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サイクル ロードレース コラム 2022年3月7日

【Cycle*2022 ストラーデ・ビアンケ:レビュー】50kmもの独走を成功させたポガチャルが空前絶後の快挙を達成「もはや後戻りはできなかった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】

ストラーデ・ビアンケ|Cycle*2022

まさに記念碑的快挙。50kmもの独走を成功させて、タデイ・ポガチャルが2022年ストラーデ・ビアンケを勝ち取った。どこか往年のチャンピオンのやり方を思わせるような、それでいて現代の若者らしい溌剌さで、白き道を制圧した。

「素晴らしい勝利だよ。早めに飛び出したせいで、ラスト5kmまで、本当に勝てるかどうか確信が持てなかった。フィニッシュラインまで100%を尽くした」(ポガチャル)

お天気には恵まれたが、風は強く冷たかった。スタート直後に9選手が逃げ出しても、立て続けに襲いかかる未舗装路と、この突風のせいで、プロトンに静かな時間など決して訪れなかった。

そしてフィニッシュまで残り100km、全部で11ある未舗装セクターの、5番目で、とてつもない大落車が発生する。

横風に押された選手に車輪をさらわれて、前から2列目につけていたジュリアン・アラフィリップが空中へと吹き飛ばされた。下りでスピードが上がっていたせいで、後方の選手たちに反応する時間はなかった。次々と選手がなぎ倒され、集団は木っ端微塵。足止めを喰らわず、難を逃れられたのはわずか5人程度。アラフィリップのすぐ後ろにいたポガチャルやアレハンドロ・バルベルデも、やはり地面に突き落とされた。

2018年大会を制したティシュ・ベノートを筆頭に、エース格のマイケル・マシューズやマテイ・モホリッチが棄権を余儀なくされたが、幸いにもポガチャルはすぐにメイン集団へと復帰した。一方で背中を強く打ち付けた上に、野原に放り出されたアラフィリップは、再スタートに時間を要した。一時は集団から2分近い遅れさえ喫した。チームメート2人の献身のおかげで、ようやく大きな集団に追いついたのは、25km近い追走の果てだった。

驚くことに、世界チャンピオンは、決してその後も休まなかった。すぐにプロトン前方へと競り上がると、勢力的にレースを先導した。第8セクターで朝からの逃げが1人残らず吸収されると、集団に揺さぶりさえかけた。

1年前は、やはり第8セクターで、アラフィリップは攻撃に転じている。大きな加速で集団を粉砕し、先頭集団を8人に絞り込んだ。一方の今年は、まるでライバルたちの調子を試すかのように、2度、小さ浮く加速した。

その2度目に応えたのがポガチャルだった。さらには、直後に道が下り始めると……すかさず自らが先頭を奪った。やはり大きな加速を切ったわけではない。しかし小砂利混ざりの下り坂で、じわり、じわりと他選手との距離を開けていく。アラフィリップが慌てて穴を埋めに走るも、ぎりぎりで埋まらない。

独走するポガチャル

独走するポガチャル

フィニッシュまで残り50km、こうしてポガチャルは独走態勢へと持ち込んだ。

「簡単なレースではなかった。本当に苦しんだ。アタックした10分後に、これはもしかしたら良いアイディアではなかったのかもしれない、とも考えた。でもタイム差は開いていき、もはや後戻りはできなかった」(ポガチャル)

ただカルロス・ロドリゲスだけが単独で追走を試みたが、やはり差は広がっていくばかり。10km先でロドリゲスに約30秒、メイン集団には約1分10秒のリードを奪った。さらに10km先では、ロドリゲスは約1分差に遠ざかった。残り25km地点で、21歳の若者がついに追走集団に飲み込まれた一方で、23歳のツール・ド・フランス現役王者は、1分半差をつけ前方へと突き進んでいた。

後方のライバルたちも単に手をこまねいていたわけではない。もはや勝負する体力を残していなかった2019年大会王者のアラフィリップは、ウルフパックの仲間カスパー・アスグリーンのため、勢力的に前を引いた。1年前は最後の勝負グループに残りながらも、パンクで脱落した20歳クイン・シモンズのために、トレック・セガフレードの面々も懸命に働いたし、41歳バルベルデを支えるモビスター軍団も凄まじい牽引を行った。

約1分差に追い詰めた9番目のグラベルゾーンで、シモンズがついに自ら動いた。アスグリーンがすぐさま反応し、ティム・ウェレンスとジョナタン・ナルバエス、さらにはバルベルデも後に続く。残り22kmで出来上がった5人の追走は、すでに25km以上も1人で逃げ続けているポガチャルとのタイム差を、しかし思うように縮めることが出来ない。

残り19km、10番目の未舗装セクターでは、アスグリーンが単独の追走に切り替えた。さらには今レース最後の白い道で、急坂を利用してバルベルデが加速すると、残り11kmでアスグリーンと合流。つまりリエージュ4勝+ツール・デ・フランドル1勝=モニュメント計5勝の2人が、リエージュ1勝+イル・ロンバルディア1勝のポガチャルを追いかけた。

「後ろをしょっちゅう振り返っては、他の選手が追いついてこないか確かめた。本当に緊迫していた。最終盤はエネルギーがどんどん低下していって、なんとか最後まで生き残った」(ポガチャル)

ポガチャルは補給をこまめに取ることを忘れなかったし、サドルの上では幾度もストレッチを繰り返した。集中力を切らさず、急カーブも冷静に対処した。残り1km、シエナの旧市街の麓にたどり着いた時、いまだ55秒もの余裕を有していた。それでも最大16%の坂道で、7度、ポガチャルは後ろを振り向いた。

ひどく大胆に、しかし用心深く、ポガチャルは栄光へとたどり着いた。大好きでたまらないというストラーデ・ビアンケを、4度目の挑戦でついに我がものとした。

ちなみに今年で開催16回目と、歴史の浅いクラシックで、50kmもの独走が成功したのは初めて。これまでの最長記録は第1回大会の20kmで、過去3度大会を制し、しかもポガチャルがアタックを打った第8ゾーンに自らの名を冠するファビアン・カンチェッラーラでさえ、パリ〜ルーベの50km爆走勝利はあるものの……ストラーデ・ビアンケでは12kmの独走勝利が最高だった。またグランツール覇者が、ストラーデ・ビアンケの勝利者リストに名を連ねるのも、大会史上初。つまり史上2番目に若いツール覇者だとか、エディ・メルクスに次ぐツールとモニュメント同年制覇だとか、どうしても自転車界は過去の偉人と比べがちではあるけれど、この日に限ってはポガチャルは空前絶後の快挙を成し遂げた。

レース後にポガチャルと抱擁するバルベルデ

レース後にポガチャルと抱擁するバルベルデ

2位には37秒差でバルベルデが飛び込んだ。来る4月25日で42歳になる大ベテランは、ヨープ・ズートメルクが40歳で打ち立てた「最年長クラシック覇者」には届かなかった。しかしピノ・チェラミが保持していた「最年長クラシック表彰台」は更新。もっとも本人にとっては「ポガチャルに次ぐ2位は勝利に等しい」成功であり、7度目にして人生最後の白い道巡りを、笑顔で締めくくった。

46秒遅れの3位アスグリーンもやはり、「将来の勝利に向けた第一歩」と前向きに成績をとらえた。また最終盤のアタックで飛び出したアッティラ・ヴァルテルとペリョ・ビルバオが、それぞれ4位と5位に食い込んだ。

そしてストラーデ・ビアンケの主役たちは、少々慌ただしくティレーノ〜アドリアティコへと走り出す。例年ならば3日間の休息の後に「2つの海のレース」は開幕するが、2022年はわずか1日しか体を休める余裕はない。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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