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【Cycle*2022 ティレーノ~アドリアティコ:レビュー】走るたびに強くなり、走るたびに勝つ。2年連続大会制覇のポガチャル「今後も新しい挑戦のつもりで走っていく」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか大会連覇のタデイ・ポガチャル
軽々と。楽しそうに。まるで向こう見ずの子供のようでありながら、それでいて周到に。タデイ・ポガチャルがまたしてもすべてを上回った。2年連続でティレーノ〜アドリアティコ総合制覇を成し遂げ、2022年春を、絶好調のままに突っ走る。
「もしかしたら僕は無敵のように見えるかもしれない。でも、そんなことはない。ただ今まではすべてが上手く行った。今後もあらゆるレースを、新しい挑戦のつもりで走っていく」(ポガチャル)
白い道を50km独走で勝ち取ったわずか2日後、13.9kmの開幕個人タイムトライアルで、ポガチャルは3位につけた。同種目で世界選2連覇のフィリッポ・ガンナに対する遅れは、たったの18秒。ティレニア海岸を突っ走る一本道で、TT巧者にして総合ライバルと目されたレムコ・エヴェネプールには、7秒しかリードを許さなかった。
ちなみに22歳のベルギー人は「ポガチャルに15秒差はつけられたはず」だったと語り、23歳のスロベニア人は「20秒くらいは失っても大丈夫」と自らに許可を与えていたとのこと。
続く2つのステージは、予定通りに大集団スプリントで締めくくられた。それぞれティム・メルリールとカレブ・ユアンが力の証明を果たした一方で、ポガチャルは1秒たりとも無駄にはしなかった。大会2日目には、最後まで逃げた2人の背後で、中間ボーナスタイム1秒を果敢に獲りに行った。続く第3ステージは隊列を組み上げて逃げを吸収すると、チームメートのマルク・ソレルと共に加速し、中間3秒を収集。ステージレースでは初めての直接対決となるエヴェネプールからの遅れを、3秒差へと詰めた。
それどころか同時に飛び出した世界王者ジュリアン・アラフィリップや、後に追いついてきたテイオ・ゲイガンハートと共に、大胆に逃げ切りさえ企てた!流石にスプリンターチームが見逃してくれるはずもなく、ポガチャルの平地への勢力拡大はいまだお預けのまま。
海色のジャージは、4日目にあっさり手に入れた。終盤に急坂を3回登るコース上では、逃げた20歳クイン・シモンズが山岳ポイントを勢力的に収集し、後方メイン集団ではポガチャルのために、UAEチームエミレーツの仲間たちが黙々と集団制御に励んだ。
3回目の、つまりフィニッシュへと続く坂道に入ると、脚自慢たちは小さなジャブと駆け引きを繰り返す。エヴェネプールもまた、急速な加速を試みた。しかし、残り1kmを切り、昨ジロ区間勝利で自信をつけたヴィクトル・ラフェが攻撃に転じると……すかさずポガチャル自らが穴を埋めに走り、さらには残り450mで先頭に躍り出た。爆発的な速度で坂道を駆け上がるツール・ド・フランス王者の横に、誰一人並ぶことはできなかった。
アタックするポガチャル
「調子は良かった。それに僕のチームメートたちが、向かい風の中、1日中ハードに牽引してくれたから、それに報いなきゃと思ったんだ」(ポガチャル)
2位ヨナス・ヴィンゲゴーや4位エヴェネプールに、ペダルでつけたタイム差はわずか2秒。ただ区間勝者のボーナスタイム10秒も手に入れ、総合首位に立つには十分だった。エヴェネプールを総合で9秒、ヴィンゲゴーを45秒突き放し、ポガチャルがリーダージャージを身にまとった。
そして、もう2度と、ポガチャルが青い衣を脱ぐことはなかった。5日目のエヴェネプールは、たしかに剥ぎ取ろうと試みた。2日連続で逃げたワレン・バルギルが、イタリアの地での初勝利へと突き進んでいる背後で、残り8kmで仕掛けたのだ。
反応できたのはポガチャルとヴィンゲゴーだけ。3人は猛スピードで先を急いだ。ところが、右折して最後の上りへと入るべきところを……3人は直進してしまう。しかもポガチャルとヴィンゲゴーは素早くUターンで正しい道へと引き返したが、先頭を走っていたエヴェネプールは、折り返してからの集団復帰に手間取った。2秒先んじてフィニッシュしたリッチー・ポート以外の総合ライバルから、タイムを失わなかったことだけが、不幸中の幸いだった。
「レムコが強いことは分かってる。だけど山でどれだけ走れるのか分からない」。こう開幕前に語っていたポガチャルは、第6ステージでその答えの一部を知ることになる。なにより、自らが山で最強であることを、嫌と言うほど見せつけた。
レース最終盤に超級カルペーニャを2回よじ登るこの日、シモンズは山岳ポイント収集で緑ジャージを確保し、「エヴェネプールのために働く」と宣言していたアラフィリップは、逃げに乗った。ところが世界チャンピオンは、前待ち作戦を発動するどころか、早々に後方へと呼び戻されることになる。UAEの刻むテンポに苦しみ、超級の1回目の登りで、エヴェネプールが遅れ始めてしまったからだ。
レース後に子どもを抱き抱えるヴィンゲゴー
神童が後退していく一方で、32歳ミケル・ランダは、下りでも、平地でも、2回目の登坂でも、強烈な揺さぶりをかけた。元ジロ総合3位の猛攻に、ただ昨ツールのトップ2、ポガチャルとヴィンゲゴーだけが背中に張り付いた。ブエルタ総合2位×2回のエンリク・マスも後に続いた。一昨秋にポガチャルと共にツール表彰台に上がったポートも、粘り強く追いついた。稀代の山岳王マルコ・パンターニが愛した山は、すでにグランツールで実力を証明してきた数少ない強豪だけを、あぶり出した。
最後の1人に選び出されたのは、やはりポガチャルだった。残り16km。ランダの加速を、まるで発射台代わりに飛び出すと、いまだ雪の残る山頂へ向かって独走を開始した。
「チームが素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、最後の山に入った時、脚の調子は最高だった。だから自分のペースで山頂まで行こうと考えたんだ。全力を尽くした。暖かさを保つためにもね……だってすごく寒かったから」(ポガチャル)
後方のライバルたちは追走の足並みが揃わなかった。ヴィンゲゴーとランダはいがみ合い、マスは下りで落車。ちょうど1週間ぶりの逃避行に乗り出したポガチャルは、悠々と、着々と、ただ差を広げていった。
最終的には区間2位以下に1分03秒差をつけて、ポガチャルは今大会2つ目のステージ勝利をつかみ取った。最終ステージでは、前夜に願ったようにチームメートのパスカル・アッカーマンが両手を上げることはなかったけれど――熾烈な最終スプリントはフィル・バウハウスがもぎ取った――、アドリア海岸で、2年連続のティレーノ〜アドリアティコ制覇を楽しんだ。
悔しい結果に終わったエヴェネプール
またエースに指名され「プレッシャーも感じていた」というヴィンゲゴーは、1分52秒遅れの総合2位で実力を再証明した。ランダは2年連続3位で終えた。エヴェネプールは4分20秒遅れの総合11位。完走したステージレースの中では、3年ぶりのトップ10圏外に沈んだ。
走るたびに強くなり、走るたびに勝つ。そんなポガチャルは今季15日間出走し、早くも7勝目を手に入れた(ステージ4、ワンデー1、総合2位)。また複数のジャージを独占するのはいつものことで、1年前のティレーノが青(総合)・緑(山岳)・白(新人)だったのだとしたら、今年は青・チクラミーノ(ポイント)・白を持ち帰った。
大会が閉幕する前から、すでに欧州自転車界は、ポガチャルが「ミラノ〜サンレモはどこでアタックするのか?」の話題で持ちきりだ。フィニッシュ20km手前のチプレッサ?それとも150km手前のトゥルキーノ?
「サンレモと今大会とは勝手が違う。サンレモはスプリンターでもクライマーでも勝てる。だから完走するのは最も簡単かもしれないけれど、勝とうと思ったら、最も難しいレースなんだ」(ポガチャル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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