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優勝候補ナンバー1のヴィノクロフが、第5ステージ終盤に落車して負傷した。ツールメディア様一行は、それはもう大騒ぎである。落車後も、翌朝も、チームバスには記者たちが大量に詰め掛けた。バスからギリギリまで降りてこないヴィノクロフの変わりに、スタッフは対応におおわらわ。
この事件を大きく扱った各紙の記事を拾い集めてみよう。
★「結局、ヴィノクロフはアームストロングではないのだ」
(7月13日付 Aujourd'hui紙)
ヴィノクロフの臀部ケガの写真と、クレーデンがベットに横たわって左ひじの治療を受けている写真を大きく掲載。ツール記事4ページのうち、2ページがアスタナを襲った悲劇について裂かれている。
「カザフ人はデリケートな状況をアメリカ人よりも上手く切り抜けることが出来なかった。2003年ギャップへと向かう道で落車したベロキをよけるために、アームストロングが草原をロデオで走り抜けたシーンを忘れた人はおるまい。同じ年、リュズアルディデンへの登りで転んだアームストロングを、ウルリッヒとマヨは待った。(…)昨日のような落車がアームストロングに降りかかった場合、おそらくライバルたちのほうで時間をかけて待ってくれたはずだ」(7月13日付 Aujourd'hui紙より)
★「緊急チームタイムトライアル」
(7月13日付 Le Figaro紙)
チームリーダーを助けるため、水色の集団は一体になって走った。多くの現地メディアが「まるでタイムトライアルみたい」と揶揄している。
「普段は無表情なヴィノクロフが、痛みと苦しみにあえいでいる。下あごをかみ締め、顔は引きつり、ジャージを大きく開け放ち、カザフ人はラインから離れた。時間の経過に打ちのめされながら。1分20秒」(7月13日付 Le Figaro紙)
★「何が起こったか正確にはわからない」
(7月13日付 L'EQUIPE紙)
チームドクターの応急手当を受けた後、ボーヌの病院で本格手当てを受けたヴィノクロフ。救急車で運ばれている間は、奥さまに電話して、そして眠ったそうだ。少し泣いたりもしたようだが……。ボーヌの病院では、両膝、右ひじ、右手の指先をそれぞれ縫った。病院を出たのは23時45分。満面の笑顔で病院を出る写真が掲載されている。
「何が起こったか正確にはわからない。実際、何も特別なことなんか起きなかったんじゃないかと思ってる。だからウンザリなんだよ。明日もペダルをふみ続けなきゃならない。悩むことなんて何もない。他のみんなと同じように自転車に乗る。すごく痛いけれど、痛みに耐える術を知っている。幸いにも、どこも骨折していない。縫い跡が膝の動きをあまり邪魔しないことだけを願いたいね」(7月13日付 L'EQUIPE紙よりヴィノクロフインタビュー)
やはり7月13日付けのLiberationでは、ヴィノクロフは朝食に鶏の丸焼き3羽を食べ、素手で熊を退治するほどの猛者だから大丈夫、なんて冗談調の記事が長々と書いてあった。そして落車の翌日、第6ステージ、ヴィノクロフはボーネンと同タイムの160位でゴールに到着している。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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