく。
メーレ、チェルヴォ、ベルタと呼ばれる3つの小さな起伏「トレ・カピ」をこなすうちに、集団内の緊張感はじわじわと上がっていく。走行距離はすでに250kmを超え、誰もが身体と精神の限界へと近づきつつある頃に違いない。
前ふりが長ければ長いほど、その瞬間に感じる興奮は大きくなる。果たして勝負が動くのはフィニッシュ手前21.6kmのチプレッサ(登坂距離5.6km、平均勾配4.1%、最大9%)か、それとも残り5.5kmのおなじみポッジオ(3.7km、3.7%、8%)か。
もちろんポッジオからのクレイジーな特攻ダウンヒルも、道が平坦になってからのラスト2kmの追走合戦も、絶叫したくなるほどにスリリングな展開は保証済み。時にローマ通りのフィニッシュラインを越えるまで、勝負の行方は分からない。
それにしても、大会前の優勝者予想オッズを眺めてみると、例年とは少し傾向が違うことに気がつく。どこも一番人気はワウト・ファンアールト。プロトン屈指のスプリント力と独走力を有し、起伏にもめっぽう強い2020年大会の覇者は、今年も春から絶好調だ。カレブ・ユアンが優勝候補上位に名を連ねるのも当然だろう。ピュアスプリンターとして長年「スプリンターズクラシック」の栄光を追い求めてきた。すでに表彰台にも2度上がっている。
今シーズン出場3大会全制覇のポガチャル
しかし2人と並んで、最高レベルの人気オッズを得ているのは、他でもないタデイ・ポガチャルなのだ!
ツール・ド・フランス2連覇中にして、昨季リエージュ〜バストーニュ〜リエージュとイル・ロンバルディアを勝ち取った真のオールラウンダーは、今年は出場3大会全制覇(総合2勝+ワンデー1勝)とまさに無敵で突っ走る。1日のレースだろうが3週間のレースだろうがお構いなく、脚質も、経験も、チーム力も、距離も、すべてを無視して勝ちまくる23歳が、あっさりサンレモもさらい取ってしまう可能性は否めない。ちなみに初出場2020年大会は8位と、すでに適性を証明済みでもある。
21世紀に入ってからというもの、サンレモで栄光を手にしたグランツール総合覇者は2018年大会のヴィンチェンツォ・ニバリただ1人だけ。それでも歴史を紐解けば、過去22人の偉大なる男たちが、サンレモもグランツールも制している。チプレッサ抜き・ポッジオ有りの時代に、エディ・メルクスが大会史上最多の7勝をむしり取ったのは、決して偶然ではない。
ストラーデ・ビアンケを50kmの、ティレーノ〜アドリアティコの最難関ステージを16kmの独走で勝ち取ったポガチャルを食い止めるべく、ファンアールトはユンボ・ヴィスマの仲間たち……つまりプリモシュ・ログリッチと共にレース支配に務めるはずだ。
一方ユアンを筆頭とするスプリンターたち、元覇者のアレクサンダー・クリストフやアルノー・デマールから、サム・ベネット、ジャコモ・ニッツォーロ、ファビオ・ヤコブセン、マッズ・ピーダスン等々は、6年ぶりの集団スプリントフィニッシュに持ち込むためには、あらゆる飛び出しに目を光らせねばならない。
史上4人目の5大モニュメント全制覇を目指すジルベール
中でもトーマス・ピドコック&フィリッポ・ガンナのイネオス・グレナディアーズコンビには最大限の警戒が必要だ。ジャンニ・モスコン、マイケル・マシューズといった全地形型クラシックハンターにも、新チームとの連携が徐々に上手く行きだしたペーター・サガンにも注意したい。
1年前にぎりぎりまで逃げながら9位に沈んだセーアン・クラーウアナスンは、当然リベンジを狙って再びイタリアに乗り込んでくる。200kmを超えてからが強いマテイ・モホリッチも、コロナ陽性から復活・新城幸也のアシストを得て、勝機を虎視眈々と狙っている。
そしてフィリップ・ジルベールにとっては、とうとう人生最後のミラノ〜サンレモがやって来た。すでにツール・デ・フランドル、パリ〜ルーベ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ、イル・ロンバルディアを制した稀代のクラシックハンターが、キャリア最後の年に、史上4人目の5大モニュメント全制覇を成し遂げられるだろうか。
もしもジルベールが1979年以来の快挙を成し遂げられなかった場合、この偉大なる記録への挑戦権を持つ選手は、しばらく不在となる。もちろんポガチャルが、この週末にサンレモをあっさり勝ち取り、出場予定のフランドルをも制してしまった場合を除いて。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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