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【Cycle*2022 UAEツアー:レビュー】チーム本拠でタイトル獲得のビッグミッション達成。ポガチャルが個人総合2連覇で最高のシーズンイン
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介総合優勝のタデイ・ポガチャル
彼らのタスクはタイトルを防衛することだけだった。
全7ステージで争われたUAEツアーは、2月26日に閉幕。スプリント、タイムトライアル、山岳と、ステージレースに必要な要素を盛り込んだオールラウンドなレースは、昨年に続いてホームチームのUAEチームエミレーツが席巻。スーパーエースのタデイ・ポガチャルは個人総合2連覇を達成し、シーズン最初の大事なミッションを遂行させた。
ポガチャルにとっても、チームにとっても2年前の苦い記憶は忘れていない。UAEの国家プロジェクトとしてビッグチームへの加速度を増していた時期だったが、頂点まであと一歩届かなかった。当時21歳だったポガチャルが名峰ジェベル・ハフィートで勝ったことがせめてもの救いだったが、表彰台の一番高いところに立つことはできなかった。あの悔しさを糧に、5カ月後にはツール・ド・フランスを勝つまでになった。
だからこそ、負けるわけにはいかなくなった。2年前に立ちはだかったアダム・イェーツとの争いは、もはやこのツアーには欠かせないものとなったが、昨年、そして今年と前を譲ることはなかった。第4ステージのジェベル・ジャイスも、最終・第7ステージのジェベル・ハフィートも、彼に付け入るスキを与えず。それも、フィニッシュ前数百メートルだけ“本気”を出せば1位でフィニッシュできるほどに、ポガチャルの力はプロトン内で飛びぬけたものになった。
ポガチャルの負担を軽減させ、山頂フィニッシュ前でのアタックをお膳立てしたアシスト陣の充実ぶりも光った。今季移籍加入したジョージ・ベネットが山の上り口からペーシングを図ると、フィニッシュまで7~8km残したタイミングからはラファウ・マイカが一段階も二段階もシフトアップ。ここで集団を破壊させると、最終盤の状況整備をジョアン・アルメイダが担当。2つの山岳ステージでは最後の5kmでライバルのアタックが乱発したが、この山岳アシストたちが落ち着いて対処したことで、ポガチャルは仕掛けるタイミングを最後の最後まで待てたのだった。
最終ステージも制したポガチャル(写真中央)
もっとも、このチームの戦力を語るうえで、これまではポガチャルを支える山岳アシストの手薄さを指摘する声が大なり小なり聞かれていた。しかし、今大会で貢献度の高かったベネットやアルメイダがチームに加わったことで、その問題も解消されそうだ。特に、この大会はチームにとってツールと並ぶ最重要レースとあり、他チームとは比較にならないほどのベスト布陣だった。その意味では、先々のビッグレースでも彼らがポガチャルを支える役目を担うものと捉えて良いだろう。
「このチームには山岳ステージでレースをコントロールできるだけの十分な力があると思っている」とポガチャル。ツールとブエルタ・ア・エスパーニャのグランツール2冠を目指す今年、これ以上ないシーズンのスタートをUAEで成功させた。続くシナリオは、ストラーデ・ビアンケ、ティレーノ~アドリアティコ、ミラノ~サンレモとなる。
何も、主役はポガチャルだけではない。中東レース名物のスプリントでは、アルペシン・フェニックスが送り込んだヤスパー・フィリプセンがステージ2勝。大会序盤2日間はリーダージャージを着て、最終的にはポイント賞を文句なしで獲得。かつてはUAEチームエミレーツで2年間走っていたことから、「いつも出場したいと思っているし、個人的には結果を求めたいレースなんだ」。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、第2ステージでチームごと撤退。今年はナンバーワンスプリンターの称号をしっかりゲットして、リベンジを果たしている。
UAEツアーでは砂漠での強風がレースの流れを左右することが多いが、奇跡的に今年はそんな局面がなかった。一時的に集団が割れることはあっても、個人総合やステージ争いに影響するほどまでは至らず。一方で、第6ステージではスプリント勝負との大方の予想を覆して5選手が大逃げに成功。勝ったガズプロム・ルスヴェロのマティアス・ヴァチェクは、これまでペーター・サガンが保持していた20歳43日を上回る、19歳258日でUCIワールドツアー史上最年少優勝者の記録を更新した。
新型コロナウイルスによる世界的な感染拡大は今なお続き、さらにはロシアによるウクライナ侵攻の話題も世間をにぎわせている。心配なニュースが後を絶たないが、そんな中でもあらゆる対策を施したうえでレースシーンは進んでいく。本記執筆時点で今大会とオンループ・ヘットニュースブラッドを終えたUCIワールドツアーは、3月からイタリア・フランス・スペインと戦いの舞台を広げていく。そこにはどんなドラマが待ち受けているのだろうか。楽しみはまだまだこれからである。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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