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非常に短い20kmの個人タイムトライアルに込められた区間争いと、2007年ブエルタ最後の表彰台争い。ただし前ステージ終了時点で総合2位以下に3分02秒差をつけていたデニス・メンショフ(ラボバンク)の、マイヨ・オロはほぼ決定と見られていた。
それに対して総合2位から4位の3選手は56秒以内でひしめいていた。総合2位カルロス・サストレ(チームCSC)と3位カデル・エヴァンス(プレディクトール)のタイム差は47秒。TT得意のエヴァンスがもしもいい走りを見せれば、TT苦手のサストレとのタイム差をひっくり返して再び2位に返り咲く可能性は十分にあった。そしてさらに僅差だったのが3位と4位サムエル・サンチェス(エウスカルテル)の9秒差。前日の区間優勝で一気に表彰台へと近づいたサンチェスは、オフ期間の風洞練習でタイムトライアル技術を大幅に強化してきた。しかも今季のバスク一周では24kmの個人TTで優勝を果たし、練習の成果を実践で発揮。ツールの疲れの残るエヴァンスを、表彰台から引きずり下ろす準備はできていた。
雲が多く、時折雨粒が落ちてくる不安定な空模様の中、145選手が次々とスタートを切った。まず開始から1時間後、暫定トップに立っていたのはマニュス・バクステッド(リクイガス)。さらに1時間後にはサントス・ゴンザレス(カルピン・ガリシア)が仮首位の座に着き、その数十分後にはオランダTTチャンピオンのステフ・クレメント(ブイグテレコム)が入れ替わった。
そのクレメントのタイムを、一番最初に上回り、そのまま区間優勝も勝ち取ったのが最後から4番目にスタートしたサンチェス。前夜は表彰台に向けて前向きなな気持ちになれず、さらに最初数キロは「ものすごくナーバスになっていたんだ」というが、後半に向けて快調にスピードを速めて行く。気になる次走エヴァンスとのタイム差も7kmの第1計測地点で5秒に縮め、15km地点ではついに立場を逆転する。そしてゴール地ではエヴァンスを区間19秒、つまり総合で10秒上回ることに成功。前日はサストレがエヴァンスを総合2位から3位へ引きずり落としが、この日はサンチェスがエヴァンスを総合3位から4位へと突き落とした。
あまりの快速に、すわ、総合2位もありえるか!?と地元メディアは騒ぎ立てたが、さすがにサストレとの56秒差を一気に逆転することは叶わなかった。それでも41秒縮めて2位までわずか15秒。この日もサンチェスに次ぐ区間2位でゴールしたメンショフは、2位以下との差をさらに広げて3分31秒にしたが、一方で2位から4位までのタイム差は“25秒”と、スタート前よりもさらに僅差になってしまった。ただし翌日はマドリードへの帰還。3週間共に競い合った3選手は、静かにレースを終えるに違いない。
レース後、メンショフが総合優勝記者会見をしている真っ最中に、突然、空をひっくり返したような大雨が振り出す。雨音の中で、「人生最高の瞬間かどうか分からないけど、キャリアでは最も大切な勝利だ」と語る2007年ブエルタ勝者。相変わらず少し無表情ではあるが、これがメンショフなりの喜びの表現なのだろう。
サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)
ステージ優勝、総合3位
いやぁ、まずは一言。とてもとてもとても満足している!第一の目的が表彰台に上ることだっただけに、本当に嬉しいよ。もちろん、もっと上の段を踏めればもっと良かったんだけどね。
今日のタイム・トライアルのコースは良く分かっていたし、とにかく最初からガンガン行くことに決めていた。絶対に守りに入りたくはなかった。多少の坂があることも知っていたけど、とにかく踏み込むペダルに全身全霊を込めた。僕はカデル・エヴァンスのようにタイム・トライアルのスペシャリストじゃない。僕の唯一の戦略はとにかく余力を残す事無く、攻めて行こうということだった。エヴァンスもそうだったはず。でも、最後の坂道の走りが、彼から表彰台を奪ったかもしれないね。
それから総合2位のカルロス・サストレにはおめでとうと言いたいね。彼はそのポジションに相応しい走りをしていたからね。そしてデニス・メンショフに関しては何も言うことが無いよ。彼は他の選手とは一つ抜けていたね。
カルロス・サストレ(チーム CSC)
ステージ15位、総合2位
この順位に位置することが出来て、とても幸せだ。ここまで来るのに本当に苦労したし、とても苦しんだ。人には分からない苦しみがあった。でもそれを乗り越え、自分自身と戦い、そしてここまで来ることが出来た。ここまで来られたのもチームメートのお陰。彼らに本当に感謝したいし、自分自身も褒めてあげたいね。昨日のアビラでの走りもあったせいか、今日はスタートする時に多くの人達から温かい言葉や熱い声援、そして拍手をもらった。それこそが僕が必要としていたものであり、僕に多くのエネルギーをもたらしてくれたね。
デニス・メンショフは最後まで最強の男だったね。彼は偉大なランナーしか持ち得ない安定感があったね。彼を祝福したいし、彼と共に戦ったチームに賛辞を送りたい。勝者に相応しいチームだった。
デニス・メンショフ(ラボバンク)
ステージ2位、マイヨ・オロ
今回のブエルタは僕にとってこれまでで最も重要な大会となった。2年前に走った時よりも成熟し、より完成したランナーになったことを証明出来たと思う。ツールでは思うように調子が出なくて、チームメートをサポートする役割に変わったし、ある意味不本意だったけど、ブエルタへ向けて体調を整えることに切り替えた。実際ブエルタでは常に良いコンディションをキープすることが出来た。最も調子が良かったのは前半戦で、最初のタイム・トライアルやピレネーの山岳での走りは良いパフォーマンスを出すことが出来た。それがマイヨ・オロを獲得出来たポイントだと思っているし、常に良いコンディションを維持出来たことも勝因だと思う。明日はとにかくチームメートと楽しみながら走りたいね。
今後の目標!?はははっ、まだ先のことは考えていないよ。でも当然一番の目標はツールってことになるだろうね。だけどツールを勝つ為には真の実力に加えて、幸運とベストのコンディションと素晴らしいチームメートが必要になると思う。自分はまだまだだと思っているので、とにかく引き続きトレーニングをして、来シーズンに臨みたいね。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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