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戦いも2週目、ブエルタ一行がピレネー山脈へ突入した。開幕時よりも8人少ない181選手が難関山岳ステージへと挑んだが、この日だけで4選手が脱落してしまった。特に残念だったのは、1週間前のガリシアでは地元ヒーローとして大歓迎を受けたオスカル・ペレイロ(ケースデパーニュ)のリタイア。数日前から病気に苦しんでいた2006年ツール総合2位は、補給地点で自転車を降りた。また長らく腰痛に苦しみ、昨年のジロ以来となるグランツール復帰を果たしたブラドリー・マックギー(フランセーズデジュー)もコース途中で戦いを終えている。
不調選手たちのリタイアを早めたのは、ステージ序盤の予想以上に速い走行スピードかもしれない。スタート直後から熾烈なアタック合戦が始まったせいか、最初の1時間目の走行時速は41.1km。スタートから23.7km地点の2級峠までほぼ登り坂というコース設定を考えると、これはかなりの速さだ。そして20km地点を過ぎた頃に、13人のエスケープ集団が形成された。
山岳ジャージのセラフィン・マルティネス(カルピン・ガリシア)が、山岳ポイント収集のために今大会3度目の逃げに参加していたが、むしろプロトンが恐れたのはホセアンヘル・ゴメスマルチャンテ(サウニエルドゥバル)の存在。前日のタイムトライアルで大きく総合争いから後退したとはいえ(6分31秒差の17位)、昨季バスク一周を勝ち取っているだけに、山岳で決して油断の出来ない選手だ。こうして後方ではマイヨ・オロのステイン・デヴォルデル擁するディスカバリーチャンネルと、総合2位デニス・メンショフを抱えるラボバンクが、プロトン先頭に立ってタイム差をうまくコントロールした。
だからこそ最終超級峠セルレルへの登り口で、先頭集団とプロトンの差はわずか45秒に縮まっていた。そして瞬く間に集団はひとつになり、先頭の再編成がなされる。このとき、最初に“ふるい”の役割を果たしたのは、第4ステージ同様イニーゴ・クエスタ(チームCSC)。恐るべき加速で先頭は一気に15人程度に絞り込まれ、そこで早くもマイヨ・オロが犠牲に。チームメイトの助けを得てデヴォルデルは最後まで奮闘し続けたが、最終的には総合首位から6位へと陥落してしまった。またゴメスマルチャンテも前半の奮闘がたたり、タイムを縮めるどころか、総合で12分40秒差までタイムを開いてしまった。
先頭集団が大きく分断したのは、クエスタが静かに仕事を終えたゴール前7km。それを合図にリーダーのカルロス・サストレ(チームCSC)が加速を仕掛けたが、さらに大きな一発をレオナルド・ピエポリ(サウニエルドゥバル)が決める。そして今ジロの山岳王についていけたのはメンショフだけだった。遅れをとったサストレは、エセキエル・モスケーラ(カルピン・ガリシア)と共に追いかけるが、ステージを取りたいピエポリと総合首位が欲しいメンショフの協力体制は固く、10秒程度の差がどうしても埋められない。結局、ゴール地点でサストレは16秒を失っていた。
総合争いにはまったく興味がない、タイムトライアルは4分失おうが6分失おうが関係ない、ブエルタには山岳ステージで優勝するために来ているんだ——。こうあらかじめ宣言していたピエポリは、その言葉通りに前日のタイムトライアルでは7分半近く遅れをとったが、こうして山頂フィニッシュを確実に勝ち取った。ブエルタ・ア・アラゴンで過去3度(2000・2002・2003年)も制している得意のセルレル峠で、おへそを出すほどバンザイをして。
またメンショフはマイヨ・オロと複合賞をダブルで獲得。ドーピング問題による繰上げで2005年ブエルタを勝ち取ったメンショフが、レース中に黄金ジャージを着て走るのは2005年第15ステージ以来となる(同ステージ後にエラスに首位を奪われた)。
デニス・メンショフ(ラボバンク) ステージ2位、マイヨ・オロ、コンビネーション賞獲得
今大会は調子も良いし、成績も付いて来ている。だけど、僕が最有力候補だなんて言う事は出来ない。まだまだ沢山ステージが残っているし、山頂ゴールもまだ2つのステージが終わっただけだからね。今大会を通して言えることだけど、今日もチームの仲間の走りは良かったと思う。これからもチームとして、そして個人として持てる力を発揮して行きたい。今日は、総合1位を狙って走ったわけじゃない。マイヨ・オロを着ていたデヴォルデルが今日どういう走りをするのかを確認しながら進めて行くことに主眼を置いていたんだ。彼が今大会調子が良いのは分かっていたけど、首位に立ってからどういう走りをするのかを見たかったんだ。これから!?出来るだけベストの走りでタイムを失わないよう努めることだね。まだまだ戦いは続く。いつも調子が良いとは限らない。人間だから、色々起こり得るからね。
レオナルド・ピエポリ(サウニエルドゥバル・プロディール) ステージ優勝
メンショフと協定を結んだんじゃないかって!?はっはっは!確かにそう言われても不思議じゃないかもな。メンショフは総合優勝を狙っている男だ。一つ一つのステージの順位が重要なわけじゃないからな。それに、(総合優勝争いの)ライバルに勝たれるよりもずっとましだろう。現に俺達は友達だしな。俺も総合を狙えるんじゃないかって!?よしてくれよ、俺はもう若くないんだ。総合争いなんてもんに加わることは出来ねえよ。俺にとって重要なのは一つ一つのステージだ。ここ数年はそう思って走ってきた。そう考えることによって、ここまでやって来られたんだ。今日だってその成果さ。そうやって一つ一つのステージに勝機を見出していく。そういう走りが俺には合っているんだ。
オスカル・ペレイロ(ケースデパーニュ) (胃腸炎の為、リタイア)
誰だってリタイアはしたくない。僕もここまで9つの厳しいコースを走ってきた。だけど今日は序盤の段階で力が入らなくなり、精神的にもダウンしていた。これが僕にとっては初めてのリタイアとなってしまった。辛いけど、今回は止めるのが懸命だと判断した。今回のブエルタに向けて意気込み一杯で臨んだだけに、とても残念だ。体調が悪く、ここ数日はろくに眠ることすら出来ていなかった。僕にとっては大きな落胆だけど、人生は続いて行く。それに今回は出来る限りの事はしてきたつもりだし、それだけに悔いは無い。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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