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【Cycle*2022 パリ〜ニース:レビュー】ユンボ・ヴィスマの完全支配!呪縛から解き放たれたプリモシュ・ログリッチ「フランスで呪われてるなどとは、考えないようにしてた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか総合優勝のプリモシュ・ログリッチ
7月のリハーサルとして、これ以上は望めないほどの出来だった。区間3勝に、初日から最終日まで黄と緑。ユンボ・ヴィスマが2022年パリ〜ニースを完全なる支配下に置き、プリモシュ・ログリッチが生まれて初めて、フランスのワールドツアー大会で、「マイヨ・ジョーヌ」として最終日の表彰台に上がった。
「フランスで呪われてるなどとは、考えないようにしてた。それでも今日、ついにこの国で勝つことが出来てほっとしてる。なにより、あらゆる難関……風、雨、分断、山、タイムトライアル、そして連日待ち構えた罠を跳ね除けて、この素晴らしいステージレースを制覇できたことが嬉しい」(ログリッチ)
晴れたパリ郊外から、雨のニースへ。2022年版「太陽へと向かうレース」は、なにもかもがあべこべで、初日からいきなりクライマックスが訪れた。スプリンター向けの区間と謳われていたはずなのに、ユンボがとてつもない実力の誇示を行ったのだ。
それは残り8km、変哲のない小さな坂だった。そこまで猛牽引を続けてきたチームメートたちからバトンを受け継ぎ、新加入クリストフ・ラポルトが凄まじい加速を強いた。まさかの猛攻に、スプリンターたちはおろか、クライマーたちさえ反応できない。ただラポルトとログリッチ、そしてワウト・ファンアールトのユンボ3人衆だけが前方へと抜け出し、そのままフィニッシュまで突っ走ってしまった!
フィニッシュラインではユンボの3人が揃って両手を上げた。まさに今大会を象徴するシーンだった。地元フランス人のラポルトが区間勝利と初日マイヨ・ジョーヌを手に入れ、総合エースのログリッチは2位でボーナスタイム6秒を収集。残り1kmでラポルトに「勝つのは君だ」と声をかけ、フィニッシュ手前でログリッチを2位へと押し出したファンアールトは、笑顔の3位で終えた。わずか1日走っただけで、早くもログリッチは総合ライバルに25秒以上のタイム差をつけた。
第2ステージの横風分断は、予想通りでありながら、予想以上の被害を生み出した。大会2連覇中のマキシミリアン・シャフマンが1分29秒を失ったのを筆頭に、総合表彰台乗りを宣言した多くの有力者が遅れを喫した。フィニッシュではファビオ・ヤコブセンこそが最速で、しかし多くのファンが目を見張ったのは、むしろラポルトの驚異的な発射台と、そこからスプリントを打ったファンアールトだったに違いない。
たしかに3日目もファンアールトは勝てなかった。マッズ・ピーダスンとブライアン・コカールに退けられ、3位に甘んじた。それでもこの日、個人的な目標だったポイント賞「マイヨ・ヴェール」に袖を通し、しかも最後まで難なく守り切ることになる。なにしろ全8日間のうち6日間を、上位3位以内でフィニッシュするのだ。
「ジャージを持ち帰るのはいつだって嬉しいこと。すでにドーフィネでもティレーノでも勝ち取ったし、今回はパリ〜ニースで取った。だから……この夏は、ツールでどでかい奴を狙いにいけるかもね」(ファンアールト)
もちろんステージ優勝だってしっかり射止めた。第4ステージ、全長13.4kmの個人タイムトライアルで、ファンアールトはすべてを凌駕した。
第4ステージの個人TTを制したワウト・ファンアール
ユンボにとっては今大会2度目の「表彰台独占」でもあった。同種目で東京五輪金メダルのログリッチが2秒差の2位に、世界選手権2勝のローハン・デニスが6秒差の3位に。また総合上位3人も相変わらずユンボ勢で、マイヨ・ジョーヌはラポルトからファンアールトの肩に移った。
翌日に、この黄色いジャージは、とうとうログリッチのもとにやって来る。5つの峠が散りばめられた難コースでは、ヴァランタン・マドゥワスが山岳ポイント収集に精を出し、タデイ・ポガチャルのTT指南役ブランドン・マクナルティが逃げ切り勝利を手にした。その背後で、ログリッチは、14人の総合ライバルと共にフィニッシュ。ファンアールトがあえて「体力温存モード」を選び、ラポルトと共に大きくタイムを失ったせいもあり、自動的に総合首位へと押し上げられた。
ちなみに序盤4日間をオンで突っ走り、5日目にはオフに切り替えたファンアールトは、6日目には再びオン、7日目にはオフ、そして8日目には改めてオンへ入れる。
つまり第6ステージは、フィニッシュ手前8.6kmの中間ポイントを利用して飛び出し、0秒差ぎりぎりで逃げ切ったマチュー・ビュルゴドーの背後で、区間3位に滑り込んだ。一方で7日目は、他のチームメイトたちにログラの護衛を託し、ワウト自らは早めに後退。意図的に「イージーな1日」を過ごしたという。
その7日目こそがクイーンステージで、道の果てには1級テュリニ峠が立ちはだかっていた。そして15kmもの長い山道だからこそ、タイムトライアルの要領で、デニスが黙々とハイペースを刻んだ。まさに2020年ジロで、テイオ・ゲイガンハートの総合優勝に尽くした時と同じように。残り7kmでのアダム・イェーツの攻撃をきっかけに、総合勢が直接対決を繰り広げるその瞬間まで。
アダムに続いて、動いたのはナイロ・キンタナだった。すかさずログリッチも反応。アダムの同僚ダニエル・マルティネスが当然チェックに入り、さらにはイェーツ兄弟のもう1人、サイモンも粘り強く追いついてきた。つまり最終的な総合トップ5が一堂に介した。また攻撃の起点となったアダムが脱落した後は、今大会新人賞のジョアン・アルメイダが、じりじりと追い上げてきた。
ただ、やはり、最後を締めくくったのはログリッチ。得意の爆発力で、山頂スプリントを鮮やかにさらい取った。今季レース9日目にして手にした、待望の2022年初勝利だった。ボーナスタイム10秒もきっちり積み上げ、2位サイモン・イェーツとの差を前日までの39秒から47秒へと広げた。
「明日が問題?最終日はいつだって問題なのさ。天候は最高じゃなさそうだし、道はとてつもなく難解だ。とにかくアップダウンの連続だからね」(ログリッチ)
1年前は最終日の朝を52秒リードの総合首位で迎えながら、区間を終えた時には、2分16秒遅れの総合15位に陥落していた。そんなログリッチのために、2022年パリ〜ニース最終日は、ワウトが100%を捧げた。スタート直後からあまりに飛ばしすぎたものだから、逃げ集団さえできなかった!
残り50km、マルティネスが攻撃に転じると、ファンアールトは素早く穴を埋めた。そこにキンタナとサイモン・イェーツが追いつき、5人の先頭集団が出来上がると、グランツール総合通算6勝の男たちをまとめてファンアールトが牽引した。
ファンアールトに支えられて走るログリッチ
残念ながらパンクで脱落したマルティネスは、このワウトの引く先頭集団に、2度と追いつくことができなかった。今大会最後の山岳、エズ峠でキンタナが3度の加速を切っても、ワウトを千切ることなど不可能だった。残り19kmでサイモンが切れ味鋭いアタックで飛び立つと、さすがに一瞬脱落しかけたけれど……すぐにログラのもとへと駆け上がり、喘ぎ苦しむエースを懸命に引いた。キンタナさえ力尽きる過酷な状況下で、ファンアールトは、ログラを支え続けた。
「総合首位を守るためにひたすらコントロールに徹した。予想よりも難しかったね。どうやらプリモシュの調子は最高ではなかったから、僕が、フィニッシュまで彼を連れて行かなきゃならないと考えて、集中し続けた」(ファンアールト)
エズの山頂で、サイモンとログリッチ&ファンアールトとの差は23秒。今大会最後のフィニッシュラインまでは15.3km。やはり最終日に逆転負けを喫した経験のあるサイモンは、テクニカルな下りを果敢に攻めた。一方でワウトは安全に、しかし高速で、ログリッチをニースまで連れ帰った。自らの区間勝利にはわずか9秒足りなかったけれど、同僚の総合首位保守には十分すぎるほどのタイムだった。ログリッチが総合29秒差で、黄色いジャージをとうとう自宅へと持ち帰った。
「英国人の散歩道」で両手を上げた英国人サイモンは、4年ぶり2度目の総合2位で終えた。高い攻撃力を披露しながら、不運に泣いたマルティネスは総合3位に、イネオスのチームメートにしてサイモンの兄弟アダムは4位に入った。
プロトン内でインフルエンザが流行し、パリを走り出した154人のうち、ニースまでたどり着けたのはわずか59人だった。新型コロナウイルス禍で不出場・チーム撤退が相次いだ2020年大会の61人よりも、完走者は少なかった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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